朝鮮出兵

毛利輝元、島津義弘、長宗我部元親、立花宗茂など、各地の猛将が集結した日本の軍は朝鮮の要所を次々と落としていった。

第一軍の小西行長こにしゆきながと、第二軍の加藤清正は競い合うように快進撃を続けていく。

だが窮地に追い込まれた朝鮮側は中国からの援軍を迎え入れた。

大軍の襲来に今度は日本側が追い込まれてしまう。

兵糧不足も深刻化し、兵や馬の死体がそこら中にあふれかえっていた。



朝鮮の漢城で石田三成は軍議を開いた。

室内には大谷吉継に島左近もいる。前線で敗れて戻ってきた加藤清正や小西行長もいた。

撤退は簡単ではなく、強行したら朝鮮側の追撃にあって全滅もありえる。

和議を結ばざるを得ないことは一致していたが、条件面で加藤清正を支持する者たちと、小西行長や石田三成を支持する者たちで意見が分れた。


加藤清正にとっては第一軍を率いた小西行長が手柄をたてて、二軍の自分が遅れをとったことも面白くない。

「そもそも小西殿は戦ってきたからまだ理解は出来るが、三成殿においては朝鮮に来てから一度も戦っていないではないか。そんな奴の言うことなど聞けるものか」

清正が食ってかかる。


三成は表情を変えることなく大きく息を吐きながら、頭の中に今までの仕事ぶりを思い浮かべた。

船や兵士や食料の確保。そしてその輸送。日本にいる秀吉様とのやり取りや各部隊への伝達。戦い以外にも国内政務の取り仕切り。

三成が抱えている仕事量を常人が行うとすれば、10倍の人間が必要となるであろう。それを一人で次々と処理してきた。

だがそのことを説明したところで、戦場で相手を殺すことこそが一番偉いと思っている者には何も響かないであろう。

そもそも味方同士でいがみ合っている場合ではない。

適材適所の大切さをどうしたら分かってもらえるのだろうか。


「私は与えられた仕事を全うしています。大将を任命されたら指揮を執る者として最善を尽くす。一兵卒であれば死力を尽くして戦う。今は総奉行として、皆様のお役にたてるように働いております」

「ふん。死ぬことがない仕事は気楽でいいものだ」

三成の発言に、清正を支持する武将からの野次が飛ぶ。


「私は死ななくとも、私に失敗があったら皆様が死んでしまいます。兵士たちが死んでしまいます。私は敵を一人殺すよりも、味方が一人死なないようにしたいのです。本来仕事に上も下もありません」

三成はそこまで言うと一呼吸置いて正面を見据えた。

「どんな立場であってもそこで全力を出さない者は、どの立場になっても全力を出すことはできませません」

命を失うことに対しての悲しさから言葉に熱がこもる。


全員がその言葉に納得できたわけではないが、三成の真剣な思いにつまらない口出しは出来なくなった。

朝鮮との和議は石田三成、小西行長主導で進められていった。

加藤清正は協力する気にはなれないと独自の行動を取り続けた。



多くの負担を一人で背負い込む三成に島左近が声をかけてきた。

「上に立つ者は、時には冷徹に人を切ることが必要でしょう。腐った部位をそのままにしておけば、周りまでどんどん腐っていくものです」

加藤清正を排除しろということか。

「和議の件以外にも、捕らえた朝鮮の兵を奴隷のように扱ったり、勝手に豊臣清正を名乗ったりと、まあ酷いものです。彼の横暴をこのままにしておけば、いずれ内部から崩壊していくでしょう」

加藤清正に好き勝手に動かれて日本軍が二つに割れるより、一つにまとまることが大切ではある。

ただ、あまり告げ口のようなことはしたくない。


考え込む三成に対して、そんな迷いを断ち切らせるのも家臣の務めとばかりに左近は決断を迫る。

「殿は優しいですな。加藤清正殿に反抗的な態度を取られていても、それでもかばおうとする。別に殿が処断するわけではありません。秀吉様にそのままの事実を伝えればいいだけです。判断するのは秀吉様です。秀吉様が彼の暴挙を許すのであればそのまま朝鮮の地で傍若無人に暴れて頂くだけでしょう」


「私は先程、味方が一人死なないようにしたいと言った。そこで言葉を止めたが、実は敵が一人死ぬこともできるなら防ぎたいのだ。 ・・・・・分かった。小西殿と相談してみる」

恨まれる覚悟をするのは嫌なものだなと心の中で思いながら、三成はその場を立ち去った。

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