関ヶ原の戦い
石田三成が率いる西軍は関ヶ原で徳川家康が率いる東軍を待ち構えた。
夜中から降り続いていた雨により濃霧が立ち込めていたが、日が昇ると幕が下りるように霧が晴れていった。
それが合図となって双方のぶつかり合いが始まった。
地理的にも兵数としても西軍に有利な状況が敷かれていたが、事態は急変する。
西軍の主力部隊でもあった小早川秀秋の裏切り。
そして呼応するように
これにより西軍はたった1日で総崩れとなってしまったのである。
大谷吉継は裏切った小早川秀秋の軍を相手にしていた。
10倍の兵力差がある秀秋の軍であったが、吉継の巧みな戦略と統率力で押し返した。
目が見えない病人でありながらも武将としての格の違いを見せつける。
しかし次から次へと繰り返される裏切りに味方の兵は倒れいき、自身の死期も近付いてきた。
「三成、逃げる時間は稼いだぞ」
懐から短刀を取り出し地面に座る。
部下に介錯を頼むと、今まで石田三成と一緒に戦国の世を駆け抜けてきたことを思い出した。
「お前はよく友人が少ないと言っていたが、私も友と呼べるのは三成だけであった。家康に従って寿命が少しばかり延びるよりも、お前と一緒に戦うことを選べて良かった。どうせ短いこの命。友のために使うというのも悪くなかったぞ」
大谷吉継は感謝の言葉を述べた。
周囲の喧噪が大きくなり裏切り者たちの兵が押し寄せてきたことが分かる。
もはやここまでと、手にした短刀を自身の腹に突き刺した。
総崩れの西軍の中、猛将の島左近はそれでも敵陣に突き進んでいった。
戦の勝ちが見えた
そんな突撃を迎え撃つ兵士たちは挑んで敗れるか、敗走するかのどちらかしかない。
「左近はなぜ逃げぬ。勝敗はもう明らかではないか」
黒田長政の悲鳴にも似た叫びが響き渡る。
「そこにいるか。黒田長政」
銃弾の跡や刀傷を鎧全体に刻んだ左近が、とうとう長政めがけて突っ込んできた。
逃げ腰になる長政を取り囲んだ護衛部隊による無数の銃弾が左近めがけて放たれた。
直撃を受ける。
鎧がはじけ飛び、血しぶきが舞う。
「人生において、命を賭けてもいいと思える人に出会えたことは幸せなことだな。最後まで私が尊敬し続けることが出来た石田三成という男に感謝する。黒田長政よ。お前はそう思える人はいるか? 私のことが羨ましかろう」
全身に被弾した左近は絶命までの一瞬で自分の人生に感謝した。
順風満帆とは行かなかったかもしれないが、満足できたものであった。
撤退を余儀なくされた石田三成を東軍の兵士が追い詰めて行く。
先導していた渡辺新之丞が足を止めた。
「ここまでくれば近江国まで行けるでしょう。私はここで追いかけてくる兵士を足止めしておきます」
一緒に逃げようと言いたい気持ちを三成は飲み込んだ。彼の命がけの覚悟を薄っぺらい同情心で踏みにじりたくなかった。
「絶対に後から来い。頼む」
それだけを口から絞り出すと、渡辺新之丞を残して道を進んだ。
これが最後の別れになることは分かっていた。
三成の願いに対して新之丞はあえて返事をしなかった。
「私が今まで仕えていたのはこの日のためです。隠居していた私にこんな大活躍できる場を与えて下り感謝致します」
去っていく三成の背中に向かって声をかけて深くお辞儀をする。
そして一緒に残った手勢を鼓舞するための雄叫びをあげた。
「これが日本一の負け戦じゃあ。皆の者、裏切り者揃いの徳川たちに、最後まで我々の団結力を見せつけてやろうぞ」
日本の未来を左右する東西が激突した関ヶ原の戦いは開始からわずか6時間で終わった。
挟撃することもできた上杉景勝が動く間もなく。
もし小早川秀秋が寝返らなければ。
寝返ったのが彼だけであれば。
毛利輝元が早くに動けば。
島津義弘が最初から西軍の主力として加わっていれば。
どれか一つでも実現していれば負けなかった戦であったが、ことごとく石田三成に悲劇が襲いかかった。
人は英雄を読んだら好きなり、見たら嫌いになる。
後に英雄と呼ばれる者は、客観的に見ることが出来ると好きになるが、直接関わると、その真っ直ぐな行動が理解できなくて嫌いになる。
石田三成の生き方を理解できない者が多くいた結果であった。
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