第13話 家族会「退院を前提として治療していないのです」
ある日のことである。
……その病院のある一室に、主に老年の男性、女性が集まっていた。彼ら、彼女たちの多くは、夫婦であった。あるいは家族、親族であった。
知った顔がある人は、挨拶をしたりもした。ここ以外で付き合うことこそないが、付き合いが長い人たちも、いるのだった。
郊外の山奥の病院のことである。簡単に人が集まれる場所ではない。それでも、15人ほどが集まっていた。定刻となり、それをしばらくすぎると男の看護師が入ってきた。
「本日は遠い中、お集まりいただきありがとうございます。ではこれより、家族会を始めさせていただきたいと思います。よろしくお願いします」
適当な挨拶をすると、集まった参加者も適当に頭を下げた。
家族会。
それは入院患者の、家族に対する全体の説明会。相談会。
それは病院からの説明会ではあるが、患者同士の相談の場でもあるのだった。
「まあ、御存知の通り、当院は外来に来ている方も多くおられますが、基本的には私達は入院患者、入院している患者様のケアといいますか。生活の支援をさせていただいております。中には非常に長期にわたって入院されておられる方もおられます。そういった方々、これからのこともありますし。親御さんも見えられておりますし、不安を抱えていらっしゃると思います。そういったお気持ちを、不安を、共有し、解決していける会にしていきたいと思っております」
さっそく席に座っている老人の男性が質問を投げかけた。
「あのう、おらんども、息子預けさせてもらって、だいぶ長いことになるわけだはんで、本当にありがたく思ってます」
「はい」
「ほんで、やっぱりこいつ、かかあともしゃべっでほら、やっぱりいちばん不安なのは、出できたりしねえのかってことで。」
すると、ほとんどすべての集まった家族たちが、挙動を取る。
大きくうんうんと頷くのだった。
一人を除いて。
「はい。皆さま、その点、本当にご心配かと思います。もちろん皆様のお子さんには20年から30年、40年とここで生活しておられる、方も多くおられます。それがどういうことかというと、まあ、そういう患者さんたちは医療保護入院という形をとらせていただいているわけですけれども、今日お集まりの方々はそういう方たちは特に、入院の方針として、親御さんのお気持ち次第ということです」
「それは例えば、退院させてほしいと、やっぱり家で面倒を見たいと思い直したら、それは対応する、という方針ということでしょうか」
どこかの女性が聞いた。
「……仰るとおりです。その場合、入院していただく必要自体がはなくなりますので」
「……」
「……」
彼ら、彼女ら親族にとってこの質問の意味は極めて大きいようであった。裏を返せば、ということだった。非常に長い沈黙。
「その点のご不安は私共どもも十分理解しているつもりです。ただ一つだけ確かなこと、方針といいますか、私共は今日集まっている親御さんたちのお子さんについては退院を前提として治療をしているわけではありませんので。その点ははっきり、お伝えしておきたいと思っています」
安堵の空気が流れた。
続
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