第47話 逃げ遅れ

仕事を振られる事を悟ったのか、

ジュリは、仕事が残っておりますのでと言い残し、

さっさと転移していった。


この件に付いては保留しておこう。

と俺は言ったけど、逃げれなかった。


「さて、治水工事は道の整備が済んでから、行う事になりました。」


「あっ、それダメ。

治水工事優先にして。」


「しかし、道の整備が済んでいなければ

護岸への資材の運搬も満足にできません。」


「それはそうだけど、この国はあと一月ほどで雨期に入る。

今年の雨期は荒れる。間違いない。」


長すぎる人生の経験がそう言っている。


「そ、それは………。

仰る通り、治水工事を最優先とします。

それから、農民への通達を急げ。

堀を巡らし、農地への浸水を防げ。

市民へ工事協力者を募れ。

出来るだけ大勢を集めろ。

給金ははずむぞ、元々の必要経費に加算される金など微々たるものだ。

洪水で失うものの方が大きい。

早くしろ!!」


皆が慌しそうに走り回る。

何か急に忙しくなったな。俺のせいかな。ごめん。

この件が片付くまで暇かな、そう思ったけれど違かった。


「実は王達に対しての処罰ですが…………。」


「決まったのか。」


「はい、王と第一王子は処刑。

王達を食い物にしていた大臣達は、

細かく調査後、罪を明らかにしてからの処罰となりますが、

多分処刑か、財産及び爵位剥奪後、国外追放となるでしょう。

命令に背けず、仕方なく行動していた者についてですが、

いくら命令されていたとはいえ、

人に害を及ぼした事には変わり有りません。

国外追放は免れますが、一般人となり、

まぁ、楽な人生を送るとはいかないでしょう。」


「他にまだ何か有るんだろう?」


自信なさげな口調だ。

何か躊躇する事が有るのだろう。


「いえ、その、その命令で仕方なく動いていたと言う奴らの中に、

どう見ても、かなり私腹を肥やしていた大臣が数名おりまして、

これをどう扱えばいいのかと。」


「なるほどね、命令を隠れ蓑としていた訳ね。

言っている事には間違いない。

だから自分は仕方なくやっていたのだから、

極刑に処せられないって訳か。」


「我々は平等を掲げる者の集まりです。

ならばどう処罰していいものかと。」


「ばかか、悪いものは悪い。

最初の視点など無視しろ。

そいつが実際に何をやったのかを確認して処罰しろ。」


仰せのままに…って何。

俺は最高地位にはいないってば。

もう疲れた…。


「それから次王についてですが、

当初イライザ様を女王とし、

後にティモシー様またはエヴァン様が王として立たれる筈でしたが、

大臣の中に、民主主義なる物を目指した方がいいと言うものが出ました。」


俺の無駄話を聞きかじった奴か。


「ふーん、それで?」


「皆が納得すれば、その方向へ転換をする可能性もありますが、

もしそちらになった場合、さらなる知識や、用意に時間が掛かります。」


知識ってもしかして俺の事?

でも、俺の記憶のかけらを聞きかじって、

碌な知識も持たずに民主主義を押すって、

浅はかな欲が出ているんじゃ有りませんか。


「付け焼刃の民主主義は恐ろしい。

民衆に選ばれた者が上に立つと言っても、

所詮力が有る物が選ばれる可能性がとても高い。

国民はそいつらに口先で踊らされて、

いずれそいつは以前の王国と同じになるぞ。」


「そ、それは……。」


「信じる者は救われる。

じゃ、無いんだよ。

儲け重視の名ばかりの宗教と同じだ。

そのうち妄信的にその代表者に肩入れして、

自分の全て、財産や家族まで差し出す者が現れる。

欲を持った代表者は、その益に我を忘れ、更に欲を満たそうとする。

その人から奪った利益を元にしてな。

つまり負の連鎖だ。

だからこそ新しい事を始めるには、

それに賛成する者達の心構えや知識を行き渡らせる必要が有る。

早すぎるんだよ、今のここに民主主義は。」


なるほどと、周りの者が頷く。


「かといって民主主義を否定する訳じゃ無い。

皆が冷静に民主主義を受け止め、

国民全員が政に参加すると言う心構えが出来れば、

人にやさしい国家となる筈だ。」


かといって、それが行われても、

数十年、で廃れる可能性が高いけどな。

結局人は、自分の生活が一番大事なんだから。

民主主義を掲げても、いずれ王国政治と、そう変わらなくなるんだよ。


「で、ではどうすれば…。」


「何にも。

今は、元通りの予定を進めるだけさ。

民主主義だ何だと言うごたくは、国が落ち着いてから考えればいい。」


「了解しました。

彼らの説得は私共の方で行います。」


「多分手の掛かるガキだと思うが、頼む。」


また一つ問題が片付いた…でいいのかな。

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