第36話 対策会議
「俺はこの国に住んでいたとはいえ、たかだか7年しかいない。
そんな若輩者が、ここでとやかく言う権利は無いと思っている。
あなた達の方が、よっぽど国の事を知っているし、憂いていた筈だ。」
俺がそう言うと、ここに集まった100人ほどの者達は、
まるで親に捨てられた子犬のような目をした。
「だーかーらー、俺はこの国を見放すとは言っていない。
俺にできる事は手伝わせてもらうつもりだ。
ただ、自分達が大事にしてきた国の事だろ?
自分が国を放棄しないと誓ったのであれば、
人任せにせず、自分達が出来る事をしっかりと考え、その責任を果たせ。」
でも、これが片付くまでどれぐらい掛かるんだ?
それまで俺は、此処に居なくちゃダメなのかなぁ。
「とにかくお前達の考えを優先する。
先ほど借りて行った人達には、
俺の身勝手では有るが、サイアスによって傷つけられた子共達の事を任せてきた。
だからここにいる者達には、今までの悪政の処分と、
これからの国の有り方についてを考えてもらいたい。
で、最初に何を片づければいいと思う?」
もっともらしい事を言っていても、その言葉は丸投げとも言う。
ちゃんと良し悪しは判断するけどさ。
罪人に決定済みの奴ら、その処遇は後回しでいい。
逃げ出さない様に捕えて有るから大丈夫だぞ。
そいつらの事は放っておいて、まず国の立て直しをする事になった。
今、民は苦しいながらも何とか生活ができるレベルだ。
すぐに如何こうするのではなく、基本をしっかりと打ち立てようとなった。
「異議あり!スラムの方ではかなりひどい生活をしている者もおります。
何とか補助をお願いできませんでしょうか。」
そっか~、スラムな。
俺も旅をしている時に見た。
「しかし、スラムの者の多くは、
仕事もせずに己を嘆くだけ。
ただ貧しいんだと言うだけで、何もする様子が無い者がほとんどです。」
「一理あるな。
だが、本当に状況を改善したくても仕事に付けず
あそこに行き着いてしまった者もいる。
どうした物かな。」
俺は頭をひねった。
その者達の区別を付けなきゃならないし、スラム自体の存在もまずいだろう。
「お師匠様、ならばその者達に働く場を提供したらいかがでしょう。
仕事を与え、給料を払う。一定期間、税を免除するのもいいかもしれません。
その間に貯金をするなどして、将来の貯えをするのでは有りませんか」
「おおそれながら、スラムの者だけ優遇するならば、
他の民から不平が出ないでしょうか。」
そうだよな~、出るよなきっと。
「ならば、人が嫌がる仕事からしてもらうと言うのはいかがでしょう。
例えば、この国の西にある荒れ果てた土地。
あそこの土地の開墾など。」
「だが、あそこには魔物も多いと聞く。
だからこそ手つかずで、放置されているのではないか?」
「魔物か…、厄介だな。」
「だが、あの森を開墾できるなら、そこをスラムの者たちの土地として与えれば、
色々な植物を育て、魔物を狩れば、自給自足で生活の糧となる。」
「だが、開墾時に魔物に襲われたら、元も子もないじゃないか。
そこで命を落としたなら、何の為に汗水流して働いたのか……。」
議論は盛り上がっているな。
「つまりこの国の西にある荒れ地の魔物が問題なんだな。
ジュリ、何とかしてくれ。」
「えー、私一人でやらせるんですか?
お師匠様ずるいですよ。
あなたの方が、よっぽど早く出来るでしょう。」
「そりゃそうだけどさ、ほら、俺この人達の話を聞かなきゃならないし。」
「そんな事私だってできます。だてに教祖をやっていた訳では有りません。」
「だってさ~。(面倒くさいし。)」
「なるほど。(それが本音ですね。)」
と言う事で、ジャンケンでジュリがやる事になった。
「で、魔物を全て塵に返すと言う事でいいのですか?
自然の摂理など大丈夫なんでしょうか。」
ぶつくさ言いながらも、ジュリはやってくれるみたいだ。
「そうだなぁ、コルトドンみたいに可愛いものもいるし、
差し当っては、人間を捕食するやつや、
敵意を持っている奴だけでいいんじゃないかな。
ジョール、この件で専門知識を持ったやつはいるか?」
ならばと、ジョールは1人の男を指名する。
「彼は、その方面に長けた者達です。
どうぞ使ってやって下さい。」
さっそくの紹介感謝する。
「魔物だけではなく、動物の中にも人に危害を及ぼす物はいます。
しかし、それを退治してしまっては、生態系のバランスが崩れ、疫病の発生に繋がりかねない物もいます。
本当でしたら、時間をかけてじっくりと調査してから行いたいところですが…。」
だって、どうしようジュール。
「では、この件に付きましては、あと10人ほど人を付けまして、
早急に調査を行いそれから行動すると言う事で。
宜しいでしょうか、ヴィクトリアさま。」
そう呼ばれ、ふと考えたら、俺って今俺様状態で話をしているけど、
外見は、母様を喜ばす為にドレスに着替えているし、
バリバリ7歳の女の子でした。
これって7歳の女の子に傅く大勢の人達の図、だよな。
知らない人が見たら、俺ってメチャクチャ我儘な女の子に見えないか?
訳を知っているだろう人達だけど、申し訳ない気がしてきた。
少し考えてから、自分の細胞を変化させ、
大魔導士と呼ばれていた頃の姿になる。
何と無く、威厳が有る大人の姿がいいだろうと言う判断だ。
もちろん服も大きくしたよ。
ここに居た全ての人達は、それを見て驚き驚愕していた。
声も出せずに目を見張る者や、
”何と……”とか”凄い……”って言っている。
”あの姿は確か……”と言っている人は、俺の姿を見た事が有るのかな。
長命な種族かも知れない。
「お師匠様、何バカな事をしているんですか。
今更そんな姿にならなくても、皆理解をしていますよ。」
そうなのか?
多分俺が聖女だった事はバレていると思っていたけれど、
この姿の俺の事もバレてるのか?
「気が付いていない人もいたかもしれませんが、
その姿になった時点で、全てバレました。」
え~、全員が長命な筈無いじゃないか。
何で俺の事を知っているんだよ。
「前にも言った筈ですよね。
この姿の絵姿が多く残っていると。」
「そうだっけ?」
「おまけに、その自分の姿をよく見なさい。」
ドレスのサイズも大きくしたし、露出している所だって無し、可笑しくないだろう。
「大魔導士リュートがピンクのドレスを着て、
一体どこに、おかしく思わない人がいますか!
もういいですから、元の姿に戻って下さい。」
ため息をつきながらジュリがそう言う。
ごめん、俺もそう思う………。
ジュリの言葉に甘えて、元の姿に戻る。
戻ったのに、なぜみんな、声を殺しながら肩を震わせる。
完璧に笑いを堪えてるよね。
見てよ、ちゃんとドレスの女の子だよ。
俺傷ついちゃうよ。
「そうさせたのは、あなたですからね。」
ジュリは再び、深いため息をついている。
「さ~~て、さっきの問題に戻ろうか。」
うん、細かい事は忘れよう。
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