第20話 Fireworks
夏休みの土曜日の夜は美戸とのポタリング。
と言っても幸太と美戸がふだん走っているような川沿いの遊歩道は街灯が少なく暗いので、比較的街灯の多い道を一定のペースで淡々と走っている。まあ、どちらかというと幸太のトレーニングと言ったところである。それでも、幸太は夜に美戸と出かけるのが何か大人になったような気がして、どきどきするのであった。
幸太としては、公園のベンチとかに座って、美戸とゆっくり話したいのだが、美戸としては、夏の公園は蚊がすごいし、警察官に補導されたり不良とかに絡まれても困る。幸太ではとてもボディーガードにはなるまい。
日曜日は朝から夕方までみっちり勉強会なのだから、おしゃべりはその時すればいいのだ。平日に美戸から指示された範囲の宿題をして、日曜日に美戸に答え合わせをしてもらう。間違えたところはもう一度やってみて、分からない所は教えてもらう。祖父の喫茶店のアルバイトで疲れている幸太だったが、美戸の言付けは絶対なので頑張ってこなした。
「良くできました。頑張ったね。」
美戸に褒めてもらうと、疲れも吹き飛ぶのだった。お昼ご飯は美戸の手料理で、大抵は蕎麦やうどんで肉や野菜のおかずがつく。今日はざる蕎麦に野菜の天ぷらだった。野菜が苦手な幸太だが、天ぷらだと食べやすい。
幸太の宿題もあらかた片付いて、ご褒美に夏休み最後の土曜日の夜のポタリングはいいところに連れて行ってくれるとのこと。
「どこですか?」
「それは当日のお楽しみ。」美戸はにっこり笑うのであった。
そして、夏休み最後の土曜日。
今夜は美戸の家の前で待ち合わせると、二人は走り出した。新小金井街道を進み、西武新宿線のアンダーパスを潜ると多摩湖自転車道に入る。やはり街灯が少なく薄暗いのだが、ウォーキングやジョギングの人は意外と多く自転車で走るのは、けっこう神経を使う.
このまま行くと多摩湖に出てしまう。夜のダム湖なんて真っ暗じゃないか? 幸太は思ったが黙って美戸について行った。
いつものように坂をえっちらおっちら登って、多摩湖に着いた。夜の多摩湖の堰堤は意外と賑やかだった。家族連れやカップル、ビニールシートを敷いて酒盛りをしている若者のグループ、
何が始まるのだろう? 西武園ゆうえんちの大観覧車と富士見天望塔がライトアップされているが、これをわざわざ見に来る程でもない。幸太が思った瞬間。いく筋もの光が地面から立ち上り、火薬の爆ぜる音とともに、夜空に色とりどりの大輪の花が咲いた。
「わあっ!」
幸太は歓声をあげた。打ち上げ花火を直に見るのは初めてである。
「西武園ゆうえんちの花火だよ〜。夏休みは毎日やってるの。ちょっと前までは黒目川や落合川から、豊島園ゆうえんちの花火が見えたんだけど、豊島園なくなっちゃたからね。でもこっちの方が近くから見えるから、自転車で来る甲斐があるね〜。」
花火は10分ほどで終わった。
いつか、浴衣姿の美戸先輩と花火が見たいなあ、と思いつつも、美戸と夜の花火デート?に幸せな気分の幸太でありました。
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