第18話 外に出る方法

「ようやく決断したな」


「遅かれ早かれ、決めていたでしょう」

 フ・・・と、島本は微笑を浮かべた。


「トーカのような奴を俺は待っていたのさ」

「……脱出仲間、を?」


「少し、詳しく話す必要がありそうだな。俺が説明してもいいんだが……、もう、早い方がいいだろう。あの男に、加わってもらった方がよさそうだ。」


「あの男って、誰? 早いって、逃げるのが、ですか?島本さん!」


「まあ、落ち着けよ。煙草でも吸っていれば、来るはずだ。喫煙室へ行こう」


 僕たちは喫煙室へ向かった。そこであいかわらず、わかばやLARKを吸って時間を潰していた。

「俺はずっと考えていた。人を探してもいた。そりゃあ、俺はただの薬中さ。シャブもやれば、ヘロインもやった。治療が必要なのは、当り前さ。病院に入ってもおかしくもなんともない……。だからこんな場所に送られて生活を送ることに文句など言える立場ではない、ずっとそう思ってきた。でも、心の中でおかしいと思い続けてきた。それは葛藤でもあったのさ」


「葛藤って……」


「さんざん奴ら、医者、主治医たちにも言われていることさ。精神障害者なんだから黙って治療を受けろ、入院していろってことさ。『ドラッグ中毒患者が閉鎖病棟に入れられました。俺はおかしくないから出してくれ、もう治ったから退院させてくれ』そんな主張をしたところで、人はどう思う、と思う?」


「……相手にされないでしょうね。その点だけ考えれば」


「そうだ。じゃあ、20年、30年居続けなければいけないんです、と叫んだって、どうだ。自分には関係のないことだと誰も相手にされない、聞いてもくれないだろう。鉄格子の中で叫んで、誰が聞く。近隣住民から苦情が来るか。こんな山奥に。」


 珍しく島本氏が主張するのを、僕は聞いていた。


「そこで、彼だ」


 島本氏が顎を、くいとやる方向を見ると、あの男がこちらへ向かってくるのが見えた。レスラー並みの巨体。ここのボスでもある。のっし、のっし、という比喩を使うのも嫌になるくらいぴったりな歩き方で、やってくる。僕が保護室の鉄格子でやりあった、男。


「おう、どうも。赤井君」

「こんにちは、安藤さん」


 僕は安藤さんとは、気違いよばわりしたり、殺してやるなんて言われたりしたけれど、島本氏が間に入ってくれて詫びを入れたことで、あれから自然に会話をする仲にはなっていたのだった。


「オヤジ、彼がやると決めた」


 島本氏は安藤さんのことをオヤジと呼ぶのか。

「ああ、そうか。それがいい。まだ若いんだから、それがいい」


「オヤジ、いちから説明してやってもらえませんか。俺よりオヤジの方が知識が正確だし、説得力がある」


「なぜ、ここにいるか、か」



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