第30話【外交官加茂三矢の提案】
「王子、井伏さん、この事件解決のため俺に力を貸してくれますか?」
「当たり前じゃないか。私とカモさんの仲だろう」王子が言った。
「当然です。わたしがとーこさんを巻き込んでしまったんですから」井伏さんもだ。
そのことばを信じ、俺は敢えて事前相談などしない!
俺は再びカード型通信機を王子に繋いでもらい、それに向かって喋りかける。
『もしもし』、聞こえてきたのはまたしても桃山さんの声だ。さっきの「またあとで」を無視した形になる。
「『あとで』と言ったけどこっちから掛けちゃいました」まずそう言った。
『もう少し待ってよ』桃山さんの声は言った。
「ところで、もう月曜になっても学校に来られる見込みが無いんじゃない?」
『それは……』
「つまり『困ってる』ってことだよね?」
『うん、まぁ……』
「それはひょっとして『ナキさんを見捨てられない』ということ?」
『……うん』
「ならひとつ提案したい」
『どんな?』
「ナキさんを見殺しにせず助ける提案だ」
『ほんと⁉ そんなことができるの⁉』
「できる! ふたりで協力しよう!」
『うんっ!』
「よしっ」
『それでわたしはなにをすればいいの?』
「日本国、日本への亡命を勧めて」
『……亡命って、加茂くんにそんなこと決められるの?』
「もちろん決められないけど、そのセンでなけりゃ説得などできない」
『分かった。やる!』、これで通信が切れた。
「オイオイオイ、カモさんむちゃくちゃだな」王子に言われてしまう。
「悪かったな。相談もせず独断で決めちゃって」俺は言った。
「その点については私に何かをいう資格など無い」王子は言い切った。
「でもなにも言わないのも親身じゃないんじゃあ……」と井伏さん。
「ミーティーは何が心配なの?」
「これじゃあカモさんが〝嘘つき〟になってしまいます」
そう。普通犯罪者は亡命などできない。
「きれい事だよそれは」王子の物言いに井伏さんが下を向き黙り込んでしまう。
王子が俺の顔を見る。
「普通はあり得ないことだけど、『犯人に人質を連れてきてもらう』、そういうことだよね? カモさん」王子はそう訊いてきた。
王子の方はそう読んできたか。『亡命云々』を突っ込んでくるでもなく。
「確かにあり得ない。だけど事件の解決方法に決まったパターンがあるわけじゃない。この場合はこれが可能で人質を無事に取り戻すには最も確実な方法だ」
「どうしてカモさんは成算がある、と読んだの?」再び王子が訊いてきた。
「使えば位置座標が明らかになってしまう通信機をわざわざ使ったんだ。こちらに居所を知られたくなければあの通信機をそもそも使うわけがない」
たぶん、その機能についてナキは知ってるはずだ。だから桃山さんの部屋でわざわざ妙なケースにしまったんだ。
「合理的だ。だけど、もっと合理的な手段もあるが、敢えてそれは採用しないということか?」王子が訊いてきた。
言われた俺は〝?〟だった。実質立ち往生の俺だったが、もう王子が次をしゃべり出していた。
「今現在の犯人の位置座標は解析機にかければ解る。言いにくいことではあるだろうけど、それは〝警察には伝えない〟で間違いないよね」
ああそうか。合点がいった。
「通信後、居場所を変える可能性もあるからな」俺は即興でもっともらしいことを口にした。
「ギリギリで合理的だ。その可能性は無いことにはできない。しかし交渉事となると一気に事の成否の責任がカモさんにのし掛かってくる」王子は言った。
「銃撃戦を伴う突入作戦無しに解決できるかも、って方が重要だ」俺は言った。
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