エピローグ

石田三成が処刑されて主のいなくなった佐和山城は、徳川の手の者の侵入を簡単に許した。

城に残された家族などは自害。その他の者はみんな逃げ出した。

誰も妨害する者はいない。


「さあ、五大老を凌ぐ実力者。西日本を束ねる程の大名のお屋敷にはどんなお宝が眠っているか」

兵士たちの頭の中はお宝を盗むことでいっぱいなっている。

我先にと城内になだれ込んだ。


しかしそこに待っていたものはお宝などではなく、農村に佇む家のような何もない空虚な部屋であった。

三成は必要最低限の物しか持っておらず、俸禄のほとんどを家臣や町民に分け与え、戦いに勝利するための準備資金とし、治水や農地を改良するための投資にした。

徳川家康に勝利すれば天下人になったかもしれない男は貧乏屋敷に住んでいたというわけだ。


どこかに隠しているに違いないと必死に探す兵士たちは、ただ一つ大切そうにしまっている箱を見つけた。

わずかな期待を胸に箱を開けた兵士の目に飛び込んできたのは数枚の紙切れであった。

どれも主君 豊臣秀吉からの感謝の言葉が書かれていた手紙である。


「こんな貧乏をしていたんじゃ、戦いに負けて当然だな」

期待していたお宝を手に入れられなかった腹いせのように、兵士の口から嫌みの声があがる。

「つまらない奴だ。農民以下だな、これは」

口々に悪口をまくし立てる部下たちの後方に小早川秀秋が立っていた。


裏切ったばかりの男は家康の信頼を得るために、佐和山城の攻略を命じられたからだ。

城内の様子を無言のまま、まじまじと見る。

とんでもない男だった。

賄賂を受け取ることもなく、日本を良くすることだけを考えて、義を貫いてきた姿に畏怖すら感じる。


「私は間違っていない。家康様に味方して良かったのだ。大丈夫。間違っていない」

小早川秀秋は固く目を閉じて、自分の選択が間違いであるわけがないと、自分自身に言い聞かせるように呟いた。



                                  終

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首都大阪 田仲ひだまり @hidamari-club

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