大層なものではございませんが

「二人仲良く、ゴートゥヘルよぉ!」

 ガキン。

 僕の目の前で火花が散った。比喩的表現ではなく、実際に火花が舞ったのだ。

 金髪の男が手に持っていたのは、薄くて細い刀。光の角度によってはコチラから武器を見ることが出来ないような仕様になっていた。

 一方、マスターがその攻撃を防げたのは……、なんと、包丁だった。

「手元にちょうど包丁があって助かりましたよ。それにしても、そんな薄くて細い刀で良くあんな力が発揮できますねぇ。貴方の日ごろの努力の結果ということですかね」

 マスターは涼しげな顔をしているが、金髪の男の攻撃を防いでいる包丁はギチギチと音を立てている。

 時折波模様が光に反射して、独特の紋を描く。見たこと無い包丁だから、きっとあらゆる攻撃を防ぐように作られた特注品なのかもしれない。

 僕は目を輝かせながらその包丁を見た。

「裕也くん、過度な期待をさせてしまっているかもしれませんが、この包丁はいたって普通の包丁ですよ。波模様なのはダマスカス鋼を使っているからこういう模様になるわけでして、決して料理用以外には向いていないものです。そろそろ避難しておかないと、首と体がオサラバするかもしれませんよ」

 マスターはそういうと、男の刀を上へと振り上げる。その隙に僕は格好悪いハイハイのような動きで出来るだけ攻撃を受けないような場所へと隠れて、男の動向を見る。

「へぇ、俺っちの攻撃を防ぐなんてまじミラクルってーの。だんだん楽しくなってきたってぇ! ヒャッハー!」

「来いよ、青二才。その言葉遣いと性根を叩きなおしてやる」

 嬉しさのあまり金髪のポニーテールを揺らすようにピョンピョンと跳ねる男と、それをまるで煽るかのように手招きをするマスター。見える、見えるぞ。僕にはあの二人の背後にチンパンジーとマレーグマが見えるぞ!

 そんなイメージをしてしまってカタカタと震える僕を他所に、二人の戦いが始まる。

「アサシングロウもそろそろおじいちゃんなんだから、家でのんびり茶でもしばいてればええんだって!」

「生憎だが、私はまだまだ働き盛りの40代でねぇ。君たち若者におじいちゃん扱いをしてもらいたくない」

「無理ダメぜったーい。体壊しちゃいまちゅよー? 嗚呼、でも死んだら関係ねーっか」

「君のような若者にやられるくらいなら、カメツキガメにやられたほうがマシだ」

「そんなにペラペラ話してたら舌噛みまちゅよー」

 金髪の男が髪を揺らし、凄まじい勢いで攻撃を放ってくるので、さすがのマスターも時間経過とともにどんどん押されていった。

 そして、


 ザクッ。


「つっ……」

 男の攻撃が左の二の腕を掠め、マスターの腕から血が飛び散った。

「ほぉら、言った通りっしょ?」

 男は口角を上げる。

「まだまだ行くからブレイクタイムはさせないよ?」

 さらに、男の攻撃は続き、マスターは一つ、また二つと傷を作っていく。

 ど、ど、どうしよう。このままもしマスターが倒れたら今度は僕がアイツの刀の餌食に。僕はサーっと顔を青ざめながらその様子を見ていた。

 しかし、見ているだけじゃダメだ。ここはなんとか行動に移さないと。でも、どうやって? 僕が下手に飛び出していっても、斬りかかられるかもしれない……。それじゃ、マスターを見殺しに……。僕の頭の中をぐるぐると色んな考えが過ぎっている。

「もう、なんだか、わからない!!」

 僕は考えがパンクして混乱してしまった。

 そして、混乱したまま、

「うぉぉおおおおおおお!!!」

 金髪の男に向かって突っ込んだ。

「うわっ」

 いきなりの突撃に気がつかなかったのか、金髪の男は僕のタックルを直接喰らって倒れこんだ。

 するとその時、ポテッと男から何かが転がったのだ。それはカードサイズの皮製の入れ物だった。

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