どかんといっぱつ
発砲音と共に白い物体が1体、パンッと弾けて消滅し、床にはボロボロになった紙がヒラヒラと舞い落ちた。
「やはり、ヒトガタを媒介に召喚したものだったか。この数相手だと久々に私の腕が鳴るな。ところで、裕也くんに一つ忠告があるんだが、よろしいかな?」
ニコニコとしながら影山さんが僕に口を開く。
なんとなく察したが、この人がこんな満面の笑みをしているときは大体僕にとって嫌なことを頼むときの顔だ。
「な、なんでしょう?」
「君はドッジボールとかは得意かな?」
質問の内容で大体察しがついた。
「どちらかという外野専門でしたけども、もしかしなくても全力で避けろとおっしゃりたいんですかね?」
「おー、なかなか鋭いね。ご明察、正解だよ。さて、少年! 死にたくなかったら全力で避けろ!」
影山さんのその一言で場の空気が瞬時にピリッと張り詰める。
あの人のそういうスイッチが入ったということだろう。
小型の銃で何体か殲滅したあと、どうやら弾が切れたらしく、ポイっと銃を投げたかと思いきや、白いうねうねの股下をスライディングの通り抜け、今度は後方の縦長いロッカーの扉を開けた。其処にはボウガンが置かれていて、ソレを手に取ると、影山さんは式神に向かって矢を放つ。
その矢は見事に式神に命中し、消滅をするが、矢の勢いは落ちることなく、僕の左側をかすめ、壁に突き刺さった。
「ヒイッ」
閉じ込められている空間が狭いためか、飛び道具を放たれると流れ弾に当たってしまう確率の方が高い。僕は影山さんの動きを注視しながら逃げないと、式神に始末されるより前に影山さんに始末されてしまうのだ。
これってドサクサに紛れて僕を始末しようとしてないか?
いやいや、ちゃんと契約したんだ。命は護ってもらわないと困る! 大いに困る!!
そんな僕の不安を他所に、影山さんはこの狭い室内の中から続々と武器を出して式神と対峙していた。
ボウガン・拳銃・日本刀・サーベル・鉄扇・鞭、エトセトラ……。
「ここは武器庫か何かですかね?」
「ははは、裕也くんは面白いことを言うねー。ここはただの喫茶店に決まっているじゃないかー」
影山さんはそう言いながら軽快にレイピアで式神を刺して倒していた。
「ふぅ。とりあえずこれで片付いたみたいだね」
程よく汗をかいて爽やかに笑う影山さんの周囲には無残なほどの紙切れが散乱していた。それだけ来た数が多いということを物語っていた。
「床の片づけをしないといけないねー。裕也くん、はい」
そう言って僕にほうきを手渡す影山さん。
「いやー、久々にいい汗をかいたよ。ひっそりと暗殺ばかりしていたから体が動くかどうか心配だったけど、いやぁまだまだいけるみたいだねぇ」
“ひっそりと暗殺”というパワーワードが飛び出す室内で、僕と影山さんはもくもくと紙片をほうきで掃いていた。
「そういえば、これ以上の式神?みたいなのは来ませんね?」
あれから数分ほど経っているが追加の白い物体が襲ってくることは無かった。
「ヒトガタも無限に生み出せるわけではないからね。さしずめ、通販でお徳セットを買った分を使い切ったのだろう」
「お徳セット……」
「裏社会通販では良く見かけるよ」
そんな雑な通販があるのかと、僕は少し気が遠くなった。
「あ、そういえば、影山さんに僕の暗殺を依頼した人って誰なんですか?」
僕は思い出したかのように影山さんに影の首謀者を訪ねる。
「え、それを聞いちゃうのかい? そうだなぁ……一応依頼されたから、プライバシーとかそういう関連のことは口が裂けても話さないって決めているからね。話せないんだ。ごめんね」
裏社会でも、そういうところはきっちりとしているんですねっ!!! 予想外ですよ!!!
と僕は心の中で仕切りに突っ込みを入れていた。
「でも、依頼人は影山さんまで消そうとしたんですよ、完全に契約違反じゃないですか。依頼人を報復で消すのだって構わないとおもうのですが」
「あー……そのことなんだけどさ」
影山さんは目線を逸らしてポリポリと顔を掻き始めたのだった。
「どうしたんですか?」
「私も出来ることならそうしたいが、肝心の依頼人の顔がその時見えなかったから、仕返しをしようにも出来ないんだよなぁ」
「えーーーーー!!!」
影山さん痛恨の失態! どうするんですか!
「まぁ、エーデルワイスが策を講じて首謀者を叩くか、君が生きている限りは刺客を送ってくるだろうし、そのうち彼も姿を見せるときも来るだろう。まぁ仕返しなんてその時で良いさ」
「つまりは?」
「裕也くんは最高のカモってことさ」
ニコニコとする影山さん。
「……そうなりますよね」
僕はガックリと肩を落とした。
「まぁ、契約が成立した以上。護ってもらいますからね!」
「あぁ。もちろんさ」
僕と影山さんはがっしりと固い握手を交わす。
こうして、僕と暗殺者のマスターとの変な物語は幕を開けたのである。
この後も珍妙奇妙な刺客が僕の命を狙ってくるのだが、その時の僕はただただ不安でため息を付くことしか出来なかったのである。
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