ツッコミ不在のあこぎなしょーばい
カウンターに仏頂面で拗ねているぽんぽん丸が座っている。
「ほら、ぽんぽん丸。マスターがコーヒー入れてくれたから」
「……」
「裕也くんの驕りでいいそうなので、飲んでください。ぽんぽん丸」
「え、僕の驕りなの!?」
「……」
ぽんぽん丸はずっと拗ねたまま僕たちと目を合わせようともしない。僕たちに名前を知られたことを根に持っているのだ。
これじゃ、ぽんぽん丸がぷんぷん丸じゃないか。
「フフッ」
脳内に流れたすっごくくだらない冗談に自らツボに入ってしまう僕。
「おい、今、俺っちの名前で笑ったっしょ?」
ぽんぽん丸が僕の笑い声に気がついて睨んできた。
「別に、ぽんぽん丸の名前で笑ったわけじゃないんだけど、……ふふっ。ごめん、雑念が取り除けなくて、ふふっ」
どんどんツボって笑いが止まらなくなる。
「別に、いーし! 俺っちでもだっせぇ名前だなぁーとは思っているから。笑いたきゃ笑えってんだ。べらんめーこんちき!」
一方の、ぷんぷん……じゃなかった、ぽんぽん丸はどんどん拗ねていく。
「そんなに名前が気に入らなかったら改名すればいいんじゃ……」
「裕也くん。一度裏社会で名前が通ってしまうと、改名というのは難しいんですよ。名前を捨てるというのはそう簡単にはいかないのです」
マスターが僕に優しく忠告をする。
尚更、じゃあなんでそんな名前にしたんだよ。ぽんぽん丸。
「若干酔っちゃっててさぁ。ノリと勢いで決めたんだよ。誰か止めてくれるんじゃね? と思ったけど、誰も止めてくれなかったんだよなぁ……これが」
ホロリと涙を流しつつコーヒーを飲むぽんぽん丸を見て僕は、よし、親友とはノリと勢いをたまに止めてくれるヤツのことなんだなと悟った。
「もうやだ、まぢウツ。尼寺に駆け込みたい」
拗ねレベルがマックスに近くなり、だんだんとヤンデレのようになるぽんぽん丸。
ちなみに尼寺には駆け込めないと思うよ。うん。
「まぁ、そんなに気を落とさずに、これでも食べてください」
そう言ってマスターがぽんぽん丸に差し出したのは、
例の真っ黒いスープだった。
「ま、マスター何というものを出しているんですか!」
タバスコの2000倍の辛さの物体をチャラい侍に普通提供します? もしかして、ここで闇討ちとかしようとか考えてません?
「ちょうど、開発段階のものがあってね。動いたからお腹が空いたでしょう。よかったらどうぞ」
マスターはぽんぽん丸に満面の笑みをこぼす。あ、この笑顔はなんか企んでいる顔だ、僕の直感がそう言っている。
「いいっすか? ちょうど腹ペコリーヌだったわけ。アサシングロウ空気よめるぅー!!」
ぽんぽん丸が嬉しそうに黒いスープにスプーンを入れる。
待て! 早まるなぽんぽん丸! そんな殺傷兵器を食べたら一発であの世行きだぞ!!
僕が止めようとしたが、既に遅く、ぽんぽん丸がそのリーサルウエポンを口に運んでしまった。
「うっ……」
その瞬間、ぽんぽん丸からうめき声が聞こえる。ほら、だから、そんな危ないものを口に入れちゃダメって……。
「辛くて美味しい!!」
「「へ?」」
目をキラキラさせてスープの感想を述べるぽんぽん丸。その言葉に、僕もマスターも唖然とした態度で聞いていた。
「おいしい? 本当かい?」
予想もしなかった回答が帰ってきて、マスターも慌ててぽんぽん丸に聞き返す。
「あー。病み付きになる辛さだぜ。これならペロリといきそう!」
ぽんぽん丸はそういうとどんどんスープを食べていった。
ぽんぽん丸が多分特殊な訓練を受けています。良い子は程よい辛さの食べ物を食べましょう。
数分後、ぽんぽん丸の目の前には黒いスープを食べつくした跡が置かれていた。
あの殺人スープを飲みきるとは……、と僕とマスターが呆然とその空き容器を眺める。
「お腹一杯になったら依頼なんてどーでも良くなったから帰るわ! スープごち!」
満腹になって満足したぽんぽん丸はカウンターから立ち上がる。
「あ、一応言っておくが、俺っちの名前は他言無用だし。もし言ったら……わかるよな?」
僕の首に例の薄い刀を近づけて警告するぽんぽん丸。分かってます! 重々承知してます!!
「じゃ! また何かあったらよっろしくー!」
刀を鞘に納めて、ぽんぽん丸は店を後にした。
「濃かった……」
「えぇ、濃かったですねぇ……」
呆然と扉を眺める。僕とマスターなのであった。
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