第13話!! 飛脚のケンジたちなのだ!!



 アライさんが村から連れ去られてこの町にやってきてもう3ヶ月が経ったのだ。


 その間色々なやつを治して来たけど、この町にはまだまだたくさんの病人がいるみたいで、仕事は全然減らずに忙しい毎日を送ってたのだ。

 でもこの町には面白いところがいっぱいあったし、治す人もいろいろな人がいたから、全然飽きることはなかったのだ。むしろ村にいたときよりも楽しい気もするのだ。


「おいアライさん早くしろよ!」

「今アリさんがバッタの死骸を運んでいるのだ!これを見届けるまでは行けないのだ!」

「どうでもいいだろそんなこと!」


 盗賊のケンジは相変わらずフレンズ使いが荒いけど、しばらくいっしょに過ごして見ると案外悪いやつではないことが分かったのだ。この前もアライさんを急かすのは病気の人を待たせるわけにはいかないからだとたまわっていたのだ。今回も多分そういった理由なのだ。


「まだかー!フェネックも待ってるぞー!」

「もう少しなのだ!」


 でも何だかんだアライさんを待っていてくれるから、優しいといえば優しいのだ。

 ……よし!ちゃんと巣に運べたのだ。アリさんは偉いな!アライさんも偉いから頑張って人助けに行くのだ!

 そう思ってアライさんは待っていた二人のもとへ走ったのだ。



 〜〜〜



「本当にありがとうございます」


 今日は裕福そうな家のケンジを治療したのだ。いつも通りうまくいって、いつも通りお礼を言われたのだ。


「礼なんていいのだ。アライさんはアライさんができることをしたまでなのだ」

「いえいえ、1リョーだけでは私の気が済みません。どうかこれを持っていってください」


 そう言うとそいつは棚をゴソゴソして、白い紙を取り出して持ってきたのだ。


「どうかこれを受け取ってください」


 アライさんはそれを受け取ったのだ。何なのだこれは?

 続いて盗賊のケンジとフェネックが紙を覗き込んで来たのだ。でも二人もこれの正体が分からないみたいで、不思議そうな顔をしていたのだ。

 すると裕福なケンジは説明をはじめたのだ。


「これは、超高速飛脚用の手紙です。専用の切手付きですよ」


 そんなこと言われてもアライさんたちは分からないのだ。説明しろなのだ。


「簡単にいえばものすごく速い郵便屋さんです。彼らはどんなに遠いところでも、この紙を一日で運んでくれるといいます。この町で最速の飛脚ですよ」


 なにー!?どんなところでも一日で!そんな奴がいるのか!?それは是非お目にかかりたいのだ!一体どこにそんなやつがいるのだ!?


「そいつはどこにいるのだ!?ここから遠いのか?」


 アライさんはやや興奮しながら言うと、盗賊のケンジがやれやれといった表情で言ったのだ。


「アライさん。そんなこと本気で信じちゃダメだぜ?どうせ誇大広告だろ」


 全く盗賊のケンジはシケたやつなのだ。


「そんなの行ってみなければ分からないのだ!レッツゴーなのだ!」

「おい待てよ!今日はまだ別の仕事があるだろ!」


 は!そうだったのだ。流石に病気で苦しんでいる人を放っておいちゃかわいそうなのだ。これはごめんなさい案件なのだ。


「分かったのだ。じゃあそれが終わったら行っていいか!?」


 アライさんは手のひらを合わせて盗賊のケンジに頼んだのだ。


「分かったよ……ちょっとだけだぜ!」


 やったー!仕事後の楽しみができたのだ!

 今からワクワクなのだ!



