第26話!! Change my world/ アライさんのユートピアなのだ!!



「う……ここは?」


 気が付けばアライさんは倒れていたのだ。

 目を開けて、まず視界に入ってきたのはアライさんをかばって倒れたフェネックだったのだ。


「そうか……戻ってきたのだな……」


 アライさんの目に涙が浮かぶのだ。

 いや、泣いている場合ではないのだ。

 そのとき、アライさんの下でうめき声が聞こえたのだ。


「ゲフっ…う……あ…らい…さ……」


 ……!?


「フェネック!?生きているのか!??」


 アライさんがフェネックをよく見ると、フェネックの胸が小さく動いているのに気づいたのだ。

 まだ、息があるのだ!

 アライさんはフェネックをとっさにこすったのだ。


「フェネック!戻ってくるのだ!」


 アライさんのフレンズの技であるマジカルウォーターハンドはどんな傷や病気も一瞬で治してしまうのだ。

 しかしいくらこすってもフェネックはうめき声をあげるだけで一向に良くなる気配がなかったのだ。

 どうしてなのだ……

 よく考えたらアライさんのマジカルウォーターハンドはオイナリの力で強化されているものだったのだ。オイナリの力がなくなった今は何の役にも立たないのだ。

 うう……どうすれば……。

 そのとき突然薬屋での出来事を思い出したのだ。


 ーアライさん、ケガしている人を急に動かしてはいけませんよ。

 ーええ?じゃあどうすればいいのだ?

 ーケガの具合を見て、その場でできることをするんです。


 そうだったのだ。

 賢者のケンジに言われた通り、アライさんはフェネックの容態をよく見たのだ。

 腕が変な方向に曲がっているのだ。

 口から血がとめどなくあふれてくるのだ。


「う、うつぶせにするのだ」


 口からの血で窒息してしまうかもしれないから、アライさんは慎重にフェネックを裏返したのだ。

 そのときフェネックはとても大きな悲鳴を上げたのだ。


「あああああああ!!!」

「大丈夫かフェネック!?痛いのか!?」


 フェネックは答えなかったけど、その顔は明らかに苦痛に歪んでいたのだ。


「ちょっと待ってるのだ!」


 アライさんは駆け出して、林の中に入ったのだ。

 なにか、痛みを取り除く草は……

 そのうちアライさんは、緑色の丸い球体を付けた草の群落を見つけたのだ。


 ー賢者のケンジ?このまんまるの草は何なのだ?

 ーああ、それはケシですね

 ーケシ?ケンジみたいな名前なのだ!

 ーそれは置いておいてですね、この丸い部分の中には、痛いのをなくす薬が入っています。

 ー何!?じゃあいっぱい取って帰るのだ!

 ーダメですよ!この薬は強すぎるんです!僕は使わないことにしているんです!

 ーえぇー?


 そうなのだ。この草は確か、ケシと言う草なのだ。

 賢者のケンジは使うなと言ったけど、フェネックを救うにはこれを使うしかないのだ!


「賢者のケンジ!ゴメンなのだ!」


 アライさんはケシの青い実を2、3個取ると、フェネックのもとへ帰ったのだ。


「フェネック!これで元気になるのだ!」


 アライさんはフェネックの口に、ケシのしぼり汁を与えたのだ。

 するとフェネックの顔色が若干よくなった気がしたのだ。

 ……効いたのか?


「……アライさん。ありがとゲフッ!!!すごくらッくゲホっ…」

「落ち着くのだフェネック!」


 でもフェネックは落ち着かなかったのだ。


「アライさーんっ……私はもう……長くな…い…はぁはぁ……サンドス…スタあが…もう…」

「しゃべらなくていいのだ!!」


 アライさんがそういってもフェネックはしゃべり続けるのだ。


「ア…ライさん……さいっ……ごに…お願い…。ふぅ…聞…いて…ひと…つだけ……」

「やめるのだフェネック!最後とか言うななのだ!」

「幸せに……なって……」


 ガクリ、と、フェネックは息絶えたのだ。

 そして、フェネックの体はもとのキツネみたいなものに戻ったのだ。

 そのキツネはアライさんに気づくと逃げ出していったのだ。


 アライさんは一人残されてしまったのだ。


 最後にフェネックはなんて言ったのだ?

