しょうしゅう ねくろまんさー

TPOのへったくれもない

 呼び出しに最初にやって来たは、黒いドレスに身を包んだ白髪の美女だった。

「私を呼んでくださり光栄ですわ」

「君はこの界隈で一番のネクロマンサーだと俺は思っているからねぇ」

「あら、そう言ってくださるのは貴方様だけですよ」

 美女はフフフと笑ってみせる。

「さて、術士エリスよ。頼みがあるんだが、よろしいかな?」

「えぇ、頼まれた以上断る義理はありませんことよ? なんなりと」

 エリスは深々とお辞儀をした。


「この男と少年を抹殺してはくれないだろうか?」


 ボスはエリスに二人の写真を渡すのであった。


***


 僕の命を護るという影山さんの脅迫により、僕は影山さんのお店に通って飲食代を払わないといけない宿命になってしまいました。

「脅迫という言い方は失礼だなぁ。譲歩案がそれしかなかったんだから、仕方ないじゃないか。元気を出しなさい、少年」

 コトリと影山さんはカウンターに僕が注文したコーヒーを一杯置いてくれました。

「譲歩案が無いといいましてもですね、そもそも、影山さんが僕をころフガッ」

 いきなり僕の口が影山さんの手によって塞がれて、僕は息が苦しくなる。

「こらこら、少年。お客さんが居る中でそんなとんでもないことを言ってはいけないよ。郷に入っては郷に従えって、親御さんからも習ったでしょう」

 そう囁いたあと手をパッと離す影山さん。

「あと、ここでは影山さんじゃなくてマスターって呼んで欲しいなぁー。私の店だからねぇ」

 そう言って楽しそうに泡だて器でホイップクリームを作るマスター。

「ホイップクリームなんて作ってウインナーコーヒーでも作るんですか?」

「欲しいならいるかい? 口に入れた瞬間、コロリと天に召されるかもしれない毒性の強いこのホイップクリーム」

 いやいや、なんでそんな危ないシロモノをカウンターで楽しそうに作っているんだこの人は。

「いやそんな危険物お断りします」

「えー、刺激的な味で良いと思うんだけども」

「お断りします」

「しょうがないなー。片付けますか」

 マスターは残念そうに猛毒ホイップクリームを近場の棚へと仕舞い込む。

「話を元に戻しますが、マスターがあんな依頼さえ受けなければこんなことにはならなったと思うんですよね」

「私が依頼を受けずとも他の人を雇っていた場合も大いにありえますし、その場合は私と君は出会っていないことになるので、君の命の危険性は更に高まると思いますが?」

 正論を述べられてウッと言葉に詰まる僕。

「そもそも、彼女を助けてしまったことが狙われる切欠ですからねぇ」

「そう言われても、見て見ぬフリはというのはあの状況では無理だったんです」

「そういう心がけは素晴らしいことですよ。しかし、相手が悪かったですねぇ」

 まぁ、冷めないうちにどうぞとマスターからコーヒーを勧められるが、僕はじっとコーヒーを見つめる。

「……今度こそ普通のコーヒーですよね?」

「普通のという付属語が気になりますが、一般的にコーヒーと呼ばれる部類の飲み物ですよ。一応は」

 そう言われて恐る恐る口に含む。確かにほろ苦さと香ばしさが口の中に広がって確かにコーヒーだった。

「前回はアレ入りだったのに美味しかったから、もうマスターの本職はこっちの喫茶店でいいじゃないですか。あっちの方は廃業ということで」

「あっちとかこっちとかちょっと意味が分からないですねぇ。でも、君が言うあっちの方を辞めてしまうと、君は誰に護ってもらうんでしょうねぇ」

「ウッ」

 またも正論を言われて、僕はぐいっとコーヒーを飲み干した。


 今日飲んだ御代を払って店を出る。

「はぁ、護衛代が安いのか高いのか」

 ぼったくられることを懸念はしていたが、一般的な喫茶店の飲食代しか徴収されなくて安心した。しかし、ちりも積もればなんとやら。このまま解決しないことには僕がどんどんマスターに搾取されていきそうな予感がする。絶対そうなる、うん。

 トボトボと帰る帰り道。喫茶店の中で勉強はある程度終わらせたから、あとは帰ってご飯を食べて寝る準備をするだけだ。何が起こるかわからないし、足早に帰りたいと早足で帰路へ向かう。

 GrowSeed近くの道はやや暗く、物陰から何か出てきそうで怖い雰囲気をかもし出していた。

 最近見たドラマでワッといきなり人が飛び出してくるシーンがあってソレが脳裏に過ぎってゾワッと寒気が襲う。

 いや、でもドラマの話だし、そんな事滅多に起こるわけ、ないよね。

 僕がそう思いながら歩いていた瞬間だった。

「ガー!」

 目の前の電信柱の物陰から、出てきたのは体中からフローラルな香りを放つ。


 ゾンビだった。


 あまりの驚きで僕はそのゾンビと対峙した瞬間、叫び声も上げずに固まってしまったのだった。

 いやぁ、人間驚きすぎると思考が停止するんだね。人類の史上初の大発見だわ。

 まて冷静に大発見に驚いている暇は無い。何? もしかして、僕の命を狙う新しい刺客がゾンビ? アメリカのホラー映画か何かか?

 アメリカのホラー映画あるあるとかだったら、めっちゃ弱い少年が最後に勝ってハッピーエンドっていう流れだけど。イチかバチかやってみるか。

 そう言って僕はえいっとカバンをゾンビにぶつけてみた。あるあるが本当なら、ゾンビは一撃でノックダウンするという流れなんだけども。

 攻撃なんて効く訳が無く、

「ガーーー!!!」

 ゾンビは怒り出して僕に向かって襲いかかろうとしてきたのだ。

 やっぱり現実はそう上手くは行きませんよねー! すいませんでしたー!

 僕はゾンビに謝りながら家まで走って逃げたのであった。

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