なのらずの さむらい

人選ミスなんて迷信です

「クソッ!」

 ボスは術士エリスがよこしたゾンビが持ってきた一通の手紙を読み、怒りに任せてくしゃりと丸めてゾンビに向けて投げつけた。

「ガー」

 ゾンビは唸り声を上げた後、砂になってこの場から消え去った。

「小娘が、あんな手紙で誰が納得するというのだ」

 その手紙には以下のような内容が書かれていた。


 依頼人 ***様


 ごめんなさーい。任務失敗しちゃった★

 やはりアサシングロウは強いしかっこいい方だし、私の認識不足でこれ以上の任務続行は不可能だから、成功報酬は振り込まなくていいですわ。

 まぁ、どうしてもっていうなら受け取ってあげなくもないですが。

 貴方の企みは既に分かりきっていることですけれども、あまり派手なことはしないことですわねぇ。

 全うな裏社会人生を歩んでくださいませ。

 それでは。ごきげんよう。


 エリス


「何が全うな裏社会人生だ。舐めやがって」

 イライラしているところに、手下がいきなり部屋の中へと入ってくる。

「おい、部屋に入るときはちゃんとノックをしろって言ったよな?」

「あ! ボスすいません。急いでいて忘れてました!」

「急ぎの用とは何だ?」

「例のサムライが来ました」

「……通せ」

 ボスが許可を出すと、其処には金髪ポニーテールで着流しを更に着崩した、まるでカブキ者と呼ぶにふさわしい人物だった。

「ちーっす! あんたが俺を呼び出すだなんて珍しいねぇー」

 サムライはボスに向かってフランクに接し始める。

「呼びつけたのは四日前だが、今ごろ来るだなんて遅いんじゃないのか?」

「ヒーローは遅れて来るっていうっしょ? あ、俺ら裏社会の人間だからどっちかというと悪役かっ」

 ハッハッハと楽しそうにサムライは笑う。

「遅刻の件は、成功次第で帳消しにしてやろう。依頼だ。こいつらを消せ」

 ボスは二枚の写真をサムライに向けて投げつける。

「お写真はいけーん。おっ、片方はアサシングロウじゃーん。めっちゃ有名人だし、めっちゃやばない?」

 サムライは目をキラキラと輝かせる。

「片方のパンピーは知らないけど、ようは、俺の剣の腕を試したいって訳っしょ?」

「そういうことになるな。報酬も弾むぞ」

「っしゃー! また豪遊してチャンネーにキャーキャーいわれにいくぜ! 今宵も俺の刀が血に飢えてるってねぇー」

 サムライはノリノリで腰に刺している刀を抜いてみせる。

「報告を楽しみにしているぞ」

「かしこまー」

 サムライはそう言って部屋から出て行った。

「……」

 部屋に暫しの静寂が流れる。

「……相変わらずチャラいな、アイツは」

 ボスの口からは重過ぎるため息が漏れていた。

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