 ……幸せになって?

 これはアライさんが転生をするとき何度も何度も言われたセリフなのだ。

 もしかしてオイナリはこれを知っていたのか?

 オイナリが叶えようとしていたのは、フェネックの願いだったのか?

 オイナリは、ただの自分勝手なフレンズじゃなかったのか……?

 そう思うとアライさんは、オイナリを最後まで疑っていた自分がとても情けなく思えてきたのだ。


「オイナリに……謝らなきゃなのだ」


 これはごめんなさい案件なのだ。

 でも、オイナリにはもう会えないのだ。


「ごめんなさいなのだ…」


 アライさんはそうつぶやいたのだ。

 しかしそのつぶやきは、崖の下でむなしく消えていったのだ。



 ~~~



 そのあとアライさんは崖を上って、ジャパリカフェに着いたのだ。

 途中雨が降り出して大変だったけど、何とかたどり着いたのだ。

 フェネックと行く約束をしてたし、おしゃべりなラッキービーストとも行く約束をしていたのだ。結局ひとりで行くことになってしまったけど、アライさんはそこに幸せがあると思ったのだ。


 ジャパリカフェに入ると、店主マスターが出迎えてきたのだ。


「いらっしゃ~い。ようこそぉ~ジャパリカフェへ~。あるぇ?きみぃひとりぃ?」

「一人なのだ」


 そう、アライさんは一人なのだ。

 でも、ひとりであることには慣れているのだ。


「そうなのぉ~。大変だったでしょぉ、ここまでくるの。外は大雨だからねぇ!どうぞどうぞ中でゆっくりしてってぇ!」


 何やら変な言葉でしゃべる店主にうながされるまま、アライさんは椅子に座ったのだ。

 椅子に座るとすぐさま何かを出てきたのだ。


「はいどおぞぉ!」


 出てきたのは、お湯に葉っぱを入れたやつだったのだ。


「これはなんなのだ?」

「お茶だよぉ」


 アライさんは茶色く濁った水面を眺めてみたのだ。

 これが、おちゃ。

 フェネックと一緒に飲むはずだった、おいしいと話題の、おちゃ。

 でもフェネックはもう……


「なあ店主……おちゃって案外、しょっぱいのだな……。いつか食べたじゃぱりまんと同じ味がするのだ」

「そうかなぁ?お塩は入れてないんだけどねぇ」


 アライさんはティーカップを置いて、外を眺めたのだ。

 雨が窓ガラスを打ち付けているのだ。

 これはやみそうにないのだ。帰りは大変だろうな。

 すると不意に、店主が向かいの椅子に座ってきたのだ。


「私も一緒に飲んでいいかなあ?」


 あまりにも急だったので、アライさんは驚いて「どうぞ」としか言えなかったのだ。

 雨は相変わらず窓をたたいていて、アライさんはぼうっと外を眺め続けてたのだ。


「こういう雨の日は、お客さんぜんぜん来ないからぬぇ~。君が来てくれてうれしぃよぉ~」

「うれしい?アライさんが来てうれしいのか?」


 店主は言うのだ。


「そりゃもちろんだよぉ!一人は寂しいからぬぇ~!あたしが最初にここに来た時も、ぜんぜん人こなくて寂しかったよぉ!」

「寂しい…?」

「そうだよぉ。誰だってそうだよぉ」


 だれだってそう。

 店主の言葉がアライさんの中でこだまするのだ。


「じゃあアライさんも、寂しいというのか?」

「そんなの見ればわかるよぉ」

「……え?」


 アライさんは、寂しい。それは幸せとは反対の感情なのだ。

 アライさんはそんな風に見られていたのか?

 反論しようと思ったけどできなかったのだ。


「今日はもう暗いからねぇ、屋根裏部屋があるからそこに泊まっていいよぉ」


 しばらくの沈黙のあと店主が言い出したのだ。

 確かに今から帰ると崖から落ちてしまいそうなのだ。

 ここはお言葉に甘えて、お泊りすることにするのだ。

 アライさんは屋根裏に登ったのだ。おやすみなのだ。


