石田三成 処刑

捕らわれた石田三成は、京都の六条河原にて処刑されることになった。

大阪から京都にかけて、罪人として市中引き回しが行われる。両腕を縛られた状態で台車に乗り、町人たちの見世物とされた。



「家康様に逆らわなければ、こうならずに済んだのにな」

警護兵が挑発気味に言った。

「万全の準備を持って挑んだ結果です。だから私は自信を持って言える。負けたと」

視線を落としたまま三成は答えた。

「あはは。なに堂々と負けたと言ってるんだ。変わった奴だな」

三成の周りを囲んでいる兵士達は大笑いをした。


姿勢を崩さず嘲笑を聞き終わると、落ち着いた感じで三成は口を開いた。

「人生に後悔のない者などいない。どうせ後悔をするなら、せめてその時は全力で行動すべきである。全力で臨んだ結果であるなら、後悔もそんなに悪いものではない。本当の後悔とは、全力を出さなかったことである」

三成の言葉に兵士は口を閉ざしてしまった。

果たして自分はそこまで覚悟を決められる程の全力を出したことがあるのだろうかと考え込んだ。


しばらく無言のまま移動する。

秋になり始めた気候はまだまだ残暑を感じるものであった。

三成は喉の渇きをおぼえ、水を貰えないかと尋ねた。

「あいにく水は持ってない。干し柿ならあるが食うか?」

兵士は懐から柿を取り出すと、三成の前に出した。

「ありがたいが、柿は痰の毒と言ってお腹を壊すから食べないことにしている」

「はあ? あんたこの後殺されるんだぞ。お腹の心配をしてもしょうがあるめえ」

兵士は三成の言葉に驚いた。

「確かにそうでしょう。でもどうせだったら最後まで自分の信念を通した上で、気持ちよく死にたいではないか。蟻の穴から堤も崩れると言う。最初のちょっとした妥協が、いずれは大きな甘えに繋がっていくものだから」

「へえ、そういうものなのか。偉い人の考えることは俺にはよく分からねえな」

ただ命令に従うだけの兵士に三成の思いは理解できなかった。


台車に乗せられて手も自由に動かせられない三成は考えることだけしかできない。


こういう者の為にも、私がもっと指導力を発揮出来れば良かったのだが。

未来を想像せずに体制に従うことが正義だと思ってしまう人。


だからこそ良い指導者が必要なのだ。

欲のままに行動してはならない。

相手を傷つけてはならない。

流されるのが人間なのだから、どうせだったら良い方に向かわせるべきだ。

人間は弱い。

小さな組織内で多数側にいることで安心してしまう。

もっと大局的な見地から見たら、その組織こそが世間からずれた存在であるのに。


最後まで可能性に期待したいところだが、多分私はここまでであろう。

でも数十年後、いや数百年後に、私よりも優れた英雄が現れるはずだ。

そして徳川の天下によって横行していた腐敗した政治を正そうと戦ってくれるだろう。


その時代での戦いとはどういうものだろうか。

野蛮な殺し合いなどではないだろう。民衆の声を集め、多くの国民が望むことを訴える戦いになるのか。

だが未来の英雄よ。なかなか手強いぞ。

敵は悪人ではない。

敵は為政者の聞こえの良いことを信じてしまった善良な国民なのだから。

次こそは勝利して日本を再興して欲しい。


三成は処刑される直前まで後世のことを願っていた。

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