葦に課税

「合戦で勝利するためにもお金がもっと必要だ。年貢をもっと取るべきだ」

加藤清正かとうきよまさ福島正則ふくしままさのりなど、秀吉に仕える血気盛んな武将は口々にそう言う。

「我々が戦っているからこそ農民たちは殺されないで済むのだ。年貢を増やしても罰はあたるまい」

仲間が多くいると思うと気が大きくなるのが人間というものだ。

この流れに乗れないものは除け者にされてしまう。その場にいる、一人では意見も言えないような人物までが次々に煽っていく。


三成は苦々しく思う。

この状況で異論を唱えたところで、あざけられて笑いものにされて終わってしまうだろう。

少し厄介なところは秀吉様も年貢を増やすことに気持ちが傾いているところだ。

口ではなく行動で示さないといけない。

ただ時期を見誤るとここで大騒ぎしている者に潰されてしまう。新しいことを始めようとすると批判ばかりする連中に。


今でさえ生活が苦しい農民たちに更なる負担を強いるより、新たな財源を作って、そこから収入を得るべきである。

お金集めの基本は片方が損をするようなやり方は続かない。どちらも得になるように持っていかないといけない。

商人は新たな商いで儲けられて得をする。国は儲けた分の税収が増えて得をすると。



ある時、三成は今までの功績により秀吉から俸禄を増やしてもらえることになった。ここが好機である。

加増してもらえることに感謝の意を示しながらも三成は一つ頼み事を伝えた。

「おそれながら、領地を増やして頂く代わりにやらせて頂きたいことがございます」

「なんじゃ?」

秀吉は素直に願いの内容を聞いた。秀吉と三成の間には信頼がある。三成が言うことは国の為になることであろうと分かっている。

「宇治川と淀川の葦に税金をかけることを許して頂きたいのです」


現在までそれらの川沿いに生えている葦は住民が好きに刈り取っていた。

葦を乾燥させることで茅葺き屋根や漁の道具の材料など様々なことに利用されている。

そこに税をかけることで取り放題だった葦で得た収益がこちらにも回ってくることになる。

無策に農民から搾り取る必要がないのだ。

弱い者は搾取対象としか考えていないような者には、本人の目の前に現物を見せてやるしかない。

物資は力で奪い取るものではないことを実践する必要があった。



1580年。

秀吉は織田信長の命令で中国地方を攻める準備をしていた。

居城の長浜城で軍備の状況を確認している。一通り揃ってはいるが不測の事態が発生した場合にはこれでは心許ない。

これで行くしかないと決意を固めている秀吉の目に軍勢が飛び込んできた。

それぞれ鎧を身にまとい武器を手にしている。米俵を大量に運ぶ荷車や馬も数百頭いた。


長浜城に近づいてくる軍勢を注視すると、三成の旗印がそこら中に掲げられていた。

「三成のやつか」

秀吉は驚きと共に、迫ってくる壮大な軍勢を嬉々として見つめた。

三成の姿が目視で確認できたところで行軍は停止した。その先頭にいた三成もまた秀吉の姿を瞳に写す。

「秀吉様。葦にかけた税から1万の軍勢を揃えました。これより我々も中国地方攻めにお供致します」


天下を手中に収めようとする織田信長の元で働く秀吉。

もう戦は隣国同士のぶつかり合いではなく地方同士が雌雄を決する大規模なものになっている。

人を集め、物資を調達し、それを動かす。戦いの前の準備でほぼ勝敗が決するような状況になってきていた。

三成はその重要性を理解し、実行できる数少ない武将であった。

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