 〜〜〜〜


 夕方


「ふぅ〜。今日も大変だったのだ。あ、盗賊のケンジ!約束は覚えているか!」

「分かってるよ……飛脚の所に行くんだろ?」


 良かった覚えていたのだ。

 でも、そのひきゃく?はどこにいるのだ?アライさん何も聞いていないのだ。


「盗賊のケンジ!あの、場所聞いてたか?」

「は?聞いてないぜ?アライさん聞いてたんじゃないのか?」

「聞いてないのか!?……まあいいのだ!多分橋の向こうにあるのだ。そっちに行ってみるのだ!」


 アライさんがそちらに行こうとすると、盗賊のケンジがアライさんの襟を掴んできたのだ。


「いやそっちじゃねえだろ!ケンジ様の勘によるとと、長屋の向こう側だぜ!逆方向だ!」

「何を言うのだ!絶対橋の向こう側!」

「いーや!長屋の方向!逆方向だ!」


 アライさんが盗賊のケンジとケンカしてると、フェネックがアライさんをつんつんしてきたのだ。

 そしてアライさんに例の手紙を見せてきたのだ。


「これは?何が言いたいのだフェネック?」


 フェネックは手紙の一部分を指でくるくる指し示したのだ。そこには線と四角がいっぱい書かれた模様が書かれていたのだ。

 なんなのだこれは?

 そう思ったのもつかの間、フェネックはアライさんとも盗賊のケンジの意見とも違う、川下の方向へ駆け出して行ったのだ。アライさんはケンジと顔を見合わせてしばらく唖然としていたけど、とりあえずフェネックについて行くことにしたのだ。


 フェネックについて行って10分くらい歩くと、アライさん達は玄関が開きっぱなしの粗末な家にたどり着いたのだ。

 そしてフェネックはその家を指差したのだ。

 ここが超高速飛脚の家なのか?

 アライさんが入ろうとしたら中から声が聞こえて来るのだ。


「おい何だよこの荷物はよ!隣町宛の荷物ばかりじゃねえかよ!近場の荷物は!?」

「近場の荷物はオイラが先に届けといてやったんでい!後輩のお前のために遠く宛の荷物を残して置いたんだぜぇ!トレーニングのためだ!感謝しなあ!」

「はぁ!?お前が近場ばかり行って楽したいだけだろがよ!こんな怠惰な奴が一番弟子だなんて、師匠のケンジは大したことねぇな!」

「べらぼうめえ!師匠のケンジ様を悪く言うんじゃねえやい!」


 どうやら中で言い争いが起こっているようなのだ。

 見ると、黄色いヒョウ柄のふんどしを着たやつと、水色のふんどしを着たやつがお互いに暴言を吐きあっているみたいなのだ。

 お仕事の話で内容はよく分からないが、何にせよケンカはよくないのだ。アライさんは仲裁に入ることにしたのだ。


「お前たち!ケンカはやめるのだ!」


 こういう時はなるべく大声で堂々と言うのがコツなのだ。そしたらケンカ中でもこちらに注目してくれるのだ。

 ほら、やっぱり二人してこっちを見ているのだ……と思ったら火の粉がこちらにもかかってきたのだ。


「なんだよお前たちはよ!」

「見せもんじゃねぇ向こうに行ってろ!」


 折角仲裁に入ってやったのになんて態度なのだ!腹立たしいやつらなのだ。お望み通り向こうに行ってやるのだ!


「ケンジ!フェネック!気分が悪いから帰るのだ!」

「おいおいここまで来て帰るのかよ……手紙は?まあいいけど」


 アライさんたちがスタスタと立ち去ると、どうやらこちらがお客さんであることに気づいたらしくて、店の中からアライさん達を呼び止める声がしはじめたのだ。

 ……仕方ないから戻ってやるのだ。



 〜〜〜〜



「いや本当に申し訳ねえ!うちの店は今立て込んでてよ!ほらお茶!」

「今日は特別荷物が多くて忙しいんだよ!ほらお菓子!」


 アライさんたちは店に上げられて平謝りされたのだ。お茶とかお菓子とかいろいろと出されたけど、忙しいならこんなことしてる場合ではないのではないか?