 ~~~


 屋根裏はいろいろなものが乱雑に置かれていて、とても眠れる環境ではなかったのだ。

 だからアライさんは薄暗い中寝床を作っていたのだ。

 それでわらを運ぼうとしたとき、アライさんは固いものに引っかかって転んでしまったのだ。


「いっつぁ!なんなのだ?」


 そこにあったのは、見覚えのある石の塊だったのだ。


「これは……石臼?」


 うどんを作ったときに嫌と言うほど回した道具なのだ。

 覚えていないはずがないのだ。


「もしかして……!」


 アライさんが屋根裏をあさると、タライ、麺棒、小麦粉と、見覚えのある道具がどんどん出てきたのだ。

 それを見ていると、盗賊のケンジたちと一緒に過ごしたうどん屋での日々が蘇ってきたのだ。

 思いでのなかのアライさんはとても楽しそうに笑っていたのだ。

 これさえあれば。


「うどんを打つのだ」


 ~~~


 翌朝、店主があくびをしながらカフェのカウンターにやってきたのだ。

 アライさんはそのずっと前から作業をしていたので、店主に「おはよう」と言ってやったのだ。

 店主はびっくりしてこちらを見たけど、すぐに何をしているのか聞いてきたのだ。


「アライさんは朝ご飯を作ったのだ。店主も一緒に食べないか?」

「もちろんいいよぉ」

「じゃあ座るのだ」


 アライさんは店主を座らせて、その目の前にきつねうどんを置いたのだ。


「どうぞ。なのだ」

「おいしそうだねぇ」


 店主は微笑みながら麺をすすったのだ。

 次の瞬間店主は目を見開いたのだ。


「っこれは!!うおいしいねえ!!こんなの食べたことないよぉ!」


 そう言って店主はものすごい勢いで完食してしまったのだ。

 どうやらうどんを食べるのは初めてのようなのだ。店主は食べ終えて口を拭いた後、目を輝かせながらアライさんに言ってきたのだ。


「アライさん!あなたここでバイトしなよぉ!」

「ふぇ?あ。わかったのだ!」


 ~~~


 それからというものの、ジャパリカフェのうどんは大人気になって、連日長蛇の列ができるようになったのだ。

 それに伴ってアライさんは人気になっていって、パークでは知る人ぞ知る有名人になったのだ。

 そんなある日。


「おいしかったよアライさん!また来るね!」

「ありがとうございましたなのだ!」


 アライさんは礼をすると、店内の掃除を始めたのだ。

 今日はこれで終わりなのだ。一日の仕事は大変だけど、みんなの笑顔が見られて楽しいのだ。

 そう思っていると、店主が声をかけてきたのだ。


「おつかれさまぁ、アライさん。あなただいぶ顔がよくなったねぇ」

「そんなことないのだ」

「あははぁ、そうかもねぇ。あなたのうどん、本当に食べてほしい人にまだ食べさせてあげてないもんねぇ」

「な、なにを言っているのだ!?」

「だってぇ、顔に書いてあるもんねぇ」


 アライさんはそんなこと思いながら掃除していないのだ。楽しいなと思いながらやっているのに、店主は何を言っているのだ?


