遠慮のかたまりなんてもってのほか
わなわなと震える実靖さんにニコニコと微笑むマスター。
「マスター、知り合いですか?」
「えぇ、腐れ縁というやつですよ。名前が似ているコンビと周囲からからかわれたこともありましたねぇー」
「名前……あっ」
“実”と“実”靖。確かに字が一緒だ。
でも、性格がかなり対称的だなぁー。
「やぁ。相変わらず得体の知れない仕事をしているみたいだねー。実靖は」
「おっ、お前に言われたくないっ!!」
「私は、こうして喫茶店のマスターをしているわけですが、全うな職とはいえないんですか? 心外ですねぇ」
マスターは残念そうな声を漏らす。
「嘘を付け。そんな事をいって、まだあの仕事を続けているだろう?」
「さぁ? なんのことやら」
どうやら実靖さんはマスターが裏社会でアサシンをやっているということを知っているんじゃないだろうか?
「それで、今日は何しに来たんですか? もしかして、私の依頼人でも横取りしに来たんですか?」
「お前の依頼人だぁ? そんなの何処にいるっていうんだよ?」
実靖さんはぶっきらぼうな態度で店内を見回す。
「ここに、いるじゃないですか」
マスターはそういうと、僕の肩をそっと叩いたのだ。
「ちょっと、待て、甥っ子の友達がお前のようなヤツと契約なんて結ぶわけないだろ? そうだよな、裕也くんだっけ?」
実靖さんの目は嘘だといってくれとでも言いたげな感じで語りかけてくる。その視線に耐えられなくて、僕は目線を逸らした。
「裕也くん、はっきりと言っておやりなさい」
「えーっと、成り行きなんですが、マスターにボディガードしてもらってます。はい」
目線を逸らしながらいうと、いきなり実靖さんが僕の肩をがっしりと掴み、ブンブンと縦方向に揺らす。
「裕也くん、目を覚ますんだ!! 君はアイツにだまされている!!」
僕の視界がぐらんぐらんと揺れる。
「伯父さん、振りすぎだよ。ゆうやんの顔が青白くなってる」
「あ、すまない」
衝動的な行動から我に返った実靖さんは揺らすのを止めた。
「それにしても、ボディガードなんて雇ってたなんて、ゆうやん凄い! 見るからに伯父さんより有能そうじゃん」
「ガーン」
高木くんの言葉のやりが実靖さんに思いっきり突き刺さる。
「でも、どうしてこういうことになったの? 何か起きたの?」
「あー、えーっと、いろいろあってね」
高木くんの質問に僕は言葉を濁す。言ったら彼を騒動に巻き込みそうな気がしてしまったからだ。
「ふーん。言えない理由なら特に言わなくていいよー。気にしてないし」
高木くんがそう言ってくれたので、僕はほっと胸を撫で下ろした。
「裕也くんとの契約を今すぐ取り消してもらおうか? ボディガードなら私にだって出来る。お前じゃ荷が重いだろ?」
実靖さんの言葉にマスターがピクリと眉を動かした。
これはもしかして一触即発の危機では!?
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