 そう思っていると飛脚たちはまた小突き合いをはじめたのだ。


「ほら二番弟子のケンジぃ!オイラが対応してるからお前配達行ってこい!」

「なぁに言ってんだよ一番弟子のケンジ!俺が対応する!」


 どうやら二人ともアライさんたちへの対応をしたいみたいなのだ。そんなにアライさんとお話したいのか?まあアライさんは人気者だからそういう奴が出てきてもおかしくないのだ。

 とはいえいつまでもこんな調子では本題に移れないからアライさんはさっさと目的を話すことにしたのだ。


「なあ、お前たちは本当にどんなところでも一日で行けるのか?」


 フェネックが持っていた手紙を見せながらアライさんは言ったのだ。すると、飛脚屋の二人はみるみるうちに困った顔に変わっていったのだ。

 どういうことなのだ?


「申し訳ねぇ!それができる人は今出払ってんだ!」

「なに!?お前たちは運べないのか?」


 なんで二人とも飛脚屋なのに運べないのだ?おかしくないか?


「いや飛脚なんだけどよ、俺達体力がなくてよ、すぐバテちまうんだよ」

「そういう仕事は全部師匠に任せてっかんな。仕方ねえゃ、少しここでゆっくりしてってくれ。もうすぐ師匠くるから、な?」


 ぐぬぬ……アライさんは待つのは苦手なのだ。しかしここまで来てのこのこ帰るのもそれもまた嫌なのだ。

 考えているうちに店の前から野太い声が聞こえてきたのだ。


「おーい!弟子共ー。お客さんが来ているのか?」


 そう言いながら現れたのは、オレンジ色のふんどしをつけた、しなやかな体型のやつだったのだ。

 これをみて弟子たちはすかさず反応したのだ。


「師匠様!オイラはこの方々たちにお茶入れていました!」

「おお、よくやったな。偉いぞ」

「俺はお菓子をお出ししました!」

「おお、お前もか。偉いぞ。して、その方々は何用かな?」


 弟子のケンジたちは口々に超高速飛脚の手紙を持ってきたことを説明したのだ。


「なに!?超高速飛脚の依頼か!やるじゃないか!!とても高すぎる料金設定だと思っていたから、客がつくとは思わなかったぞ!」


 それを客の前で言うのはどうかと思うのだ。

 でも飛脚の師匠はそんなことに構いもせずに言ったのだ。マイペースなやつなのだ。


 ~~~~


「よし……お客さん名前は?」

「アライさんなのだ」

「よしアライさん。この手紙をどこの誰に届けて欲しいんだ?俺が一日で届けるぞ!」


 ここでアライさんは気づいたのだ。アライさんは飛脚を使うことが目的になっていて、誰に送るか全く考えていなかったのだ。

 せっかくどんなところでも届けてもらえるならなるべく遠くの知り合いに送りたいものなのだ。でもそんな知り合いアライさんにいたか……?よく考えた末、ついにアライさんは思い出したのだ!


「あ!そうだ!フモト村の賢……」

「長屋にいるヒゴのケンジに届けてくれないか?」


 アライさんが言い切る前に、それまで黙って聞いていたはずの盗賊のケンジが遮るように言ってきたのだ。


「ケンジ!急に何を言うのだ?!」

「長屋のヒゴのケンジ宛で。一日で行けるよな?」


 盗賊のケンジは飛脚の師匠に念押したのだ。飛脚の師匠は腕を組んで答えるのだ。


「行けるが……すぐ近くじゃないか?これを使うのはもったいないぞ?」

「いや、それでいい。急用なんだ。頼む」

「そうか急用なのか!分かった。今すぐに運ぼう」


 そう言うとふ飛脚の師匠は消印を押して、ふんどしをなびかせて行ってしまったのだ。

 急用なんてアライさんは聞いていないのだ!それにヒゴのケンジは同じ長家に住んでいるから手紙じゃ無くても口で伝えられるはずなのだ!


「盗賊のケンジ!どういうつもりなのだ?」

「急用なんだ」


 その後アライさんがどんなに問い詰めても、盗賊のケンジは急用としか言わなかったのだ。

 口論が終わらないうちに、飛脚の師匠は帰ってきたのだ。


「ただいま届けてきたぞ」

