第一章 でっど おあ あらいぶ!?

それは突然にどーんと

「ここにも新刊無かった……がっくし」

 僕、渡理裕也は五軒目の行きつけの本屋の入り口で落胆していた。

 大好きなSF作家の最新刊が欲しくて欲しくてたまらないのに、どの店に行っても売り切れで買えてない状況なのだ。

「発売日告知されたのがテスト前だったのが痛いよなぁ……予約にもいけないし、発売日にも買いにいけなかったし、いざ、テスト終わって買い出かけたら売り切れてるし……。もう1軒いっても無かったら最終手段の通販かぁ……」

 ネット通販が主流の現代において、通販すれば手っ取り早い話なんだろうけども、僕はなんというかそういう非対面式の買い物は少し苦手なところがあるのだ。

 なので、最後の望みをかけて本屋に向かおう歩き始めると、


 トンッ。


「おっ」

「あら」

 杖を使って歩くおばあさんと軽くぶつかってしまい、おばあさんの持っていた杖が地面へと落ちた。

「あっ、ごめんなさい。ぼーっとしてて。今取りますね」

 僕はすかさず地面へと落ちた杖を拾い上げ、おばあさんへと渡す。おばあさんは顔に小皺を作るようにニカっと笑い、

「ありがとう。私の方こそ、急いでいてボウヤに気付かなかったんだよ。すまないねぇ」

 おばあさんは軽く僕に会釈をすると、再び杖を使って歩き出した。どうやら怪我とかはされて居ないようだ。横断歩道を歩くおばあさんを見送りつつ、僕は当初の目的であった本屋に向かおうと歩き出した。


 はずだった。


 ふと、視線を道路の方へ逸らすとけたたましいクラクションを鳴らしながらいかにも高そうな黒塗りの車が青信号の横断歩道に向けて暴走しているのが見えてしまったのだ。

 このままではあのおばあさんをはねてしまうのでは?という考えが脳裏を過ぎって、僕はおばあさんの方に向けて駆け出したのだ。

 火事場の馬鹿力というか、人間いざって言うときに、自分が思っていた以上の力ってやっぱり出るんだね。いつもはそんなに足が速くない僕でも、今なら世界新記録叩き出しそうな感じにおばあさんの元へと走る。

「おばあさん! 危ない」

 車がおばあさんにぶつかる前に、僕はおばあさんを抱え込んで、横断歩道を転がりながら渡りきると、間一髪で車は猛スピードで横断歩道を横切って行った。

「危なかったー……」

 僕は地面に寝転がったまま安堵のため息を付いた。その奇妙な格好に周りには野次馬が集まり始める。

「ボウヤ大丈夫かい?」

 おばあさんはゆっくりと体を起こして、僕の顔を見た。

「なんとか、大丈夫です。おばあさんこそ、怪我が無くてよかった」

「ボウヤのお陰でねー。ひ弱そうな体のなりなのに根性があるじゃないか。たいしたもんだよ」

 そういっておばあさんは僕の筋肉のない腕をペチペチと叩く。

「いっ、痛いです」

「立てそうかい?」

 おばあさんは杖を使って立ち上がると、僕に向けて手を差し伸べた。

「あ、ありがとうございます」

 僕はゆっくりと立ち上がる。

「さて、私はこれにて失礼するよ」

 僕を起き上がらせると、おばあさんはまた会釈をして歩き出そうとしていた。

「え、でも、さっきのことは警察に言わないんですか。どう見ても事故未遂じゃ……」

「警察じゃ、このことは多分解決出来ないだろうさ。それに、私のことをボウヤが守ってくれたということが今重要なことだから、警察に言う必要なんてないのさ」

 おばあさんはまるで自分をはねようとしていたモノが誰か分かっているような口ぶりだった。

「じゃあ、助けてくれてありがとうねぇ、ボウヤ。それと……」

 おばあさんは僕の肩をポンと叩く。


「これから大変だろうけどがんばるんだよ」

 そう言うおばあさんの口角はニヤリと上がっていた。

「え、それってどういう……?」

 僕がおばあさんに聞き返そうとして振り向いたとたん、もう彼女の姿は人ごみへと消えて行った。

 一体どういう意味だったんだろうと少し考えてみたけども、答えを出すことも出来ず、僕はモヤモヤしたまま、本屋へと向かうのであった。


***


「大変だ、アニキ! 失敗しました」

「何だって、彼女が表で堂々と力を使えるはずが無いのに、何故だ!?」

「それが……、通りすがりのガキに阻止されまして」

「ガキだとぉ? 普通の人間のか?」

「へい、これが映像です」

 慌てた手下はボスらしき人物へ、映像端末を差し出す。ボスはその端末に流れる映像を怪訝な顔で見ていた。

「情報班にこの映像を渡して調べさせろ。このクソガキの身分を」

「へい!」

 手下はボスから映像端末を受け取ると急いでどこかへと走り去って行った。

「彼女を始末できなかったのが痛いが、とりあえずはこのガキから処分しないといけないことになったようだな」

 ボスの口からは笑みが漏れ出ていた。

「おい、誰かアサシングロウに連絡を取れ。仕事だとな!」

 ボスは皮製の椅子に深く腰掛け、テーブルに置いてあったロイヤルミルクティーを口にいれた。

「彼は表での生活も長いから、気付かれずに簡単に始末してくれるだろう……クックック。俺の裏社会転覆計画は誰にも邪魔させない」



 こうして、僕、渡理裕也はひょんなことから、自分の命を狙われることとなったが、この段階では、僕はそんなことなんて全く知ることも無く、最後に向かった本屋でようやくめぐり合えた新刊片手にスキップで家へと帰っていくのであった。

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