家康暗殺計画
徳川家康は豊臣秀吉が生前に禁じた大名同士の婚姻を勝手に行って味方を増やしていっていた。
表向きは「たまたま男女が惹かれ合った結果。遺言は知っていたがその愛を引き裂くことは、この家康にはできなかった」と二枚舌を見せる。
誰も信じるわけがなかったが、家康の勢力を前に表立って逆らうことはできず、これから気をつけると言われたら、それ以上責めようがなかった。
そんな野心を見せていた家康が、同じ五大老の
手勢はわずかな供回りのみである。
暗殺が出来る絶好の機会となった。
石田三成と親しい小西行長は自宅に仲間数人を集めると、家康暗殺計画を持ちかけた。
「秀吉様の遺言も守らず私服を肥やしていく家康を討つなら今夜しかあるまい」
小西行長の言葉は確かにそうであろう。
夜になって急に冷え込んできた為か、外には霧が出始めていた。
きっと織田信長や豊臣秀吉であれば、こんな勝機を逃さないのであろうと思う。
霧に乗じて家康が滞在している屋敷になだれ込む。仲間を集めてもその動向を包み隠してくれるだろう。
共にこれまで内政を支えてくれてきた小西行長の冷静な判断能力が、三成は好きであった。
だが家康を暗殺という方法で殺害したところで、第二第三の家康が登場するだけとなるのではないか。
殺すのであれば、彼のやり方が間違ったものであると世の中に知らしめねばならない。
暗殺では誰も我々の味方をしてくれなくなる。
仮にそれを力で押さえつけるのであれば、それはもう家康と何ら変わらない統治方法ではないだろうか。
豊臣政権の政治とは民衆や武将達からも支持されるような堂々としたものにしないと、やる意味がない。
「暗殺というやり方で家康を討つわけにはいかない」
三成は決意を伝えた。
「こんな機会は二度と訪れないとしてもか?」
行長が念押しをする。
「そうだ」
三成はゆっくりと頷いた。
行長をはじめとした皆が言葉を発することができない中、急に緊張を解くような笑顔を三成は見せた。
「・・・と言ってはみたものの、こんな勝機を逃すなんて、もったいないことをしているな」
小西行長も緊張の糸が切れて顔が緩んだ。
ほっとしている自分がいる。
暗殺を提案してはみたが、どこかで三成が止めるであろうと期待していた部分があった。
「そもそも、せっかくの人生だ。やましい気持ちを抱え込んで生きていても楽しくない」
三成の、本音を冗談に包んで言うやり方に行長も同調する。
「なんかうちらはいつも貧乏くじを引かされているな。豊臣の為、万民の為と奔走しても、上手くいかなかった時の八つ当たりの対象とされてしまう」
「きっとここで家康を殺したとしても、九州の島津義弘や、東北の伊達政宗あたりが戦を起こすだろうな。結局何も変わらず、我々が得たのは汚名だけになったかもしれない」
他の仲間たちも笑顔で話し始めた。
やることははっきりしている。
この大阪に
我々がすべきは暗殺ではなく、法律を整備して日本を治めていくことに全力を注ぐことである。
解散となった小西邸を後にしながら、このことを島左近に話したらあきれられるだろうと想像してみた。
彼の力があれば家康の手薄な警護を破って暗殺が出来たであろうから。
いずれ家康と雌雄を決する大きな戦いになるはずだ。
そこでは暗殺の何倍もの苦労をかける戦闘になるであろうが、なぜか彼は笑って許してくれそうな気がした。
「殿は天下一の阿呆であります。ですがそういう人こそが上に立つべきなのでしょう」と。
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