第51話 Epilogue
黒目川のほとりに佇む昭和レトロな洋館がある。その洋館『喫茶ナタリー』はこの辺りでは一番の老舗だが、この度マスターが代替わりしたとのことで取材に訪れた。新しいマスターは先代のお孫さんで高校を卒業してすぐ店に修行に入ったそうだ。丁寧に淹れるコーヒーは美味しいとの評判で、近所のコーヒー好きから主婦、お年寄りの憩いの場となっている。
コーヒーの他、サンドイッチなどの軽食、ケーキや焼き菓子もあり、テイクアウトも行っている。以前は先代マスターの奥様が作っていたが、その後事情があって長らく幻のメニューとなっていた。それが復活して昔からの常連は喜んでいるそうだ。現在、ケーキと焼き菓子はマスターの高校の同級生が作っており、今度その同級生がケーキ屋を開業するそうで、今から取材が楽しみである。
〈中略〉
マスターはまだ20代半ばの優しい顔立ちのイケメンで、記者は恋の予感に胸がときめいたが、もう結婚されていてお子さんもいるそうだ。残念……
幸太はタウン誌を閉じた。
「なかなか良く書いてあるじゃないか。」
「褒めすぎだよね。」
幸太は笑った。
「まあ半分は宣伝だからな。今日はもうお客さんも引けたから上がっていいぞ。後はやっておくからミユキを迎えに行ってやれ。」
「ありがとう、おじいちゃん。じゃあまた明日。」
幸太は
「ただいま。」
「お帰り、コータ!」
3歳くらいの女の子が幸太に飛びついて、幸太は尻餅をついた。
「幸太、お茶飲んで行く?」
「いや、晩ご飯の支度があるから帰るよ。また明日、お母さん、おばあちゃん。」
幸太はミユキを抱き上げるとPep のチャイルドシートに乗せた。鈴木サイクルの店長とリン、有子が出産のお祝いにくれたものだ。
「じゃあね、
ミユキは手をぶんぶんと振った。
「元気な子ねえ、誰に似たのかしら?」
「そうね、美戸さんに感謝しないとね。」
「ふん。」
「あのね、コータ。今日幼稚園でね……」
「ミユキちゃん、僕のことはパパか、お父さんって呼んで。」
「何でぇー、ママも
ミユキは口を尖らせた。
「僕をパパと呼べるのは世界でミユキちゃんだけだよ。」
ミユキは自尊心を刺激されたのか、鼻の穴をふくらませて答えた。
「わかったよ、パパ!」
「ミユキちゃん、今日の晩ご飯は何がいい?」
「パパのハンバーグッ!」
「いいね、そうしようか。」
「やった!」
牛肉は冷凍庫にある。付け合わせの野菜もある。今日は金曜日だから、ちょっと贅沢な夕食は美戸さんも喜ぶだろう。
二人の影が伸びた。親子を乗せた
(Happy・High school・Bicycle 完)
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