第11話【王女と王子、またけんかする】
夜の路上にふたりが残された。王女と王子が。
「どうしたのです? 浮かない顔をして」
「いや、出入り口はカモさんの家の庭を通らないといけないから。道路に出たってしょうがないんだ。また庭に入り込まないと」
「そんなことで浮かない顔をしているはずがないです」
「いや、その」
「なんですか? 一応婚約者にも言えないのですか?」
「他人の意見を否定するだけしか能がないなんて不毛だな、と」
「回りくどいですね。カモさんのアイデアのことでしょう? わたしには非常にもっともな合理的な考えに聞こえましたが」
「理屈は良い。しかしいくつか問題もある。まず犯人グループの造った道を探し出すのに時間がかかりすぎるだろう」
「時間がかかるから『やらない』なんて言えるのですか」
「次に犯人グループが出入り口周辺を固めている可能性が高い」
「あなたの国の警察を大量に動員すれば出入り口など奪取できるんじゃないですか?」
「もっと肝心な理由があるんだよ」
「だったら隠さないで思ったこと全部言ってください!」
「カモさんのアイデアは理屈の上では欠陥が無いのだが実行ができない。カモさんは『出入り口を押さえた上で交渉する』と言ったよね。なにを交渉するかと言えばもちろん人質、即ち桃山さんの解放だ」
「ええ」
「犯人グループがもし人質解放に応じた場合には、出入り口の封鎖を解き道を開け犯人グループを通さなくてはならない。それは警察の立場からすれば『犯人を逃がし逮捕できなかった』ことになる……。そして私の国の警察は確実にそんなことはやらないだろう……」
「それじゃあ最初っから交渉なんてする気が無いってことじゃないですか!」
「警察の人間を呼んだらこっちが意図しない人物が来てしまった、という話しをしただろう?」
「ええ」
「その彼は警察組織の中で非常に優秀で、それ故に私の個人的意向など歯牙にもかけない模範的人物だ」
「それって〝誉めていない〟っていう解釈でいいんですよね? 警察の論理を何よりも優先する人って意味ですか?」
「さすがはミーティー、理解が早いね」
「そんなのどーでもいいです! 〝とーこさん〟はどうなるんですか! あなたは王子でしょう⁉」
「王子と言っても王でもなんでもないし、王室そのものだって議会の意向を無視できないんだ。その議会は王国を脅迫する犯罪者には寛容にならない。警察が王室の意向で故意に犯人を逃がしたと知ったらたいへんなことが起こる! 結局この原理原則には逆らえないんだ!」
「なにそれ、いったいどういう国ですか! わたしは結婚してずうーっとそんな国に住むんですか⁉ だいたいさっきからあなたはやらない理由ばかり探しているようですけど、あなたはいったい何をするんです⁉」
その時玄関のドアが開いた!
◇
「なんだよ、またやってんのかよ?」俺はまた家の前の路上へと飛び出す。
「いや、なんでもないんだ」王子が取り繕うように言った。
「すいませんあんまり仲良しじゃなくて」今度は仮称井伏さんが口を開いた。
本当に気が合わないのな、この二人。俺は内心思う。
「夜はゆっくり、早く寝た方がいいぜ」俺はそう言って玄関の方に向きを変え歩き出す。
◇
玄関の扉が〝ばたん〟と閉まる音。
「いまの会話、母国語で良かったですね」ばたんの音とほぼ同時に王女がつぶやく。
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