第45話 Culvert
ゴールデンウィークの最終日。
急に美戸から幸太にポタリングのお誘いがあった。母に呼び出されて大阪に行っていた美戸は今日東京に帰って来る予定だったが、キャンセルが取れたとかで昨日遅く東京に戻って来たらしい。
疲れているのでは? と幸太は思ったが美戸曰く「疲れている時は少し違う運動をした方が回復が早い」のだそうだ。
とは言え、ポタリングは軽めにしてカフェにでも行こうと、二人は珍しく
西武池袋線のひばりヶ丘駅で待ち合わせた。
駅に現れた美戸を見て、あ、美戸先輩、今日はあまり機嫌が良くないな。幸太は気付いた。だから急にポタリングに誘ってくれたのかな? 僕に会いたいと思ってくれたのなら嬉しいな。幸太は思った。
駅前通りを田無の方へ南下する。5分程走ると左手にコンビニがあって、その脇に細い路地があった。美戸はその路地にPep を乗り入れた。幸太も続く。
その路地は幸太達がPep で入ると、ポコポコと音を立てて揺れた。
何の音だろう?
路地はうねうねと曲がりくねって、時折道路との交差部分に段差があり走れなくなる。その度、幸太達はPep を持ち上げて乗り越えた。その路地はあちこち枝分かれしながら延々と続いている。
「これはねえ、
「昔はこの辺りは全部畑だったの。それで用水路が張り巡らされていたんだけど、住宅が増えたりクルマの交通量が増えて邪魔になって埋め立てられたり、蓋をされたりしたんだよ。」
さっきのポコポコという音は、暗渠の蓋が動いて出た音だったのか、幸太は理解した。
「だから、ほらここに橋があったのが分かる? 」美戸が指差した先に低い欄干があるのが幸太にも分かった。
「日野とか八王子の方に行くと今だに普通の用水路が残っているよ。それもすごく良いんだけど、こういう暗渠も中々味わいがあって私は良いと思うな。」
ひとしきり暗渠巡りをした後、幸太と美戸はチェーンのコーヒー店に入った。しばらくはなんて事のない話をしていたが、
「幸太くん。」
「はい。」
「大阪でね、母は彼氏と同棲しているんだけど子どもができたから結婚したいって言って来たの。」
「それで、その相手の人が私とも養子縁組して大阪で3人で暮らさないか?という話だったのよ。」
「美戸先輩、大阪に行っちゃうんですか?」幸太は驚いて声を上げた。
「まさか。母が結婚するのも出産するのも母の自由だけど、私の人生は私のものだから私が決める。」
「でも幸太くんの顔を見たら、少し気分が晴れたよ。ありがとう。」
美戸はテヘッと微笑んだ。
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