あくまでビジネスパートナーです!

「マスター、ちょっと……」

 僕は屈みながら、ゾンビと対峙しているマスターを手招きする。

「なんですか?」

 マスターは少々屈みつつも、ゾンビたちの動向を確認しつつ僕の話に耳を傾けた。

「一つ狙って欲しいものがあるんです」

「ほう? 突破口が見つかったわけですね」

「正解かどうかは分からないですが、一応」

 僕はカウンターから覗き込むように術士エリスの様子を眺める。やはり、一定時間毎に香水のようなものを振りまいているように見えた。

「彼女が振りまいているあの香水のような容器を撃ちぬいて欲しいんです」

「ほう、そのこころはなんですか?」

「一定時間毎に彼女はあの香水を振りまいているんです。もしかしてゾンビが死なない理由は其処にあるんじゃないかなって。増強剤的な……そんな感じで」

「なるほど、一理あるかもですね。不確定要素は潰すに限ります」

 だが、しかし、彼女の持っている容器は狙う的としては小さいくらいのものだ。マスターがアレを射抜くことが出来るのだろうか?

「マスター、針の穴に糸を通すレベルで的が少々小さいと思うんですけど、大丈夫ですか?」

「これでも、裏社会界隈では伝説の暗殺者として名が通っていますからね。朝飯前ですよ。ただ……」

「ただ、なんですか?」

 僕はゴクリと喉を鳴らす。

「私は昔から裁縫はからっきしでしてね、針の穴に糸は通せないんですよ」

 苦笑交じりにマスターがゾンビをフッ飛ばしながらそう言った。いや、そっちの話は言葉のたとえなんで、気にしないで下さい!

「まぁ、ようはあの容器を狙えばいいんですね。わかりました。裕也くんの勘を信じましょう。合図は頼みますよ!」

 マスターはウインクをして再びゾンビと対峙をする。というか、僕に対してそんな絶大な信頼感はやめてください! もし外れたとき恥ずかしいじゃないですか!

 僕は若干照れながら再びカウンターから覗き込む。チャンスは彼女が再び香水を散布する時、多分外れたら以降警戒されそうだから一回きりしか使えない。

「そろそろ観念しては如何ですか? 大人しくわたくしのコレクションになってくださいませ」

「生憎ですが、私はまだこの店を切り盛りするという役目がある。それに、依頼人の命も護ってあげないといけないですからねぇ」

「まぁ。そういうところがアサシングロウのステキなところですわ。しかし、そろそろ退屈してきたところですので、終わりにしましょう」

 彼女は指を鳴らすと、倒れていたゾンビが一斉に起き上がった。

「行きなさい!」

 彼女はそういうと、手に持っていた香水を吹きかけた。


 今だ!


「マスター、今です!」

 僕の合図とともに、マスターの口角が上がった。

「待ってましたよ。このときを!」

 そういうと、彼女へ向けて銃を発砲した。

 それは見事に香水の容器へと当たって、床に転がる。容器に穴が開き、液体が床にこぼれる。

「な、な、な」

 その様子を術士エリスは顔面蒼白になってみていた。

「なんということをしてくださったの! これじゃわたくしは……嗚呼」

 彼女は真っ青な顔のまま、床へと倒れた。

 それが合図かのようにゾンビたちも次々と倒れ、まるで存在していなかったかのように霧になって消失したのだった。

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