流行りも廃りも考え様
「おはよ。真剣な目つきで何を読んでいるの?」
朝、学校で僕は眉間に皺を寄せながらゾンビパニックもののホラー小説を読んでいたところを、高木くんに声を掛けられる。
「ゾンビが出てくるホラー小説」
僕はいたって真剣に答える。
「猫と無事和解した後は、今度はゾンビとでも和睦しようとしているの?」
「そういうわけじゃないけど、久々に読んでみたら面白くてページを進める手が止まらないんだ」
何か解決策は無いかなと家にあったホラー小説を見ていたんだけど、本当に面白くなって学校まで持ってきて読み込んでいるという感じだ。
「そうなんだ。ところでゆうやんが前に話してた不思議な出来事は解決したのかい?」
そういえば高木くんにはあの話をしていたことを思い出す。
確かに解決したと言えば解決したんだけども、あれを解決と言ってしまってもいいのだろうかと思えば違うし、うーん。
僕は険しい顔で考えていると、高木くんは心配そうな顔で覗き込んできた。
「まだ解決してないの?」
「いや、解決は一応しているんだよ。うん。僕がちょっと腑に落ちないだけで」
「一応解決しているのなら、いいんだけども。昨日、前に紹介した伯父さんにゆうやんの話をしたら興味を示しちゃってさ、今度是非話を聞きたいって言っていたから、またその時に心配事でも相談すればいいと思うよ。結構親類の中でも頼りになる部類だからさ、うちの伯父さん」
そう微笑む高木くんの笑顔が眩しすぎて、直視出来ないんですが、それは。
「あ、ありがとう。そうする」
僕は、神様・仏様・高木様―。と心の中でめっちゃ拝んでいたのでありました。
無事今日の学校も全て終わり、別段用事も無いので、本日も報酬を払いにGrowSeedへ向かう僕。
昨日は帰り道にゾンビに遭遇したので、キョロキョロと周囲を警戒しつつ歩く。しかし、店に着くまで物陰からゾンビがやってくることは無く、僕が得たものといけば、警戒しすぎは逆に第三者に凄く怪しまれるという教訓のみだった。
扉を開けると、ドアベルがカランカランと鳴る。店内はいつも以上にお客さんでごった返していて、店内にはフローラルな香りが一面に充満していた。
「いらっしゃい」
「マスター。今日はやけに人が多いですね?」
ここは大体30人で満席という小規模の喫茶店なんだけれども、僕を入れるとほぼ満席状態のような感じだった。
「そうなのだよ。いつもこの時間帯は多いけれども、今日は一段と人がごった返しているね。しかも、新規客ばかりだ」
「新規ばかりだとおかしいことがあるの?」
というか、常連客も覚えてるんだぁ。
「常連の顔は大体限られているからね。それに雑誌とかテレビとかで紹介されない限りは私の店のような小規模の店がある日突然新規客ばかりやってくるというのは不自然だろ?」
「……確かに」
「私はタウン誌とかでの記事の掲載を断っているからね。新規客がやってくることなんて滅多にない。だから、この状況は異質だ」
「ということは、……どういうこと?」
「私にも何が起こるのかさっぱりだ。裕也くんには思い当たる節は無いかい? 何か変わったことが起きたとか」
何か変わったこと……。
「あー、昨日帰り際そこの帰り道で電柱の物陰にゾンビが飛び出してきたんですよ」
「ゾンビ?」
「えぇ。ゾンビですよ。そういえばこの店内に漂ってるようなフローラルな香りの……」
あれ? なんで、昨日襲ってきたゾンビからかもし出された花の香りが店内に香っているんだ? 昨日までそんな香りは店内ではしてなかったのに、
嫌な予感が僕の脳裏を過ぎる。
もしかして……、店内に……
ゾンビが……。
「ウガーーーー」
そのことに気がついたとき、背後から唸り声が上がった。声の主は僕の真後ろに居た。
「裕也くん、伏せるんだ!」
マスターの声を聞いて咄嗟に身を屈める。次の瞬間聴こえたのは、
「ウガァァァァアアア!!」
ゾンビの断末魔だった。ハッとして振り向くと、客に装ったゾンビが顔を手で覆ってもがき苦しんでいたのだ。
「いや、危なかったねー。昨日のホイップクリームが役に立つなんて思わなかったけど」
そう言って泡だて器を持ってニッコリと微笑むマスター。
「これは一体どういう……」
「どうやら、私の店がゾンビたちに占拠されたらしい。店の中はほとんどゾンビだらけだ」
店中がゾンビだらけですと!? もう、パニックホラーでよくある絶体絶命というやつじゃないですか。
すると、店の奥でパチパチと手を叩く音が聞こえた。そこには、長い白髪が目立つ一人の女性が座っていた。
「さすが、アサシングロウ。素晴らしい洞察力ですわね。おみそれしましたわ」
拍手のあと、カップに口をつけて飲み物を流し込む。
「いかにも、この店はわたくし、術士エリスの可愛いゾンビちゃんたちによって占拠させてもらいましたの。さて、大人しく死んでくださいませ」
エリスと名乗った彼女は僕たちに向けてクスッと笑いかけてみせた。
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