第34話 少女達 2

彼女の腕、手首から二の腕まで、真っ白い産毛のような羽が覆っている。

とても柔らかそうだ。

ガウンの上から見た限りでも、背中の盛り上がりを見る限り、

おそらく羽のようなものが生えているのだろう。


「可哀そうに、心が擦り切れている。」


一体あの野郎はこの子に何をしたんだ。

俺はじっと彼女を見つめる。


逃げ惑う同種の人、やがて飛んできた槍によって、白い羽が赤く染まっていく。

悲鳴を上げ、気を失ったのはこの少女だろう。

やがて気が付いた時には、とても薄い素材のドレスを着せられ、

金色の檻に押し込められ、あの獣人の子供たちのいる部屋に吊るされた。

歌を歌わされ、奴は気分のままに怒鳴り散らし、檻を乱暴に揺らす。

怖い、恐ろしい。だが泣く事さえ許されない。


「もう大丈夫よ。

悪い奴は現れない。

安心して眠ってね。」


俺は彼女の頭をそっと撫でながら、そう言った。


やがて眠りについた彼女を、侍女がそっとベッドに横たえた。


「カナン地方ケルバ山の麓。トート村の出身だ。

名はエルケ。

親はサイアスの命令で殺されている。

あとはの親類は……現地で聞き取りを頼む。


「畏まりました。」


俺は次々と少女達の間を巡り、

話が出来る者からは話を聞き、

無気力になってしまった少女は、心を読むようにして、

全ての子を把握した。

全部で11人。

中には親から金で買われた子もいたが、そんな子は親元には返す気はない。

何処かにいい養女先を探してやろう。


とにかく話を聞けば聞くほど、サイアスの事は許しがたい。

メチャクチャ腹が立つ。

ここは裁判にかけ………なんてしてやるほどの広い心など持てるもんか。

この話を聞いた誰の心だって猫の額のように狭くなるよ。


「ジュリ、そちらの様子はどうだ。」


何処からともなく、俺の耳にジュリの声が届く。


「もううんざりです。

確かに真実を言っているのでしょうが、低レベルな事を何度も何度も繰り返し、

殆んどの奴が、罪のなすり合い。

いっその事、全員魔境に放り出していいですか。

いや、あの三人だけは別か。」


「あの三人と言うのはあの三人か?」


「そうです、あの三人です。」


話は通じているぞ。あの三人の事だな。

一人は白いひげを生やし、鋭い目をした爺さんと、

その爺さんに仕えているような黒髪の青年。

そしてもう一人は栗色の髪の温厚そうなおじさんだっけ。


「そいつらは見込みが有ると言う事か。」


「ええ、しっかりとしたビジョンを持っていました。」


よし、採用。

頭に据えるかどうかは後にして、とにかく今は緊急の問題を二つも抱えている。

手を抜く訳じゃ無いけど、早いとこ何とかしなくちゃ。


「そいつらに会う。案内してくれ。」


すぐさまジュリが現れ、俺を抱っこして転移した。

何故そんな事をする必要が有るんだ?


転移した先には、男三人が難しい顔をして座っていた。

目の前にはお茶が置かれているが、手を付けた様子すらない。

俺達が現れた途端、すぐさま立ち上がり、首を垂れる。


「そんな事をする必要などない。

少し相談が有って来たんだが、時間はいいか?」


「御心のままに。」


俺は王でもないし、大臣でもない。

そんなにお偉いさんじゃ無いから気を使わなくていいよ。

俺はそう言ったが、男達は一向に態度を改めない。

ジュリに至っては当然ですと言う顔をしている。


まあいいや、


座ってくれ。そう言って俺も腰掛ける。

すかさず俺達の分のお茶も用意された。

ありがとう、さっきから動きっぱなしで、お茶が欲しかったんだ。


「さて、一応報告をしておこうか。

王、サイアス、お前たち以外の関係者は全て拘束してある。

この先の処遇は後回しだが、奴らを元の地位に据える気はない。」


ははっ。


それを聞いて、どことなく三人が少し安堵したような気がする。


「政を放置しておく訳には行かないが、

あのサイアスの身勝手で集められた少女達も何とかしてやりたい。

それに関して、信用できる人間。

お前達の人脈でだれかいないか。」


「お恐れながら、

サイアス王子の意に背き、不興を買い解雇された者を若干存じております。

その者達は情けに厚く、信用できる者達です。

それで良ければ、すぐに連絡が付くようになっておりますが。」


なるほどね、すぐに連絡を付けれるようになっていると言う事は、

何か考えが有っての事だろう。

深くは追及しないけど。


「分った、すぐにその者達と連絡を取り、城に集めてくれ。

どれぐらいで全員集まれる?というか、全員で何人ぐらいいるんだ?」


「凡そ130人ほどです。

時間としましたら、一刻半ほどで集まるかと…。」


結構近い所で終結していたんだ。

大事になる前でよかった。

余計な血は流したく無いからね。


「色々な事を頼みたいんだけど。

中には雑用のような仕事も有る。だけどよろしく頼む。」


畏まりました。

そう言いながら、すぐさま部屋を出て行く3人だった。


「何やら企んでいたようですね。」


「企みたくもなるだろう。こんな状態では……。」


「で、女の子達はどうしていますか?」


珍しくジュリが真剣そうな顔で聞いてくる。


「一応素性その他は聞き出したと言うか把握してある。

今は全員眠らせている。

起きる頃には嫌な記憶は薄れている筈だ。」


こんな記憶、きれいさっぱり消えればいいんだ。

だがそれだけでは片付かない問題が有るから頭が痛い。

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