立花宗茂

「この戦国の世で一番強い奴は誰か?」

そう問われた時、多くの者が本多忠勝と答えるであろう。

徳川家康の忠臣。名槍『蜻蛉切とんぼきり』を携えて、武田信玄との戦いから豊臣秀吉との戦いまで、家康を守りきり敵を撃退し続けてきた。


その本多忠勝と肩を並べる人物がいる。

西国最強と言われる立花宗茂たちばなむねしげであった。

「東の本田忠勝。西の立花宗茂」秀吉にそう言わしめた人物である。



立花宗茂も朝鮮で戦っていた。

孤立してしまった小西行長を救出したのも彼だ。

武勇ばかりだけでなく人望も備えている。

現場での指揮をしていた石田三成は、自分の他にも優れた見識を持つ人物がいたことを嬉しく思った。

自らの武勲よりも日本のために動ける男が。


ある時、朝鮮での居城内で宗茂と話す機会が訪れた。

噂通りの人物であってほしい。

自分が命を落とした時に、志を託せるような。


「宗茂殿がいなければ、この戦はとっくに負けていたでしょう。だがそれだけ活躍していても総大将の宇喜多殿の手柄となって、いまいち秀吉様の耳には届いていないようです。差し出がましいかもしれませんが、私が直接秀吉様に伝えることもできます。伝えてもよろしいでしょうか?」

三成の問いに宗茂は笑い飛ばした。

「そんな特別扱いはして頂かなくて大丈夫です。三成殿は自分の仕事をそのまま忠実にこなして頂ければそれで結構。その報告だけで秀吉様に分かってもらえるような活躍をすればいいだけですから。これは私への更なる励ましだと受け取っておきます」

「これは失礼しました」

三成は素直に非礼を詫びた。

謝罪をすることになったが悔しい気持ちは微塵も感じなかった。

立花宗茂こそ自分が求めていた人物だと分かったからだ。


彼の人柄を理解した三成は多くを語らず席を外した。

少し離れたところにいた島左近が話しかけてきた。

「宗茂殿は配下に誘わないのですか?」

立ったままの三成はそう問われると、少し考えてから口を開いた。


「そうだな。どちらかというと私が宗茂殿の配下にしてもらうべきでしょうね」

軽く笑みを浮かべながら答えた。

冗談めかして言った発言であるが本心でもある。

さすがに冗談だけの返答では失礼なので補足する。

「彼は配下にしなくともちゃんと日本のために動いてくれる。そもそも私が面倒を見るような荒くれ者でもないだろうから」

「ん? ということは、私は荒くれ者だったということですか?」

「あはは。立花宗茂が西国最強なれば、島左近は荒くれ者最強と言ったところかな」


当時、他家で不始末を犯し追放された者は雇ってはいけないこととされていた。

しかし三成はそういった行き場を無くした者たちを受け入れてきた。

どんな主であっても家臣は忠誠を尽くさねばならないなんて馬鹿げている。忠誠を尽くそうと思われない主の方こそが罪であるのだ。

蔓延している非効率な社会の空気は打破すべきと考えている。

こんな三成の考えを理解出来る者は少なく、多くの批判を浴びたが、自分の考えを曲げることはしなかった。

だから各地の問題児たちが三成の下に多く集まった。

左近はそんな彼等を率いた兄貴分としての一面も持っていた。



後の立花宗茂は三成が予想した通り、日本のためを考えた行動を見せる。

後日、関ヶ原の戦いを迎えるにあたって徳川家康が東軍に引き入れようと画策したが、毅然とした態度で断った。


「豊臣が作りし天下を簒奪しようとするタヌキに、どうして協力することができようか」と。

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