淀川氾濫

琵琶湖から大阪を縦断する巨大な河川の淀川が、豪雨により氾濫しそうだという報告が豊臣秀吉の元に入った。

すぐに土木を専門とする武将に処置の指示を出したが、凄まじい勢いを誇る豪雨に土のうが足りず、所々で水があふれ出してくる。

堤防が決壊したら大阪の町が水に沈むことになってしまう。



「秀吉様。淀川決壊を防ぐために、どんな行動でも許して頂ける許可をお願いします」

石田三成はその約束を取り付けると、決壊しそうな場所に出向いた。

そして淀川の各地で堤防の補強を行っている住民たちに向かって大声で指示を出した。

「大阪城の米俵を、土のうの代わりにして堤防にしろ」

「米で水を防ぐのですか?」

住民たちだけでなく、周りにいた武将たちまでが驚いた。


米は大名に年貢として納め、自分たちはアワやヒエしか食べていない。それほどまでに貴重な米を土のうの代わりにしろと言うのだ。

躊躇するなと言う方が無理と思える指示であったが、三成を筆頭に配下の武将たちがどんどん米俵を運んできた。

こうなったらやるしかないと、住民達は力を合わせて崩れそうな堤防を米俵で補強していった。


豪雨は夜になっても止まなかった。

やるべきことはやった。

あとは1000を超える数の米俵で補強した堤防が、増水した淀川の水をせき止めてくれることを願うしかない。

住民はもちろん、武将や兵士達も寝ずに豪雨が収まるのを待った。


空が明るみ始めた頃、やっと小雨になって、太陽が昇る時には雨は完全に止んでいた。

堤防の決壊は起きなかった。

大雨の後の晴れ間とは、なんと清々しく感じるものなんだろうか。

翌朝の空は、そんな風に思ってしまうほどの快晴であった。


たくさんの米俵が積まれた堤防を三成は見て回る。

なんとか堤防決壊という甚大な被害にならずに済んだ。それでも倒れた木々を運んだり、土砂の片付けをしたりと住民たちの懸命な働きが必要となってくる。


三成は泥だらけとなった米俵を見つめながら、皆に聞こえるような声で、でも独り言のように言葉を発した。

「これではもう秀吉様に食べて頂くわけにはいかないな。かといって捨てるのは勿体ない。仕方が無い。土のうと交換に、この米を皆に分け与えるしかないか」

これを聞いた住民は歓喜の声をあげた。

水を防げた上に米まで食べることができる。

「もしかして三成様。うちらにお米を食べさせるために、わざと・・・」

遠慮がちに聞いてきた住民に、三成はきっぱり否定する。

どうも褒められるというのが気恥ずかしい。嫌われることに慣れすぎていた自分は、少し感覚が麻痺しているようだと思ってみた。


復旧に向けて簡単な指示を役人に出した後は、次の場所に向かう為に三成は馬を走らせた。

何も言わずに去るその背中に向かって、住民が声援を送るように大声でお礼を言う。

「三成様、ありがとうございます」

「違う違う。私は秀吉様の命令を皆に伝えに来ただけだ。お礼ならば秀吉様に言ってくれ」

慌てて振り返って、手を左右に大きく振って否定する動きをした。

その光景を見て住民達が大笑いをした。

三成もそんな住民達に笑顔で返した。

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