あえて設置される地雷原
「ごめんね。急に伯父さんが寝ちゃったし、しかもマスターのお世話になっちゃって」
帰り道、高木くんを駅方面まで送る。
「いいよ、疲れてたみたいだし、ゆっくり寝かせて置こうってマスターが」
本当は何か盛られているだなんて、言えない。口が裂けても言えない。
「マスター、優しそうな人でよかったなぁ」
高木くんは嬉しそうにそういうが、マスターが裏社会の伝説のアサシンということを全く知らない。もし、そんな事を言ったらたちまちマスターに対する印象は変わってしまうだろう。
あんな優しい性格と見せかけて、実は普通に毒物盛るんですよ彼は!
「でも、ゆうやんがそんなマスターとあんな金額でボディガードしてもらっているなんてねぇ。凄いや」
「いや、あの」
「理由はさっきも言えなかったみたいだし、言わなくても大丈夫だよ。でも、もし俺や伯父さんに助けて欲しいことがあったらなんでもいって。力になれたらいいなって」
「そんなの悪いって」
僕のごたごたに友人を巻き込みたくないという気持ちがあった。
「大丈夫だって、伯父さんにもタダ働きしてもらうつもり満々だから」
高木くんがドヤ顔でそう言った。実靖さん可哀想だなぁ……。
「ゆうやんはもっと俺たちも頼ってもいいんだよ。俺たち友達だろ?」
「うん、そうだね。ありがとう」
僕たちは駅まで会話で盛り上がりながら帰った。
***
「んー、よく寝たー。ってあれ?」
実靖は深く伸びをしてベッドから起き上がると、そこは見知らぬ部屋だった。
さっきまで気に入らないヤツの喫茶店に居たというのにどういうことだろう?
「やっと目が覚めましたか、よく寝られたものですね」
聞き覚えのある声に振り向くと、其処にはこの世で寝顔を見られたくないヤツ栄誉ある殿堂入りの実の姿がそこにあった。
「お前、俺の飲んだものに何か盛りやがったな!」
「えぇ。盛りましたとも。ご自分も最初は警戒なされていたじゃないですか、ソレなのにあれだけ一気飲みしたらそりゃ眠くもなるでしょうねぇ」
ニヤニヤと笑う彼に頭を抱える。
「毎度毎度ツメが甘いといわれ続けて早何十年でしょうねぇ。そういうことだから、早くこの業界を引退しなさいって私は警告しているわけですが?」
「う、うるひゃい。裏社会のほうがお金が沢山もらえるからいるだけなんだい!」
「全く懲りませんねぇ。目覚ましついでにコーヒーを入れてあります。店で飲みませんか?」
「また、何か混ぜてあるんじゃ」
「今度は普通のコーヒーですよ。アナタに話すこともあるんでね」
アイツのいつになく真剣そうな顔に首を傾げる。
「裕也くんのことについてですよ」
閉めた店内で、私はアイツから裕也くんに起きている出来事についての説明を受けた。
「なるほどねぇ。気付かないうちに裏社会のあの首領を助けてしまったって訳か。それで、阻止されたから命を狙われていると」
「そういうことになりますねぇ」
「でも、最初に彼の命を狙っていたのはお前だろ? それが命を護る側にまわるってどういうことなんだ?」
「あちらさんは私の存在まで消そうとしたからですよ。少しカチンときましてね」
そういってアイツはコーヒーをすする。
「カチンとねぇ……。でも、まだその親玉を泳がせているのは何故だ?」
私の言葉にアイツはコチラをちらっとみた。
「泳がせているとは心外ですねぇ。それは顔が認識できなかったら狙えないに決まっているじゃないですか」
「伝説のアサシンであるアサシングロウがそんな失態するわけないだろ? 何かあってわざと泳がせているな?」
「アナタからそんな褒め言葉が出るとは思いませんでしたよ」
「別に褒めてねぇよ。本当のことだろ?」
私は黒い液体を一気に飲み込む。
「付き合いが長いとなかなか嘘を付くのも苦労しますねぇ。裕也くんは騙せましたが、アナタは騙せないみたいです」
「もしかして、アレか? まだ例のことを悔やんでいるのか?」
私の一言にアイツがぴくっと反応する。
「裕也くんとそんなに歳も変わらなかったし、アイツだってこのまま居たら……」
「……実靖」
アイツが低い声で私の名前を呼ぶ。
「その話はやめましょう」
真顔で話を制止する。
これ以上この話を広げるのは危険だろう。
「わーかったよ。とりあえず、裕也くんの護衛の為に何か分かったら連絡するよ。まったく、お前のためじゃなく、甥っ子の友人のためなんだからな。勘違いするなよ」
「ありがとうございます。助かるよ。コーヒーのお代わりもありますから、どうぞどうぞ」
そのお代わりのコーヒーにはどうやら毒が再び盛られていて、私はまた数時間ひっくりかえるという結果になるが、恥ずかしすぎるので、言わないでおこう。
毒入りコーヒーは暗殺の味 黒幕横丁 @kuromaku125
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