第7話 所持品検査。持ち込めるもの、持ち込めないもの
僕はその日、主治医の藤田という男性医者の診察を受けることとなった。
「今日から、保護室から一般の部屋に移ってもらうことになりますから。それにあたって、預かっていた所持品、お返ししますけど、一応、中身、チェックさせてください」
という話だった。
「先生、その前に、部屋の、向かいの人、気持ち悪いんですが……」
「気持ち悪いって、どう気持ち悪いの」
「一人で、してるんですよ。それも声を上げながら」
「……自慰をしてるってこと?」
「まあ、そうです。それなら我慢できもしますけど、そういうことする人が、何してくるか、わからないじゃないですか」
藤田は少し黙った後、言った。
「……病室変えることはできるけど?」
「変えてもらえるなら変えてもらいたいですけど」
「でも、主治医違う人になるから、面倒なことになるよ」
と、取りつく島がなさそうだったので、諦めた。
僕は預けていた荷物を入れたバッグ開けさせられた。
当時はiPhoneもなく、iPodも高級品だった。10曲程度の曲が入る音楽プレイヤーを所持していた。
「これは?」
「音楽プレーヤです。MP3の」
「へえ、これで音楽が聴けるの。すごいな」
「はあ」
すると看護師の一人が言った。
「待って。これ、録音とかできるんじゃないの」
「は?できませんよ」
「……本当に?守秘義務とかあるからこれは駄目だ」
「ちょっと、待ってくださいよ。本当にできませんから」
さんざん、その音楽プレーヤの説明をして、没収は免れた。これがあるとないとでは、生活はだいぶ苦しいものになるだろう。助かった。
「ちょっと、曲を調べさせて」
「は?なんでですか!?」
「……サイケとか、入ってるかもしれないから」
なんだ、それは……。
結局これは、ミスチル、これもミスチル、と一曲一曲聞かせ、「害」がないことを説明して、認められた。
マグカップがあった。これは駄目だろうなと思ったら、当たり前のように没収された。……こんなもので、自殺なんか、するかよ……。と思ったけれど、10年ここで生活しろと言われたら、考えてしまうかもしれない、とも思った。
「ライター、マッチ。これは駄目。煙草はいいよ。中でも買えるから」
「火、なしでどうするんですか?」
「その都度貸し出すから。こっちで着けるから」
「……」
……僕はあらかたの荷物のチェックを受け終え、半分ちかくのものを没収された。そのまま主治医の藤田の診察を受けることになった。
「調子はどう」
「……薬の影響で身体がだるくて、眠い……です」
「まあ、それはそうだろうね。慣れてもらわないと」
「もう少し弱いのに変えてもらうことはできないんですか」
そう言うと、藤田の顔色が変わった。
「……自分の状況わかってるのか?君は、自傷の恐れが非常に高い。他害、人を傷つけるおそれについては、言うまでもないだろうが」
「……はい」
「わかってるのか。君は、精神障害者だ。その自覚があるのか」
「……」
「そのための治療だろ。自覚が、足りないんじゃないのか?薬を変えてくれだと?自分の立場を考えろ。なぜ自分がここにいるのか、考えろ。しばらくは様子を見る」
「しばらく……とは?」
「しばらくはしばらくだよ。5、6か月だ、薬を変えるにしてもな」
続
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