第49話 Graduation
幸太は部室で美戸を待っていた。テーブルにはクロスがかけられて、幸太お手製のサンドイッチや祖母が作ったケーキが並べられている。
「おう、佐藤。お祝いの準備か?」
養護教諭でポタリング部の顧問の一美が部室にやって来て椅子に座った。
「先生も春休みに結婚式で4月から産休ですよね。」
「順番が逆になっちまったが、これもタイミングだ。育休もあるし、もう佐藤が卒業するまで会えないが、今のお前なら大丈夫だろう。しっかりやれよ。」
一美がテーブルのサンドイッチをひょいっと摘んで齧った。
「美味いな、これ。佐藤の母上が作ったのか?」
「以前、うちの喫茶店で出していたのをおばあちゃんに教わって僕が作ったんです。コーヒーだけじゃ客単価が上がらないですから、少し料理もやりたくて。」
「もう将来のことも考えているんだな、頑張れよ.」
一美は立ち上がった。
「あ、そうそう。」
一美は幸太の耳元に顔を寄せると囁いた。
「美戸とする時はちゃんと避妊しろよ♡」
「!!!」
幸太は真っ赤になった。
一美は笑うと、ふくらんだお腹をさすりながら部室から出て行った。
「お待たせ、幸太くん。」
卒業証書の入った紙筒を手に持って、美戸が部室に入って来た。
美戸は結局、推薦で希望の女子大に入学することができた。高校としては一般受験で入学できる学力のある美戸に推薦枠を使いたくないという意見が大勢だったが、学力だけでなく生活態度も良い美戸が万一にでも第一希望の大学に入れないことがあれば、それは学校の評判に関わる。
それで、夏休み中に校長先生や進路指導の先生が大学側に掛け合ったらしい。結局、大学側がそれほどの生徒ならと今年に限り、2名の推薦枠を認めてくれた。
おかげで、美戸は早々に受験勉強から解放されて残りの高校生活を幸太と満喫することができた。
一方、二年生になってから、幸太の人気は急上昇した。顔色は紙のように白く、体は細いがかつてのように病的という程ではなく、優しい顔立ちで大人しい。入学した時の幽霊のような幸太を知っている上級生や同級生はいまさら幸太に手を出すつもりになれなかったが、その当時を知らない下級生には幸太は人気があった。
特に文化祭での幸太の凛々しいバリスタ姿を見た下級生からの人気は爆発した。告白しようとする女生徒もいたが、同時に幸太の彼女の美戸の存在も有名だった。
その幸太の彼女は表向き高校一の才媛だが、裏ではこの高校を仕切る影の番長であり、幸太にちょっかいを出した女生徒は消される、というのはリンが面白がって流した噂だが、実際、幸太に近付こうとする女生徒にはある程度効果があった。
しかし美戸が卒業してしまえば、美戸の目が届かないのをいいことに幸太にちょっかいを出そうとする女生徒が出て来るだろう。ある意味、二人の気持ちが試されるのは、これからなのだった。
「美戸先輩、卒業おめでとうございます。」
幸太が美戸を迎えるように立ち上がった。美戸は幸太に抱きつくと首に腕を回して引き寄せた。
「私が卒業しても浮気するなよ♡」
「心配なら、ちょくちょく様子を見に来てください。」
幸太と美戸は顔を見合わせて笑った。そのまま二人の顔が近づき唇が重なった。
これは病弱な少年が高校に入学して自転車に乗り始めたら、彼女ができて幸せになれたという、おとぎ話。
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