第40話 お兄様をお迎えに
「母様、腹減った~。」
俺は家に転移し、母様の姿を見つけて、思わず言ってしまった。
そうじゃ無い、母様は俺の事を心配している筈だ。
ちゃんとごめんしなくちゃ。
「ごめん母様、心配かけた。
すぐに知らせに来ようと思ったんだけど、王達の処遇とか、政治の問題とか、
色々手が離せなくて、なかなかここに来れなかったんだ。
本当にごめんよ。」
それを聞いた母様は、一瞬フリーズしてたけど、
やがて泣きそうな笑顔で俺の方にゆっくり近づいた来た。
「いいのですよ。
あなたさえ無事ならば。
とても忙しいのに、私を安心させる為に知らせに来てくれたのね。
ありがとう。」
そう言いながら、ふわっと俺を抱きしめた………って、ダメじゃん俺。
お母様に対して、全然化けてないし。
「あ、うわ、あり、あ、あの、お、お母様、ご心配かけてすいませんでした。
お、私は……。」
「ふふ、大丈夫ですよ。
それが自然なあなたなのでしょう?
何となく分かっていましたから、そのままでいいのよ。」
わぁお、母様ったら太っ腹。
「ヴィクトリア、お腹が空いているのね。
すぐに朝食の用意をするわね。」
そう言って、母様はすぐにキッチンに向かう。
「母様、そう言えば兄貴は?」
今更取り繕うのも変だし、母様の言葉に甘えさせてもらおう。
「あらいけない、あの子はヴィクトリアを取り戻してくると言って、
夕べからお城に行ってるんだったわ。
どうしましょう。」
ん~~、どうしましょう。
しょうがない、迎えに行ってくるか。
「ちょっと兄貴の所に行ってくるから、
母様はご飯の用意を頼むね。
兄貴の分も。」
そう言って、兄貴の気配を辿り、再び城に転移した。
付いた場所は、城の牢獄だった。
兄貴は一体何をやらかしたんだ?
見ると檻の向こうに、兄貴がうずくまっていた。
「お兄様、お兄様!」
取り合えず、猫を被っておくか。
するとその声に、びくっと肩が震え、兄貴が振り返った。
「ヴィクトリア!良かった無事だったか。」
そう言って俺の方に駆け寄って来る。
「お兄様、牢屋に入れられるなんて、一体何をなさったの?」
興味が有るから、取り合えず聞いてみよう。
「いや、そんなに悪い事はしていないよ。
ただ、城の前でヴィクトリアを返せ、王を出せと言って、
剣を振り回しただけだよ。」
「そんな事をすれば、捕まるのは当たり前ですわ。」
「でも、誰も傷つけてないし、何も壊していない。
それなのに牢に入れるのって、酷くないか?」
いや、普通、捕まるだろう。
とにかく兄貴を連れ帰らなきゃ、朝飯も待っているし。
でも、無断で連れて帰ってもいいのかな。
脱獄犯として、指名手配されても困るし………。
「お兄様、警備兵はどうなさったの?」
そう言えば、兵も看守も見当たらない。
何か有ったのかな。
「それが、皆バタバタした後、何処かに行ってしまって未だに戻って来ない。
何か大きな事件でもあったのかな……。」
はい、有りましたとも。
とにかく腹も減ったし、早く兄貴を連れて帰りたい。
勝手に連れ帰ってもいいのかな。
一応、誰かに断って行けばいいか。
取り合えず俺は、兄貴と牢越しに手を繋いでから、
ジュールの所に転移する事にした。
「おーいジュール~。」
どうやらジュールも仮眠を取っていたらしい。
俺の声を聞きつけ、慌ててソファから飛び起きた。
「これはヴィクトリアさま、お早いお帰りで。」
「違う、ちょっと野暮用が有って、戻っただけだ。
兄貴が牢に入っていたから連れて帰る。
身元は俺が保証するから大丈夫だ。
取り合えずそれだけ。
まだ母様の朝飯も食ってないから、もう一度家に帰るよ。
後の事はもう少し待ってくれ。」
「これは…ジュール様!」
俺がそう言って、兄貴と一緒に帰ろうとすると、
兄貴がジュールの名を呼び、ひざまずく。
「エドモント……。もしかして、お前はヴィクトリア様の兄上か…?」
あっ、お二人とも知り合いだったの?
「は…い、今まで諸事情有りましたので、言っておりませんでした。
申し訳ございません。
確かに私はヴィクトリアの兄でございます。」
「それは、今まで飛んだご無礼を。」
そう言って、ジュールまでもがひざまずこうとする。
話が長くなりそうだなぁ、俺、腹がすごく減っているんだけど。
「ジュール、後で兄貴も連れて来るからさ、
今は飯を食いに行ってくるよ。
母様も待っていると思うんだ。
そろそろ朝飯も出来上がる頃だな………。」
「も、申し訳ございません。
どうぞお帰り下さい。
そして早くお戻りを。」
「早く?」
「ええ、お待ちしておりますので。」
「分かった………”なるべく”早く戻る。」
「ははっ。」
そう言ってジュールはまた、土下座まがいの事をする。
だから~~、俺は神でも王でも無いんだって。
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