大蛇の洞窟
関ヶ原を離れることに成功した石田三成は、幼少期に母と過ごした小さな村にたどり着いた。
農地を改良して、治水を行い、規則を定め、特権階級の権利を剥奪して住民に恩恵を与えることに尽力した三成の政治は、この村を含め、国民に多くの恩恵をもたらしてきた。
ぼろぼろになった三成を発見した村人は迷うことなく、これから来るであろう追手から匿うことを決意した。
山林の中にある
洞窟の中で三成は考えた。
豊臣秀頼様の下、真田幸村、直江兼続、立花宗茂。志しを同じくする者たちの戦力を集結させれば、徳川家康と対抗する勢力がまだ作れる。
まだやれる。やれるが・・・ 敗軍の将となった私がここに加わるわけにはいかないだろうな。
かといって後生に託すだけで、自分だけ表舞台から去るのは無責任になるのではないか。
私は何をすればいいのだろう。国を良くしていく為には。
三成は手を大きく上空に伸ばし、その手を握りしめる。何も掴めていない空しさを噛みしめながら。
食べ物は匿ってくれた数人の村人たちが運んでくれたので困ることはなかった。
家康からの追手が緩くなったら大阪城を目指そうと思う。
しかしそうはさせてくれなかった。
幼なじみで、関ヶ原の戦いでは東軍に加わった
同郷だからこそ、ここに逃げ込んだのではないかと勘が働いたようだ。
山の中腹から村の喧噪を感じ取る。
身を隠しながら三成は近付くために山を下りた。
村では田中吉政の詰問が行われていた。
「己の野心のために毛利家を担いで戦を起こした重罪人 石田三成がここに隠れていると密告があった。本当か?」
集められた住民は全員が否定した。
「私もここで育った身だ。手荒なことはしたくない。頼むから本当のことを言ってくれないだろうか?」
優しい口調で諭してみるが、それでも村人は誰も口を開こうとはしなかった。
なんと大した男なのか石田三成。みんながお前を守ろうとしているぞ。
田中吉政は声には出さないが、村人のひたむきな姿と、そこまでさせる男に心を打たれた。
だからと言って手ぶらで帰るわけにはいかない。私にも立場と仕事がある。
どうして家康様に楯突くようなことをしたのだ。
お前とこんな形で再会したくはないのだが。
心の中の葛藤を見せないように毅然とした態度で再度問い詰める。
「もう一度言う。石田三成を知っている者はいないか? もし隠していたら全員を厳罰に処すことになるぞ」
その威圧感に泣き出しそうになる子供を母親は必死に抱きしめ、無言のままこの状況が過ぎ去ることだけを待っていた。
「皆が喋らずとも、私はここをしらみつぶしに探すぞ。見つかったら命の覚悟が必要になるんだぞ」
怯える村人たちを目の当たりにして、三成は自分がすべきことが分かった。
多くの国民を救う前に、私は目の前にいる人を救うべきだ。恩を仇で返すような奴が、大志を語る資格はない。
三成はゆっくりと歩き田中吉政に近付く。
「久し振りだな。自己紹介する必要もないだろうが、私が石田三成だ」
捕縛しようとする兵士を田中吉政は制した。
そんなことをする必要はない。この男のことは小さな頃からとてもよく知っているのだから。
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