第27話 ドナルド・オブラエンの顛末 1
「ちょっと旦那、今週分の家賃まだもらっていないんだけど。」
「う、うるさい!誰も払わないとは言っていないだろう。
金なら腐るほど持っているんだ。」
「なら、出し惜しみしないで、さっさと払って下さいよ。」
私はしぶしぶ財布から、今週分の宿代を取り出した。
普通の宿代に比べたらかなり割高だが、今の私にとって仕方がない事だ。
「なにも払うのが嫌なら、さっさと出て行ってもらってもいいんだよ。
しかし、一体何をしたか知らないが、
あんたを兵から匿えるのは、うちの宿ぐらいなんだぜ。」
「匿うだと?ふざけるな!私を誰だと思っている!私は……。」
「あんたが誰だっていいんだよ。
こっちは金さえ払ってくれる奴がお大臣様なんだよ。」
「ちくしょう!」
私は捨て台詞を吐き、宿を飛び出した。
確かにこの宿は、軍部のお偉いさんがバックに付いているらしく。
その人に袖の下を渡しておけば、いくらでも融通を利かせてもらえるらしい。
だからここを飛び出したところで、又舞い戻ってくるのはこの宿しかないのだ。
「くそ、ヴィクトリアさえいたら、こんなみじめな事にはならなかったのに。」
いくら金が有っても、追われる身では表立って行動も出来ない。
早い所、何とかしなければ。
そして俺はいつものように、
妻が営んでいる、総菜屋を見張る為に、こっそりと町へ繰り出した。
あいつを見張っていれば、いつかヴィクトリアはここに現れる筈だ。
そこを捕まえ、また以前のように聖女を演じさせるのだ。
今度はぜったい逃がさない。
あんなに金を生む道具はいないからな。
私は聖女ヴィクトリアを思うように動かせる唯一の人間だ。
そして、この国の表舞台に絶対に返り咲いてやる。
「酷い!酷いですお師匠様。」
約束通り、今日セレスティーナ様の家へを向かうはずだった私の元に,
お師匠様からの手紙が届いた。
『俺はここに留まる。家族水入らずで過ごしたい。お前は自由にしろ。』
何ですって!?
酷過ぎます。
私を捨てて、ご家族とここで暮らすことにしたのですか?
あんなに旅に出たがっていたのに、一晩で一体何があったのですか?
私はもう、泣きそうです。
一刻も早くお師匠様にお会いして、理由を聞かなければ。
宿を出て急ぐ私の前に、一人の男が目に留まった。
お師匠様のいる家から、ほんの少し離れた所。
出店と出店の間の、人一人通れるぐらいの小路に潜んでいる。
いや、当人は隠れてはいるつもりらしいけれど、
こちらからは不審者として丸見えです。
どうやらセレスティーナ様の惣菜店を窺っているようですね。
こやつは一体何者でしょうか?
絶対に怪しいですね。
セレスティーナ様やご子息、
ひいてはお師匠様に害を及ぼす輩でしたら許しておけません。
などと思っていたら、出店の店主らしき人が、
「またあんたかい、
まったくこう毎日のようにやって来られちゃ、こちとら営業妨害なんだよ。
何をしているのか知らないが、よそへ行ってくれないか。」
そうこの男に怒鳴った。
「うるさい。何もお前の店の中に入っている訳でもなし、
とやかく言われる筋合いはないわ。
それとも何か、この小路はお前の持ち物だとでもいうのか。」
「そ、そんな事はない…が、それを言うならあんただって、同じだろうが。
あんたがここを占拠しているから、他の奴らはここを通れず、
あっちの小路に回っているんだ!
この道はおめえのもんじゃねえんだよ!」
「うるさい!大声を出すな!
お前は大人しく、その安っぽい皿でも売っていればいいんだ。
とにかくこれ以上私の邪魔をするなら、後々どうなっても知らないからな。」
「ほう、どうなるというんだい。
大体にして、こう毎日のように、ここに突っ立っているあなた様は、
一体どこのどなたさまでしょうかね。
で、俺が黙らなければいったい何をどうするつもりなんだよ。」
「く、くそ、ヴィクトリアさえ捕まえられれば、
俺はまたあいつの父親として大手を振って歩けるんだ。
その時になって、ほえずらをかくなよ!」
そう言って、その男はその場を離れて、
また別の隠れ場所を探しに行くようですね。
なるほど、あの方はお師匠様の、糞お父上様でしたか。
で、聞くところによると、いまだにお師匠様を狙っているという訳ですね。
なかなかしつこいようです。
またお師匠様を利用して、お金を儲けようとしている訳ですね。
許せません。
此処は私が一肌脱ぎましょう。
そう決めた私は、さっそくドナルド氏の後を追うことにしました。
さて、どうしてやりましょうかね。
今までさんざんお師匠様や、ご家族を苦しめて来たのです。
此処はきっちり責任を取っていただきましょう。
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