第11話 Test

「う〜ん。」


幸太は、答案用紙を見て溜息をついた。ゴールデンウィークが開けて、中間テストがあった。幸太にとっては入学して初めてのテストである。授業をろくすっぽ聞いていない自覚はあったので、覚悟はしていたが予想以上の惨状に溜息しか出ない。


まあ、過ぎたことは仕方ない。どうにかなるだろう。これから部活で美戸先輩と楽しく過ごして忘れよう。幸太はいそいそと部室に向かった。


美戸はすでに部室に来ていた。ドアを開けた幸太を見ると極上の笑顔で言った。


「佐藤君、テスト返って来たんでしょ。見せて。」


幸太は、うっと詰まった。その様子を見透かすように美戸は続けた。


「恥ずかしがらずにお姉さんに見せてご覧♡」


美戸はからかうように言ったが、有無を言わせない迫力があった。

幸太にもささやかなプライドがある。自分が勉強ができないことを美戸に知られたくなかった。


幸太は両親に学校の成績のことで叱られたりしたことはない。親にしてみれば、病弱な幸太が学校に行ってくれるだけでもおんの字であって、叱ったりして学校に行きたがらたくなったりしたら困るので何も言わないのである。


幸太は渋々テストの答案を美戸に渡した。美戸はそれを見て笑顔のまま眉間にしわが寄った。テストの点は5教科合わせて、100点弱といったところだろうか。


「まずいよ、佐藤君。もう後がないんだよ。」


切羽詰まった美戸の様子に幸太は傷ついた。確かに点数は低いが、まだ1学期の中間テストなのだ。いくら何でもその言い方はないのではないか?


「E組で、この点数はまずいよ。進級できなくなっちゃうよ。」

「え?」

「聞いてないの?」


都立東久留米中央高校のクラスはA組からE組まであるが、クラス分けは成績順である。つまり幸太のいるE組は成績的には一番下位のクラスであった。そのE組の中でも更に下位となると、進級や卒業も危うくなる。高校は義務教育ではないし、公立なのでそんなに尻を叩いて勉強させない代わりに、やる気のない生徒の面倒も見てくれない。


当然、入学当初にその説明があったはずだが、例によって幸太はぼーっとして聞いてなかったのであろう。幸太は青くなった。


「田中先輩、どうしよう?」

「まずは、復習ね。とりあえず、このテストから始めよ。これから週に3日は勉強ね。」


「うちの高校に入れたんだから、基本的な学力はあるはずよ。勉強なんてやり方次第なんだから、私を信じて、ついて来て。」


そう言えば、美戸はA組だった。幸太は思い出した。後に、幸太は美戸が学校一の才媛と呼ばれているのを知ることになる。


そんな訳で、幸太は美戸に勉強を教わるようになった。幸太は美戸と一緒にいられれば、それがポタリングでも勉強でも良かったし、美戸の話だけは集中して聞くことができたので、少しずつ成績が上がるようになって1年生の三学期の期末テストではとりあえず進級の不安はなくなった。


だが、進級のために勉強するようになったことで、逆に幸太は自分の将来について考えるようになる。病弱な自分が大人になっていくこと。三年生になる頃には、進学なり就職なり決めなければならないこと。大学や専門学校に通ったり、会社で働くことが病弱な自分にできるのかということ。


そして、自分の未来に美戸は一緒にいるのか? ということ。


少年らしい、大真面目ながらも可愛い青春の悩みである。幸太は成長を始めた。

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