人生は深くても浅くてもどっちでもいい

 床に転がっている少年の寝顔を見る。そのあどけない寝顔を見て、彼が命を狙われるほど悪いことをしているようには見えなかった。

 少し可哀想なことをしてしまったのかもしれない。しかしこれも仕事だ。許せ、少年。

 私は少年を少々強引に持ち上げて担ぐ、それでも少年は目を覚ます兆候は無い。毒が未だに効いているのだろう。

 毒が効いているうちにバックヤードへと運び、少年を椅子へと腰掛けさせる。そして手近にあったビニール紐である程度括りつけて拘束をした。

 後は毒の効果が切れれば少年は自然と目を覚ますだろう。

「やはりこの暗殺は私の美学には反するな」

 難解な暗殺を成功させることこそが、私の美学だった。なのに今回の依頼はどうだ? ターゲットは一般人の少年一人。狙う相手にはあまりにも易しすぎる。

 依頼人のアイツが何を考えているのか全く読めないが、ある程度この少年が目を覚ましたら話すかもしれない。ソレを聞いて判断するとしようか。話の内容によっては、少年の暗殺をやめる事だって……。

「フッ……私も丸くなったのかもな」

 ふとそんな考えをした自分を自分で笑う。裏社会で生き続けて30年。自分の存在意義のために暗殺を続けてきた私が少年一人の暗殺さえやめようとする考えが過ぎるだなんて。長生きはするもんじゃないな。

 腕時計で時間を見る。そろそろ、少年に飲ませた毒が切れる頃合いだ。さて、その前に。

「一人……、いや、二人か」

 この建物を見張っている奴らが何人か居る。その奴らの視線を感じ取る。

「アイツめ、念には念を入れてきたな」

 恐らくは私が暗殺を失敗した場合に私ごと少年を消すつもりなのだろう。あるいは成功しても失敗しても消すつもりのどちらか。

「これは、面白くなってきたじゃないか」

 この展開に内心ワクワクしてきた、私が居た。

「ん……」

 そんな中、少年が目を覚ました。

「ここは? ってか、なんで僕拘束されてるの?」

 今の状況が飲み込めず、椅子に座ってジタバタしていた。


 さぁ、楽しい遊びの始まりだ。

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