「アライさ~ん。ウチはこんなに辺鄙なところにあるからぁ、鳥の子以外なかなか来てくれねンだ。でも、山の下に店だししたら、きっともっとお客さん来てくれるよぉ?」

「どういうことなのだ?」

「もっとたくさんの人にうどん出せるんだよぉ。行ってくれネぇかな?」

「つまり、のれん分けということか?」

「そうだよぉ。ウチでばかりアライさん使うのは、ちょっぴり申し訳ないから、アライさんには自分で店持って欲しんだぁ。ビーバーとプレーリーに話付けておいたから、店はもうできてるよぉ」


 こうしてアライさんは、ゆうえんちの近くに自分の店を持つことになったのだ。

 店主に会いにくくなるのは少し寂しかったけど、それ以上にお客さんに喜んでもらえると聞いて、アライさんは了承したのだ。



 ~~~



 そしてアライさんのうどん屋さんのオープン前日。

 アライさんは一人でうどんの仕込みをしながら、考えていたのだ。

 店主が言っていた、『本当に食べてほしい人にまだ食べてもらっていない』という言葉。

 あれはたくさんの人に食べてもらいたいという意味ではないのだ。

 アライさんが特定の誰かに食べてほしいと心の中で思っているということなのだ。

 それが誰なのかはわかっているのだ。


 賢者のケンジなのだ。


 彼はまだアライさんのうどんを食べていないのだ。

 アライさんはそれが残念で、心残りだったのだ。

 これは山の上から遊園地に店を移転したところで解決する問題ではないのだ。

 この胸のつっかかりはたぶん一生取れないのだ。世界が違うしどうにもならないのだ。

 アライさんがため息をついたそのとき、誰かが店の中に勝手に入り込んできたのだ。


「うわぁ!アライさんがうどんを仕込んでいます!かわいいですね!」

「誰なのだ!?まだ開店していないのだ!」


 気が付けばアライさんのとなりに、緑の髪でメガネをかけた謎のフレンズがいたのだ。

 そいつはアライさんのほっぺたをぷにぷに触ってきたのだ。


「やっぱりかわいいです~」

「ええいやめるのだ!何者なのだお前は!?」

「私はミライです」

「ミライ!?知らないのだ!」

「ああ……賢者のケンジの母、と言えばわかりますか?」


 アライさんの記憶が急激に回復していくのだ。

 そういえば賢者のケンジには病弱の母がいて、アライさんは確かそいつを一番初めに治したのだ。

 そしてこの顔は見覚えあるのだ。


「お前……なんでここに……」

「ミライさーん!」


 店の外からミライを呼ぶ声が聞こえるのだ。

 この声は、かばんさん?いや、賢者のケンジなのだ!

 賢者のケンジは店の中に入ってくると、アライさんを発見したみたいなのだ。


「アライさん!うどんを食べに来ましたよ!」

「ケンジ!どういうことか説明するのだ!」


 賢者のケンジははにかみながら答えたのだ。


「オイナリサマがミライさんの願いを叶えてくれたんです」

「ふぇえ!?オイナリの力はまだ残っていたのか?」

「いえ、オイナリサマにはもともと『人間』の祈りに応える力があるので、それを使っただけですよ」

「つ。つまりミライは『人間』ということなのか。……してミライは何を祈ったのだ?」


 ミライは質問に笑顔で答えたのだ。


「世界一おいしいうどんを食べることです!」


 なんだー!

 そういうことならアライさんにお任せなのだ!!!

 賢者のケンジも一緒に食べていくのだ!



 ~~~



 なあ、お前には仲のいい友達はいるか?

 アライさんには、いたのだ。

 だからな、寂しかったのだ。

 ひとりだとどこに行ってもひとりなのだ。ひとりだと誰も文句を言ってくれないのだ。

 でもな、みんなと一緒だと寂しくないのだ。たとえ仲のいい友達を失っても、寂しくないのだ。

 アライさんはみんなと幸せに過ごすために、今日もうどんを打ち続けるのだ。


 おしまい

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ジャパリパークの嫌われ者だったアライさんが異世界イチの人気者になるのだ!! はいいろわんこ @8116dog

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