奥州仕置

関白となった豊臣秀吉は北条攻めの際に、東北地方の大名たちにも参戦するよう指示を出した。

しかし伊達政宗だてまさむねは家臣の意見がまとめられず遅参。葛西家と大崎家は参戦しなかった。

このことで秀吉の怒りを買い、政宗は領地を減らされ、葛西と大崎は領地の没収となった。


1590年。奥州の覇者である伊達政宗は大博打を仕掛けた。

葛西と大崎をたきつけて一揆を起こさせ、それを鎮圧しようというものである。そうすれば失った領地を取り戻すことができるという算段だ。

しかしこれは伊達家の家臣の裏切りにより、一揆を扇動した密書が豊臣秀吉に渡ってしまった。


こうした混乱に、秀吉は石田三成を伊達政宗のもとに派遣した。

豊臣秀吉が石田三成に与えた使命は、この機会を利用しての東北制圧であった。

伊達政宗の画策すらも利用して東北を手中に治めようというものである。



「負けだ。負けだ。この地も伊達政宗も好きにしな」

策の失敗を素直に認めた政宗は、石田三成に対して全面降伏をした。

「普通であれば斬首。良くて領地没収でしょうね」

「だろうな」

さすが奥州にその名を轟かす伊達政宗である。負けっぷりも潔い。

天下の趨勢すうせいが豊臣秀吉でほぼ決まった状況の中でも、一発逆転を目指すだけのことはある。


石田三成は伊達政宗の真横に立った。

自然体である三成から威圧する空気はない。

「好きにしていいのでしたら・・・ だったら私と一緒に戦って下さい」

三成の言葉に政宗は無言のまま、驚きの表情で彼を見つめる。日本の中心である大阪から東北まで派遣されて来た人物というものを値踏みするかのように。

「どうするか判断するのは秀吉様です。それまでは私と共に戦ってもらえませんか」

三成は伊達政宗の力を借りて一揆の制圧を行うことにした。

野望高き伊達政宗であるため友好を深めることは出来なさそうだが、これからの日本に必要な人材である。

大胆な行動力と頭の回転の早さを持つ政宗が嫌いではなかった。


一揆の方は数ヶ月で制圧可能であろう。

だが問題がある。秀吉様から命令された建造物の破壊であった。

見せしめという意味も含めて、一揆を起こした地域の城や家々を破壊しろと厳命を受けていた。

これでは制圧後の復旧が容易ではなくなってしまう。

政宗は全てを受け入れる覚悟であるが、それでも焼け野原と化すであろう奥州の復旧に膨大な時間と金銭がかかることを苦々しく思った。


石田三成は全軍に命令した。

「建物をばらばらにして、部材を一カ所にまとめておくことにする」

焼かない。壊さない。水没させない。ただ分解するだけ。

だから移動もできるし、補強を加えながらまた組み立てられる。

秀吉の命令にはちゃんと従いつつも、復旧を容易にしてくれた。

「そんなことをして大丈夫なのか?」

政宗の問いに、三成は涼しい顔をして答える。


「言われたことをやるだけは二流。言われた以上のことをやるのが一流なのでしょうね」


破壊だけでなく、その先の復旧までも見据えて行動する。指示されたこと以外に、自分で更に良くすることを考えるのが大切というわけか。

伊達政宗は派遣されたのが石田三成であったことに感謝した。もしかしたら豊臣秀吉という男は、そこまで見越して彼を向かわせたのであろうか。

「こりゃあ本当に負けたぜ」

横目で政宗のすっきりした顔を見て、三成は思っていたことを伝えるのは今であろうと思った。

「秀吉様のところに行って、直接弁明してみてはどうでしょうか」


こうして伊達政宗は京都の豊臣秀吉の所に向かった。巨大な金の十字架を背負って町並みを歩くという派手な演出を盛り込んで。

そして秀吉から何とか許しを得ることに成功し、領地の移動だけで済んだ。

元々の領地を失うことになったのは大きな痛手ではあったが、新たに今回の一揆で取り返した領地が与えられた。

石田三成の計算通りといったところであろうか。

表立ってお礼を言うわけにはいかなかった伊達政宗は、三成に向かって深々と頭を下げた。

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