第38話 あれこれ 2
俺の言葉ですぐさまイライザが駆け付けた。
楚々とした仕草に、スレンダーで年を感じさせない容姿。
一見すれば、上品なマダムに見えるけれど、
俺の中のイメージが全然違った。
だって、俺のビジョンって、まさに肝っ玉母ちゃんなんだよ。
何でもかんでもドンと来い!って感じ。
「あ~、イライザさん。」
「どうかイライザと。」
やっぱり一見すると、由緒正しき貴族の人って感じだけど、
”何だよ。あたしに何か用でも有んの?”
って聞こえるんだ。
ちょっとジュリと重なる。
混乱するから、できればその化けの皮を脱いでもらいたいけど。
みんなの手前そうもいかないんだろうなぁ。
「大方の事は、ジュール達から聞いた。
俺のやっている事も聞いていると思う。
それで、今はこの国の政についての話し合いをしているんだが、
それに付いては聞いているか?
あっ、それから俺は、単なるアドバイザーだから、あなたの気持ちや本音は、
包み隠さず、ズバッと言ってもいいから。」
このおっかさんは頑固な強者だからな。
化けの皮は何重にもなっていると思うんだ。
下手すりゃ化かされちまう。
「お気遣いありがとうございます。
ただ私は城を出された身、政には無にも携わっておりません。
そんな私がこの場に呼び出されるなど、筋違いかと。」
「また、ま~た。
俺には嘘は通じない。
表面を取り繕っても無駄だよ。」
イライザさんがそこで顔色も表情も変えないのがさすがだね。
まあいいよ。
「ここでちょっと問題が出た。
本来で有れば、第二王子が王として立つのが筋だろうが、
まだ年が若すぎる。
ならばとエヴァンが王として立つ、
もしくは第二王子が成長するまでの代理として政を行う、
そうなるのが普通かも知れないが、ただ、母親の前で言うのは酷かもしれないが、エヴァンはまだその器ではない。」
しかし、それを聞いてもイライザは動揺する様子もなく、
「まあ、そうでしょうね。」
と言う。
すげーわ、この母ちゃん。
「隠せない以上、本音で話しましょう。
確かに私は城を出された、と言うか出たのよ。
熱愛したこの子の父親に、大した身分が無いと反対されたからね。
まあ、彼の死によって、その生活も長くは続かなかったけど、
それでも私は後悔していないわ。」
なるほど、有り得るな。
「でも、弟の事はかわいそうに思うけど、
いつまでも妻の死を引きずるべきでは無いわ。
政治の内情は、ジュール達からの情報が入っていたからそれなりに知っている。
確かにいい状態ではない。
だからと言って、そこから外れた私が口を挟むべきでは無いと思っていた。」
「だけど、目に余るものが多すぎた。」
「そうよ。
お母様が亡くなって、お父様はヘタレになるし、
サイアスは馬鹿な傀儡。
残るティモシーはお子様。
それなら誰が国民を守るの?
利用し苦しめる人ばかりじゃない。
だからと言って政治を引っ繰り返すにしても、今の私はあまりにも無力だわ。
だからこの事を決めても、時間をかけるしかなかったの。」
「そうだよな~、市井のおっかさんが、国を引っ繰り返そうと言うんだ。
かなりの時間と努力がいるよね。」
「幸いにして私には、昔から可愛がってくれたジュール達がいた。
彼達の力を借りねば、もっと時間が掛かったでしょうね。
しかし思いのほか早すぎたのか、
王にと考えていたエヴァンが、まだ仕上らなかったの。」
人の成長を”仕上げる”って言うなよ。
まあ、確かにそうなんだろうけど。
当のエヴァンも、その覚悟が有ったのか、母の言葉を素直に受け取っていた。
「悪いが俺もそう思う。
このまま真面目に精進し、真直ぐに進むなら、王としての資質は有るだろう。
だが任せるのはまだ駄目だ。
手本となる者が必要だろうし、経験も必要だ。
それでだ、あなたにではなく、皆に一つ提案がある。」
「何なりと、あなた様に従いましょう。」
俺の言葉を聞いたジュールが畏まる。
「だーかーら、俺はアドバイザーだってば。
俺がするのは提案だ。
お前達はそれを聞いて、先の事を検討するべきだろう?」
「しかし…。」
もういいや、
「皆にも考えが有るかもしれない、
だからこれは、そのうちの一つと思ってほしい。
俺はこのイライザさんが女王として立つのが相応しいと思う。
彼女が女として生まれたのが惜しい程、王として相応しい。」
「あら、私は女として生まれた事に、満足しておりますわ。」
「上げ足とるなよ、あんただってこの国の現状を腹立たしく思ってるんだろう?
誰よりも猛烈に。」
「それはそうですとも。
自分の血を分けた身内が、人々を苦しめているんですからね。
私にだって情も、責任感も、羞恥心だって有ります。
こんなみっともない話、どこの国にも有りませんよ。」
いや、結構あるかもしれない。
「とにかく、俺は彼女が女王として立ち、
エヴァンはその補佐とし、王としての知識を得る。
まあ、ティモシーも年が来たなら教育を始めてもいいかな?
とにかくイライザが倒れる前に二人を仕上げ、
どちらかが王を継ぎ、どちらかを副官とする。
もちろん二人にはそれを納得させた上でだ。
そんな感じかな。」
「分りました。ではその様に。」
ちょっと待って、これは提案。
だから他の人の意見も聞いて、色々検討してから決めてよ。
そう言ったけど、10分もしない間に決定してしまったようだ。
まあイライザさんはかなり抵抗したようだけど、多数決で押し切られた。
現在は彼女に王としての権利は無いし、多数決か…仕方ないよな。
エヴァン様とティモシー様について……。
とジュール達が言うけど、彼らに対してはお前達が教師だ。
正しい道を示してやるのがお前達だ。
何だったら必要な知識を頭にぶっ込んでやってもいいけど、
ティモシーにはまだ早いし、
これやると、詰め込み過ぎで気が狂う人もいるらしいから、
止めておいた方がいいな。
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