第31話 黒幕
あれから暫くして、親父の下に行ったジュリが戻ってきたようだ。
意外と早かったな。
どうなったか聞く為に、俺はまた母様から離れ、ジュリの下へ向かった。
「なるほど、贖罪の旅に出たか。」
「はい、それからこれを。彼から預かったお手紙です。
…お師匠様、私は少しでもお役に立てましたか?」
ジュリはおずおずと俺に聞く。
「あぁ、よくやってくれた。
これからあいつが贖罪の旅をする事によって、
少しでも人の役に立つのなら、それに越した事はない。」
うん、この一連の事は、こいつが親父に偶然遭遇したとはいえ、
ナイスな対応だった。
でもジュリ、そのどや顔止めろ。せっかく褒めてやったのに、半減だぞ。
すると突然、キャ――――――!!と町の方から、女性の悲鳴が上がった。
あちらには、母様が一人でいる。
親父の事が片付き油断した。母さんから目を離すべきではなかった。
だって気を付けなければならない対象は親父だけでは無いのだから。
多分国王陛下だって俺達を狙っている筈なんだ。
俺が走って戻ってみると、やはり母さんが見知らぬ男に羽交い絞めにされていた。
「お母様!!」
「やっと表れてくれたな聖女様。ようやく俺達の仕事が報われた。
さあ、おとなしく一緒に来てもらおうか。」
母様を捕まえている男がそう言う。
どうやら仲間らしい男たちは全部で4人。
その内の一人は短剣を抜き、母様に突き付けている。
町の人は遠巻きにその姿を見ていたが、何もできず手を出すことが出来なかった。
すると、俺に付いていたジュリが、〝ハーディン″と叫ぶ。
次の瞬間、母さんを含め男たちは見事に固まっていた。
「ジュリ、術を解くんだ。」
俺は小さな声で、ジュリに命じた。
「何を言っているのですお師匠様。さあ、今のうちに早くお母様を…。」
「だめだ、母様を助けて、あいつらを拘束しても、
また、後から後から、俺を捕まえる為に別の人間が送り込まれて来る。
原因を根元からつぶさない限り、解決しない。」
「なるほど、でも、一人で片付けようなど思わないで下さいね。
私もお手伝いしますからね。」
「いい、お前を煩わせるまでもない。俺一人で大丈夫だ。」
「え~、そんなずるいです。
一人で楽しまず、私も混ぜて下さい。」
やっぱりそうか、しかしこれは遊びじゃないんだぞ。
でも、こいつがいると何かと便利かもしれない。
第一、ジュリを説き伏せる時間がもったいない。
とにかくジュリには、ハーディンを解いてもらった。
男達は、何が起こったのか少し混乱した様子ではあったが、
気を取り直して、また俺に脅しをかけてきた。
さあ、三文芝居の始まりだ。
「お母様!」
「逃げなさいヴィー!
お願いです、ジュリアさん、ヴィーを連れて早く逃げて!」
男たちに羽交い絞めにされたまま、母さんは必死になって叫んだ。
「いやです!
お願い、お母様を放して。」
俺は叫んだ。
体は少女だから、それなりに声のトーンは女の子。
回りにはきっと悲痛な叫びに聞こえただろう。
「それは聞けない相談だな。
さあ聖女様、母親を傷つけたくなければ大人しく俺達と来るんだ。」
民衆の前で、こう聖女様と連発されては、
俺たちが曰く付きの人間とばれてしまっただろう。
俺はもう諦めたが、母様のこの先が心配だ。
しかし、背に腹は代えられない。
目の前の不安要素を取り除くほうが先決だ。
「お願い、私は言う通り付いて行きますから、お母様は放して下さい!」
「お前が素直に言うことを聞くように、母親も連れて来るよう言われているんだ。諦めるんだな。」
チッ!母様を人質にするつもりか。
しかし母様が一緒だと、思い切り暴れられないんだよ。
「私を代わりに連れて行きなさい。」
突然ジュリが叫んだ。
「なんだぁお前は、関係ない奴を連れて行ってもしょうがないんだよ。
余計な口を出すんじゃねえ。」
「いいからその人を開放して、代わりに私を連れて行くのです。」
そういうと、男たちをじっと睨んだ。
ほう、“ソウルタイ”か。
自分こそが俺の母親だと思わせたんだな。
「さあ、早くその人から手を放しなさい。」
男達はゆっくり母さんから手を離した。
「ヴィー!何をしているの、早く逃げなさい!」
母様は俺に駆け寄ろうとしたが、
男に突き飛ばされ、遠巻きにしていた人の中によろめき、転がり込んだ。
おまえ!母様に何するんだ!後で覚えてろよ。
「私は大丈夫よお母様、心配しないで待っていて。」
俺はにっこり笑い男達の指示に従い、
ジュリと共に道の反対側に止めてあった馬車に乗り込んだ。
母様は、必死になって俺達の後を追おうとしているが、
町の人に引き留められてる。
うん、それでいい、どうか俺が帰るまで、母さんの事よろしくお願いします。
馬車に揺られ、俺達が着いた先はやはり王宮だった。
馬車は裏手の門から入り、やがて大きな扉の前で止まった。
俺達を待ち構えていたのは、10人ほどの騎士達だ。
そいつらに囲まれるように長い廊下を歩き、
行き着いた先は豪勢なドアの前。
しかし中で待ち構えていたのは、思っていたのとは違う人物だった。
「ようやく会えたなヴィクトリア。」
「……私はあまりお会いしたくはありませんでしたわ。サイアス様。」
てっきり王がいると思っていたが、部屋で待っていたのは、
この国の第1王子のサイアスだった。
黄泉がえりの呪術を依頼したのは、確か王のはず。
だから王を何とかすればと思っていたのに、
しかし俺を捕らえたの王子だとすると、
俺の家族が安心して暮らすには、王とこいつが対象人物か?
