第13話 特訓その3
気持ちが落ち着いたところで次のステップに進む。
「ここまでできれば後は簡単だ。」
「そうなんですか?」
「ああ、おまえ風の魔法はできただろう?」
「はい。あ、なるほど。
あとはフェアリーにお願いして押してもらえばいいのですね。」
「まあ平たく言えばその通りだ。」
こいつの風魔法はフェアリーに頼んでいたのか。
「まずは上空まで行ってからフェアリーにやってもらえ。最初はゆっくりだぞ。
慣れてきたら同時起動だ。浮き上がるのと風魔法を同時に始める練習だ。」
「はい!やってみます。」
と言ったとたんすごい勢いで低空を飛んでいく。
おーい、早く停止しないと森に突っ込むぞー。
だから最初は上空まで浮いてからゆっくりって言ったのに。
しばらくすると、ジュリは頭に木の葉をつけ転移魔法で戻ってきた。
幸いシールドは忘れでいなかったようでダメージは最小限で済んだようだ。
それでも涙目になっていたな。
それからジュリはよほど懲りたのか丁寧に上空へ行ってから
ゆっくりと前に進んでいった。
それを何時間か繰り返した後少しスピードを上げて飛ぶように言った。
暫く練習して今日はここまで。
明日からはもうちょっとひねりを入れるぞ。
ひねりと言っても本当にひねるわけではない。
まあそれも入れるが、平たく言えば上下左右、ターン、バックなど
縦横無尽にコントロールすることだ。
風の魔法は元々できていたんだ。
ゆっくりやればここには障害物があまり無いから楽に練習できるだろう。
スピードをつけるのはまだ先だぞ。
ジュリは結構楽しそうに上空を泳いでる。
と俺の方を見るので手を振ってやる。
ジュリは目を輝かせ、俺の目の前にザっと急接近。
「お師匠様、お師匠様。どうです?
私上手くできていますか?」
ジュリはプカプカと浮きながら、顔を俺の目の前に出して聞いてきた。
「ああ、大したもんだ。やはりお前は筋がいいな。」
お世辞じゃないぞ。本心からそう思うんだ。
「ありがとう御座いますお師匠様。」
そう言うといきなり俺のおでこに口づけし、さっと逃げていく。
また調子に乗りやがって、まあ大目に見てやるか。
おーい、だから急にスピードをつけるなって言ってるだろ!
ジュリは勢い余ってかなり上空まで飛んで行った。
同じような練習を何日か繰り返し、
スピードの緩急もつけれるようになったので、
次の日は森に行き実地訓練をする事にした。
直進ではなく、木を除けながら宙を飛ぶ。
魔獣の発生率はかなり高くなるが、
全部引き受けてやるからお前は練習に専念しろ。
俺はなお一層回りに気配を配りつつ、飛びながらジュリを追う。
魔獣とはかなり接近戦になった事も有ったが、ほとんどの奴は倒した。
倒した奴はもったいないので、とりあえずパウチしておいて、帰りに拾っていこう。
逃げた奴はほっておく。
追うぐらいならジュリを見てやった方がいい。
ジュリは始めはゆっくり、木を除けながら飛んでいたが、
徐々にスピードを上げていく。
時々目前の木を避けようとして隣の木にぶつかりそうになるが、
まあシールドをしてあるはずだから、ぶつかってもたいして痛くないと思うが
つい手を引いたり軽くおしたりして補助をしてしまう。
過保護だと言うなら言え。
そんな事を繰り返しながら数時間。
つい俺も楽しくなり、気が付くとジュリと手をつないだまま森の中を飛んでいた。
もう大丈夫だなと思った俺は最後にジュリの手を両手でつなぐ。
「シールドを最強にしろ。」
そう伝えると俺は真上にジュリを引っ張っていった。
眼下の景色は徐々に小さくなっていく。
「お、お師匠様……。」
「もう少し行くぞ。」
恐怖なのか寒いのかジュリがかすかに震えている。
念のため俺のシールドもジュリにかぶせてやる。
やがて足元には丸みを帯びた緑の大地と青い海が広がり、
それ以外は黒い空間と、星が瞬く。
ここが俺の限界地点。
これ以上いくと、息が出来なくなってしまうからな。
「こ…これはいったい何ですか?」
「真下は当然、俺達が今居た場所だ……。
最初は俺も驚いた。
下のどデカい大地がゴンドアナと呼ばれる大陸だな、
国境に印が入っているわけないから、分かりにくいと思うが、
ちょうど俺たちの足元が今いた国リトアンナだ。
そして西の海を渡ると一回り小さい大陸が有るだろう?
あれはユートリアだ。」
「え、このゴンドアナ1つで6つの国あると言うのに、
島国であるユートリアはあれ全部が国土。
何と言う大きさなのでしょう。」
「ああ、広いな、ユートリアは。
なあ、行ってみるかユートリアへ。」
「いいですね。行ってみたいです私も。」
「かなり長い旅になるぞ。大丈夫か?」
「え、大丈夫ですよ。
私ユートリアへの船が出る港町まで布教に行った事が有るので、
そこまででしたら転移魔法で行けます。
後は船旅のみですからあっという間ですよ。」
「えー、ゆっくり旅行しながら行こうよ。」
「何カ月かかると思っているんですかお師匠様。
ゴンドアナ大陸の広さをなめたらいけません。
おまけにプラス、ユートリア内での旅ですよ、
そんなことしてたら下手すると年単の旅になります。」
「ちぇーっ。」
という訳で多分今回はジュリの勝ちか?
でも、ジュリの後日談。
「ねえ、お師匠様。
考えてみたらあの高度で真っすぐ降りるのではなく、
ちょっと角度をユートリアに向ければ着いちゃったんじゃないんですか?」
「今頃気が付いたのか?」
で、それに関してはジュリの負け。
だって俺はそこに行く為に、またあの高度まで飛んでやる気はない。
旅がしたいんだも~ん。
しかし、1週間ほどで飛行魔法をものにしたとは、ジュリはホント大した奴だ。
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