第44話 問題山積み

「カ…エ…ルのお歌は……子守歌、ほらねご覧よ、お…月様も夢の中………」


エルケが、かすれたような声で一緒に歌い出した。

やがて、眼の光を取り戻し、わっと泣き伏せる。


「お…母さんっ!あっあああ~~~っ。」


うん、悲しいよね。

いっぱい泣きな。

泣いて、泣いて、少しでも心の中の辛かった事を洗い流せるといいね。


「エルケは自我を取り戻したと思うが、

だからこそこれからが大切だ。」


分かっております、そう言うあんたは?


「良かったら名前を聞いてもいいか。」


「マリア・ブラウンと申します。」


ブラウン?最近聞いた覚えのある名前だな。

まあいいや。


「マリアさん、エルケがまた元の状態にならないよう、

気に掛けてやってくれ。」


「もちろんです。

私を始めとして誰かしら傍に居て、絶えず気に掛けるよう勤めましょう。」


その後も、この子達の様子や調査の進展具合を聞いて回る。

まだたいして時間が経っていないが、気に掛かるんだもの。

どんな少ない情報でも聞きたいよ。


「この子は運よく故郷が近くでしたので、調査の結果はすぐ届くと思います。

と言いましても西の山脈の麓の村、メイネですから、

早くても3日はかかると思いますが。」


「そうか、何か分かったらまた教えてくれ。」


一通り様子を聞いて回り、それから俺は、

部屋の一角に集まっている男達の所に向かう。


「ですから、帰る所のない子達を

ただ保護するだけではだめだと言っているのです。」


「しかし、王子の為にあんな扱いを受けたんだ。

ひいてはそれを止められなかった国にだって責任はある。

だったら優遇してやるべきだろう。」


「だが、それならただの我儘娘に成り兼ねないだろう。

下手をすると、これからは獣相が有る者が特別扱いされる可能性が有る。

それは彼女達に取ってもいい事ではない。」


彼女達の今後についての議論だろう。

ずいぶんと白熱しているな。

この国の行く末について、口を出さないと言ってあるから、

彼女達のこれからの事について、口を挟まないように我慢するけど、

何か決まったら俺にも教えてくれると嬉しいな。

その時なら、口を挟んでもいいんだろ?


それなら、最初からここのテーブルに入って下さいって言われたけど、

他にもやらなくちゃならないから、ごめんね。


さて、彼女達の様子も見たし、帰るか。

俺はまた、ジュール達の下に戻った。



「ただいま~。」


するとジュール達は、押し黙ったまま渋い顔をしている。


「一体どうしたんだ?

何か問題…は山積みか。

今度は何を議論しているんだ?」


「この状況、いえ、王達を拘束している事、これから国が変わって行く事を、

どうやって国民に説明するかを考えていたんですが。」


「そうか、国民だけでは無く、

貴族や、これを知らない兵達にも行き渡らせないと、

厄介だよな。」


ジュリの二の舞にはしたくないし、どうしたもんか。


「反発分子を押さえつけるのは簡単だけど、

出来れば納得してもらって丸く収めたいものだな。」


「確かにそうですが、やはり王族側に付いていた者達を納得させるには、

かなりの骨が折れるでしょう。」


確かにそうだな。


「数人ならばすぐに済むけど、

かなりの大人数なんだろう?」


「数人ならすぐ済む?」


「そう言う奴って、自分の事しか考えない。

自分の利益しか考えない奴だろう?

お前達みたいに心から国民を心配している奴らじゃない。

だったら説明っていうか、心を入れ替えてもらう為に説得したって、

時間が掛かるか、不発に終わる可能性も高い。

だったら洗脳する方が早いだろう。」


「洗脳……で…すか?」


「うん、だけどな、あれやるとエネルギー食うし、

性格だって単一になる可能性も有るから、あまりやりたく無いんだよね。」


その人間に合わせて洗脳するには対象者が多すぎる。

かなりの時間と労力が必要になる。

かといって大勢をまとめて洗脳すれば、

性格が単一化する事が目に見えているしな。

性格が単一化した者は、己のオリジナル性が無くなってしまう。

つまり今までの自分を殺す事になってしまう。

洗脳とはそんなもんだ。

いや、洗脳と言うのは意味が違うか。

ロボット化とした方が正しいか?


「お前達の顔付からすると、国中の人間にそれをすれば、

すごくいい国になると思っているかもしれないが、

性格を単一化なんかして見ろ。

同じ考えの善人だけになった国は弱すぎる。

逆に戦いに長けた者だけでは人道無視の恐ろしい国になる。

ならば程よい状態にすればと思うかもしれないが、

結局は国中の人間が同じ性格なんだぞ。

結婚なんて誰でもいいと言う事になるか、

若しくはよっぽどのナルシストでない限り、

人は伴侶を娶る事などしなくなるだろうな。

結局国は破滅だ。」


まぁ、俺の仮説だがな。


ジュール達は少しがっかりしたようだが、納得はしているだろう。

とにかく、この事実を公表する前に、

身勝手な反乱分子になりそうな奴らを、潰さなくちゃならないな。

情報を集めてそいつを特定し、いかに説得するか。


「ぐわぁ~~!面倒くせ~!」


………………。


「ジュール貴族を全部、そうだな、

とにかく政治その他に関与する者を全て一所に集める事は出来るか。」


「時間とかなりの広い場所が必要となりますが、

出来ない事も有りません。」


「方法は?」


「国王が重病、または急な死去の為に王位継承の発表。

それに伴う貴族の位の見直し、及び領土の見直し。

などとしておけば、殆んどの人が集まるでしょう。

それでも来ない者は、かなりの善人か無頓着な人間でしょうから。」


季節は収穫期、己の領民の事を思い、そちらのが大切だと思う人なら、

そのままにしておいても大丈夫だろう。

無頓着な奴は………そのままでもいいか。

とにかく、ターゲットは領民を人とも思わず、己の利益のみ考えている奴だ。

国の一大事として駆け付けた人間との選別が大事だな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る