それとも他にもいるのか?困ったな。
実はこの王子には、性癖的異常癖が有るんだ。
いろいろな性癖を持つものは他にもいるから、
こいつだけを一概に奇異の目で見るのは不公平かと思い、無視していた。
しかし、こうも執着深いとは俺の考えが甘かったようだ。
何せこいつは、自身が30歳近いと言うのに、
6歳だった俺にプロポーズしたのだから。
王とはまた違った目的で、俺に執着を持っていたのだ。
しかもそれは、現在進行形のようだ。
「てっきりこの誘拐は、国王様が先日の父との契約を果たさせる為、
私を探しているのだと思っていました。」
「意外だったか?」
「いえ、考えてみればサイアス様が、
いまだに私を探している可能性は有りましたね。」
「ヴィクトリアが私を覚えていてくれてうれしいよ。」
「否応無くですが。」
忘れる筈無いだろう。こんな人の気持ちを無視した気持ちの悪いやつ。
「父は母を生き返らせる事を諦めていないようだよ。
しかし、あなたが先に父に捕まってしまっては、私が手に入れにくくなる。
だから父より早くあなたを手に入れようと、
ずっとあなたの母親を見張らせていたのだ。いずれ必ず現れると思ってね。」
なるほど、監視の命令を出したのは国王ではなくおまえか。
とりあえず、最初のターゲットはこいつだな。
「国王様はどうなさっていらっしゃるのですか?」
「父上か?未だに亡くなった母上の室に籠ってあまり外に出て来ようとしない。
まったく死んでしまった者は仕方ないじゃないか。
まあ、ヴィクトリアが母上を生き返らせる事が出来たなら、
前の様に出てくるんじゃないかな。」
「馬鹿なこと仰らないで下さい。
確かに私はある程度の治療は出来ます、しかしそれにも限度が有ります。
それなのに亡くなった方を生き返らせるなど、出来る訳有りません。」
「私もそう思うよ。
だが、父上はあなたの父の言ったことを信じ切っている。
もし今あなたが父に見つかったなら、
母上の眠る室に、引きずってでも連れて行かれるだろうね。」
勘弁してくれよ。
確か王妃様は3年ほど前に、はやり病で亡くなったと聞いた。
亡くなった人の事など忘れてしまえとは言わない。
しかし、その為に自分のすべき事を放棄し、
部屋に篭もりっ切りになり、嘆き、悲しみに浸るだけなんてダメだろう。
人の上に立つ者なんだから、もうちょっとしっかりしろよ。
「国王陛下が部屋に籠っているとおっしゃいますと、
それでは国政はサイアス様が行っていらっしゃるのですか?」
だったら忙しいだろ。俺になど構う暇など無い筈だ。
「政治か?そんな面倒くさい物などやっていられるか。
俺は王子だぞ。何もせずとも回りが勝手にやってくれるさ。」
違う、それは違うぞ!
王がやらないのであれば、第一王子であるあんたがやるべきだろう。
お前自分の年や役割を理解していないのか。
「では、一体どなたが行っているのですか?」
「そんな事知るか。私は好きな事をやってもいい立場だ。
政治などやりたい奴に任せておけばいい。
なに、誰かがミスをしたり国に被害を与えたら、
俺はそいつに責任を取らせ、打ち首なりなんなり言い渡せばいいだけだ。」
はい、こいつ、排除決定!
ジュリ、親父のように改心させなくてもいいからな。
多分ジュリも俺と同じ考えだろう。
しかしこのままいけば、この国は崩壊するぞ。
さっさと見限って母様達を連れて国を出るか。
いや、でもこの国には母さん達に良くしてくれた人も沢山いる。
やっぱり何とかしなくちゃ。
「さて、あなたには一緒に来てもらおうか。」
「いやといったら?」
「そこにいる母親に何かあってもいいというのかな?」
え?
ああ、ジュリの事か。
今ジュリは少し離れたところで、二人の騎士に両脇を拘束され、
大人しくしている。
うん、俺が何かするまで、そのまま大人しくしているんだぞ。
臨機応変、適当に。
「分かりました、おっしゃる通りにいたします。」
そう答え俺は奴の後に従った。
さて、一体何をするつもりだ?
いきなり変な事をするなら命は無いと思え。
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