真田幸村
1586年。
知略に優れた真田昌幸は一度は徳川軍を退けたものの、次に攻め込まれたら兵も物資も劣っている真田軍では防ぐことは難しい。
真田家を守るためには豊臣秀吉に臣従するしかない。そのため幸村は人質として秀吉の居城がある大阪に送られることになった。
「私も父や兄のように真田家を守るために戦いたい」
真田の土地は周りを有力大名に囲まれている。上杉、徳川、北条がその中心に位置する真田の領地を狙っていた。
そのため幸村は子供の頃から、徳川の人質になったり上杉の人質になったりと転々とした生活をしていた。
10代半ばの幸村は侵略者の手から真田の領地を守るために、戦術を学び武術に励んできた。
そんな思いを大阪の地で面倒を見てくれている石田三成に語った。
「真田家を失いたくないのか?」
「もちろんだ。その為に父も兄も戦い、そして勝ってきた」
真っ直ぐな志しに、知略と武力を兼ね添えた真田幸村という男。成長が楽しみと思える逸材である。
石田三成はそんなことを思いながら一つ提案をした。
「だったら日本を平和にしたら解決するのではないか?」
日本をまとめて争いのない世の中にすればもう攻めてくる者もいない。皆がそれぞれの地域だけを治めていけばいいのだから。
「あっ、そうか」
素直に納得できる幸村は頭の回転が速い。
「これでお互いの目標は一致というわけだ。だからこれからは一緒に平和を目指していく同士となろう」
「分かった。真田の為。豊臣の為。そして石田の為に俺は頑張る」
堂々と宣言する幸村の姿に、自分と近いものを三成は感じた。
自分の利益のために他人を蹴落とそうする人間ばかりの中にあって、他人の為に力を尽くさなければ生きている意味がないと考えられる。
ただ、ちょっと気になったことがあった。
「ところで真田と豊臣の為というのは分かるのだが、どうしてそこに石田も入れてくれたのだ?」
自分より10歳ほど年下の真田幸村に聞いてみた。
「俺には父も兄もいる。昔から仕えてくれる仲間も大勢いる。だけど三成殿はいつも一人で戦っておられる。だからせめて私は味方をしていきたい」
戦国の世だ。自分もいつ死ぬことになるか分からない。
ただもし私が死んだとしても真田幸村がその想いを継いでくれるように思えた。
「私からも聞きたいことがある」
今度は幸村の方から突然質問してきた。
「どうして三成殿は周囲を敵に回しても国民の為に働くのだ? 権力者に従っていれば楽だし、みんなから嫌われないではないか」
核心を突くかのような質問に、改めてどうしてだろうと三成は考えた。明確な答えがあるわけではなかったので、悩みながら口を開いた。
「多分・・・ 自分の気持ちに嘘を付きたくないからではないかな。それに権力者っていう奴は威張ってばかりで嫌いだからね」
三成の答えに、幸村は笑いながら短く頷いた。
石田三成のことを計算高いと言う人もいるが、実は間違っている。
諸将の方がよほど計算高い。
誰についた方が得策なのか。自分が得をするにはどう動けばいいかと常に計算していると言えよう。
三成は世界の平和という大きな目標があり、そのために実直に動く。
そこに計算はない。
一部の権力者に嫌われることがあっても万民のためになることをやってきた。
皆が面倒くさがったり避けたがるようなことこそ、それだったら自分がやればいいと全部の仕事を引き受けてきただけなのである。
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