「さすが師匠!!とんでもないスピードです!」

「ふふ、まあな。それで、次の配達はどこにある?」

「机の上にてんこ盛りですよ!隣町宛の荷物が中心です!」

「任せろ。全部俺が運んでやる」

「さすが師匠!!お任せします!」


 飛脚の師匠はもう次の仕事にとりかかり始めていたのだ。

 アライさんは納得いかなかったけど、もう手紙はないし、諦めるしかないようなのだ。


「おいアライさん。帰るぞ」

「く、分かったのだ」


 ……賢者のケンジがどうしているか気になりはじめたのは、このときからだったのだ。




 〜〜〜〜




 その日の夜。

 アライさんは珍しく寝付けずにいたのだ。

 理由はもちろん、賢者のケンジのことだったのだ。思えばあいつと最後にした会話はケンカのような感じだったのだ。確か剣士のケンジが現れて、そいつにばっかり気をにかけるのがアライさん気に食わなかったのだ。でも今は違う。フモト村には面白いことが全然なくて、剣士のケンジの話も面白いっちゃ面白かったかもしれないのだ。賢者のケンジには悪いことをしたのだ。今賢者のケンジに会えるなら、アライさんから謝らなくちゃダメなのだ。


 ドンドンドン!


 突然、扉を叩く音が聞こえたのだ。

 なんなのだ?こんな時間に。盗賊のケンジはぐぅぐぅといびきをかきながら寝ていたので、起きているアライさんが応対することにしたのだ。

 アライさんは扉の前まで小走りで向かったのだ。

 こんな夜中に用事なんて、よほどの急用じゃないか?誰なのだ?……もしかして賢者のケンジがアライさんを迎えに来たのか?


 淡い期待を込めながら引き戸を開けると、そこにいたのは夕方会った飛脚の弟子たちだったのだ。ゼエゼエと息を切らしていて、とにかく切羽詰っている感じだったのだ。彼らはほどなくアライさんに詰め寄ってきたのだ。


「師匠がぁ……師匠が帰って来ねぇんだ!」

「なに!?」

「隣町に行ったきりだよ!いつもなら夕飯作りに帰ってくんのによ!」

「オイラたちゃもうハラペコだよぉ!」


 コイツらは師匠に夕飯を作らせるのか……?思えば仕事も全部任せきりだったし、なんか思っていた師弟関係と全然違うのだ。

 ……まあいいのだ。今日は寝つけないし、なによりアライさんは優しいから手伝ってあげるのだ。


「本当かよ!感謝するぜ!」

「ありがてえ!」


 アライさんたちは行灯を持って隣町に向かったのだ。



 〜〜〜〜



「師匠ー!どこですかー!」

「返事をくだせぇー!」

「出てくるのだー!」


 アライさんたちは暗がりの中、叫びながら隣町をさまよったのだ。

 しかしどれだけ叫んでも師匠のケンジは出てこなかったのだ。


「オイラもう疲れちまったぁ」

「俺もだよぉ」


 弟子の二人は座り込んで弱音を吐き始めたけど、まだ一時間も探していないのだ!なんで飛脚なのにこんなにもひ弱なのだ!


「お前たち!ホントに飛脚なのか!?もっと根性持つのだ!……ん?」


 弟子の二人に行灯を向けると、その後ろで誰かが倒れていることが分かったのだ。よく見てみると、ほぼ裸で、オレンジ色のふんどしをしているみたいなのだ。


「後ろにいるのだ!」


 アライさんが叫ぶと、弟子の二人は振り返って、口々に師匠師匠と叫び始めたのだ。しかし師匠は反応しなかったのだ。


「大丈夫かよー?!」

「ししょー!死んじゃやだよぉ!」

「どれ、アライさんに診せてみるのだ」


 アライさんは倒れている飛脚の師匠を覗き込んだのだ。息はあるようだが、顔色はあまり良くなかったのだ。アライさんは多分、働き過ぎて倒れたのだと思うのだ。


「おいどうなんだ!?師匠は生きてんのか?」

「多分アライさんのマッサージで元気になるのだ。しばらくそこで見ているのだ」


 アライさんが師匠のケンジを擦ると、みるみる顔色が良くなって目を開けたのだ。

 間髪入れずに師匠は起き上がって話し始めたのだ。


