出兵計画

日本を統一することが出来た豊臣秀吉は、今度は朝鮮出兵を決断した。

群雄割拠の世がやっと終わりを告げようとした矢先に、また次の戦いが行われる。

石田三成は出兵に反対だった。

日本はもう戦いのない平和な国家にすべきである。これ以上の国土は必要なく、あとは諸外国と貿易によって取引をしていけばいいと考えていたからだ。

三成は出兵を思い止まって頂くため、秀吉と話す機会を設けてもらった。



三成の言い分を秀吉はちゃんと聞いていた。

白髪だらけの年齢となった秀吉であるが、天下人としての立ち振る舞いはいささかの老いも感じられない。

戦うことによって財政圧迫してしまうことや、これからは平和な社会を目指すべきだということを刻々と説いた三成の言葉のあとに、秀吉はゆっくりとした口調で話し始めた。

「のう、三成。人間はまだそこまで追いついておらん。お主のような自分のことよりも国家の幸福、万民の幸福を考えて、その為に何をすべきか考えられるものが世の中の大半を占めていればいいが、実際は逆だ。これは1000年たっても変わらないだろうな。それほどまでに人間というのは強欲で醜い」


朝鮮出兵を言い出した秀吉様は、老化で判断力が衰えてしまったのではないかと考えていた自分がいた。

しかしそれは違っていた。

秀吉様は現実を見て判断されているだけだ。人を束ねる為には進み続けなければいけない。

徳川、毛利、上杉、伊達、島津。従ってくれてはいるが部下ではない。

与えるべき土地も金も必要になる。共通の敵がいることで反逆を抑えられるし、それぞれの戦力を削ぐこともできる。

仮に出兵せずに今の幸せを彼等に説いたところで素直に賛同するはずもないだろう。

今でも十分幸せであることを実感させるには、痛い目を見た後でないと学ばないというのが現実である。


海を渡ってまた戦闘が行われる。良くないことであるが回避するための方法が見当たらない。

朝鮮を足がかりに中国までの支配を目指す。

勝てれば良し。負けても国内での抗争を抑えられはする。

これしかないのであろうか。また何万人もの兵士が死ぬ。人間の欲深さというものがとても悔しく思えた。


その後も多くを語らなかった秀吉であったが、三成はその想いをくみ取ることができた。

自分のように理想の国家を目指して人々を奮起させようと頑張ったところで、なかなか思い通りにはいかない。

秀吉様は1000年たっても人間は変わらないと言った。そんな強い業を持った人間というものを私一人で変えるのは難しいだろう。

次の世代に、またその次の世代に伝えていかなくては。

その為の一歩を踏み出そう。

大阪を首都として盤石な国家を作りあげることが、この世代に生まれてきた私の使命である。

だからまだ死ぬわけにはいかない。どうせだったら朝鮮との戦いに勝利するために最善の準備を整えなくてはいけない。

仲間が死ぬのは一人でも少ない方がいい。

そして戦いを早く終わらせることで、敵が死ぬことも一人でも少ない方がいいのだから。


「朝鮮出兵。私が持てる全力で対応致します」

三成は深々と頭を下げた。

「うむ。頼む」

短い秀吉の言葉であったが、そこには戦国の世を生き抜いてきた者の悲しみと覚悟が感じ取れた。

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