「……?ここは?俺はあのとき……急に意識がなくなって……」

「ししょー!!良かったぁー!」

「心配だったよぉ!」


 よくある感動の再会なのだ。

 一件落着といったところだな。

 アライさんが立ち去ろうとしたら、師匠がアライさんに喋りかけてきたのだ。


「アライさん……が俺を助けてくれたのか?」

「なのだ」


 アライさんが振り返らずに答えると、師匠が続けたのだ。


「そうか……何かお礼をしないとな……。あ、そうだ!超高速飛脚の手紙なんてどうだ?もう一枚さ!フモト村だっけ?俺が届けたるよ」

「さすが師匠ー!」


 弟子は褒め称えたけど、アライさんは真逆の感想を持ったのだ。


「お前ー!どうしてそんなこと言うのだ!お前が倒れたのは!走り過ぎだからなのだ!ちょっとは休んで弟子にやらせろなのだ!手紙もお前が運ぶなら、いらないのだ!せっかく治してやったのにまた倒れたら元も子もないのだ!」


 アライさんは思わず振り返って叫んでしまったのだ。


「弟子にやらせる?そんなことできる訳ないだろう?あいつらはまだ半人前だ。何も出来やしない」

「違う!違う!違うのだ!お前の弟子がなにもできないのは、お前が何もさせないからなのだ!」


 アライさんの言葉に、師匠のケンジはハッとした顔になって言ったのだ。


「……そうだな。確かに俺は何でも自分でやりすぎていたかもしれない」

「そうなのだ。たまには休んだ方がいいのだ」


 こんなにも簡単に師匠を改心させることができるなんて、やはりアライさんの言葉は重みが違うのだ。

 そう思った矢先、師匠のケンジはさっそく言い出したのだ。


「おい弟子ども。俺はアライさんにお礼がしたい。フモト村に手紙を届けに行ってくれ」

「……え?いきなりそんな大仕事ですかあ?フモト村って100里は離れているじゃないですかあ……オイラ達にはまだ無理ですよぉ」


 弟子のケンジたちはまた弱音を吐き始めたのだ。

 しかし師匠のケンジは甘やかさずに、毅然とした態度で言ったのだ。


「黙れ。お前たちならできるはずだ。休み休みでいい。必ずフモト村まで届けるんだ」

「わ、わかりましたぁ……」


 弟子のケンジたちがうなずいたのを見て、師匠のケンジはアライさんに便せんと筆を差し出してきたのだ。

 あ、そうだ。何か書かないといけないのだ。

 でもアライさんは文字が書けないのだ。何を書けばいいのだ?

 とりあえずアライさんが楽しく過ごしていることを伝えないと……

 悩んだ挙句、長屋を背景にアライさんが盗賊のケンジ、フェネックと一緒に笑っている絵をかいてみたのだ。

 よしできた。

 我ながらうまくかけていると思うのだ。ふっふっふ。

 アライさんは絵を便せんに大切にしまうと、師匠のケンジに渡したのだ。


「はいなのだ」

「確かに受け取ったぞ。おいケンジ」


 師匠のケンジが便せんを弟子に渡したのだ。

 でも、弟子のケンジは不安そうな顔をしているのだ。


「初めての大仕事。不安だろうな。だがフモト村の賢者のケンジって人に必ず届けるんだ。あと、道中困ったことがあったらこれを使え。1リョー入ってる。」

「わかりやしたよぉ」

「あと二人で協力すること!わかったなら向かうんだ!ともに速さを求めて!」


 師匠のケンジにはっぱをかけられた弟子たちは、フモト村に向かって小走りで行ったのだ。


「アライさん……少々時間はかかってしまうだろうがすまない。だがあの手紙は必ず届くだろう」

「問題ないのだ。なんかアライさんもすっきりしたし、今夜もよく眠れそうなのだ」

「そうか。ではまた会おう」


 そう言うと師匠のケンジも飛脚屋に向かって駆け出して行ったのだ。

 ふぅ。疲れたしアライさんも長屋に帰るのだ。


 その日、アライさんは夢をみたのだ。フモト村に帰って賢者のケンジに会う夢を。

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