第14話!! 新しいお家なのだ!!
「ふぅ〜、終わったのだあ」
飛脚のケンジに手紙を頼んで3日後。
アライさんはいつものように仕事を終えると、盗賊のケンジ、フェネックといっしょに帰路についていたのだ。
「盗賊のケンジぃ。今日の漬物はたくあんがいいのだ」
「残念だったな。今日はからし蓮根の日だ。ヒゴのケンジからいっぱいもらったからな」
「ふぇ?アライさん辛いのは嫌なのだ!」
「おっとお?文句言うなら食うんじゃねえぜ?」
「くぅ〜!ずるいのだ!」
そんな他愛のない会話をしていたら、突然屈強な人間二人組が現れて、道を塞いできたのだ。
「なんなのだ?!」
アライさんが困惑しているのもつかの間、そいつらは盗賊のケンジに話しかけたのだ。
「旦那ァ、例のモノ完成しましたぜ?」
「見に来て欲しいッス」
そいつらは自分の服で手を拭きながら言ったのだ。
怖い雰囲気がムンムン漂っているのだ。
「分かった今行くぜ」
盗賊のケンジは了承すると、怖い二人に続いて歩き出したのだ。
「ちょ、ちょっと待つのだケンジ!そいつらは何者なのだ!?」
「アライさん。お前も付いて来いよ。ついに完成したんだぜ?」
ケンジはアライさんの質問に答えてくれないのだ。しかもちょっとうれしそうな顔をしていたのだ。こういったときは何か悪いことを考えているのに違いないのだ。
悪い事は絶対許せないのだ!怖いけど盗賊のケンジがやらかそうものならアライさんが止めてやらないとなのだ。
〜〜〜〜
アライさんたちが向かっているのは、どうやらお城の方向みたいなのだ。
お城と言うのはこの町の真ん中にあるとても大きな建物のことなのだ。
お城の周りには大きいおうちがたくさんあって、アライさん達が住んでいる長屋とは雰囲気が全然違うのだ。
この辺りはあまり面白い物がないのだ。それに初めて歩いたときに怖い声で何者か尋ねられたから、アライさんはこのへんに行くのを躊躇しているのだ。
こんなところで盗賊のケンジは何を作ったのだ?
「ついたぜ。ここだ」
ここで盗賊のケンジ達は歩みを止めたのだ。
前を見ると、立派な建物が建っていたのだ。大きな入り口には大きなのれんがかかっていて、そこには三つの文字が書かれているのだ。なんと書いてあるかは分からないけど。
「盗賊のケンジ?なんなのだ?ここは?」
「ここが俺達の新しい家だ。そしてこれからケンジ様のことはうどん屋のケンジと呼べ」
「なにー!?」
アライさんは驚かずにはいられなかったのだ。盗賊のケンジはアライさんに黙って家を建てていたのか?そしてうどん?ってなんなのだ?
「旦那ぁ。中に入ってくだせえ」
「今行くぜ」
質問しようと思ったときにはすでにケンジは建物の中に入ってしまったのだ。アライさんも一人でこのあたりに居たくないから入ることにしたのだ。
「うわぁー広いのだー!」
外からみても大きかったけど、中から見てもとっても広いお家だったのだ。座敷には座布団や机が数えきれないくらいあったし、入り口からも見える厨房には調理用具がずらりと並んでいて、ここもまたとても広かったのだ。
アライさんが辺りを見渡している間にも、盗賊のケンジは怖そうな二人と熱心に話していたのだ。
「階段の下には収納をつけておいたッス」
「ほぅすごいな」
「そしてここの板を取り外すと、収納がでてきますぜ」
「なるほどすごいな」
「さらにその板をこの台に置くことで、収納として使えるッスよ!」
「すごいなぁ」
あの二人組どれだけ収納に飢えているのだ?まあそれはいいとして、アライさんは二階が気になるから上に上がってみるのだ。
階段を上った先には部屋を仕切るふすまがいくつかあったから、アライさんはそのうちの一つを開けてみたのだ。そこには真新しい畳が6つほど敷かれた部屋があったのだ。ここもなかなか綺麗な部屋なのだ。
アライさんは新しい畳が結構好きだから、誘惑に負けて思わずそこに寝転んでしまったのだ。
「素晴らしい寝心地なのだ〜」
新品の畳は硬いけど、その硬さがちょうど良く疲れをとってくれる気がするのだ。さらに言えばこの芳ばしい香り。これはアライさんを落ち着かせてくれるのだ。やはり新品はいいものなのだ。
そう思いながらうとうとしてたら、下から盗賊のケンジの声がしてきたのだ。
「おいアライさん!降りてこい!」
「ふぇ?」
どうやら盗賊のケンジは家を建ててもフレンズ使いが荒いままのようなのだ。やれやれなのだ。
「嫌なのだ!アライさんはここでしばらくごろごろしてたいのだ!」
アライさんは下に聞こえるような音量で言ったのだ。
間髪入れずに返事が飛んできたのだ。
「今からうどんを作るぞー!」
……何い!?うどん!?気になるから行かないとなのだ!
アライさんがぱたぱたと階段を駆け降りると、盗賊のケンジが厨房で待っていたのだ。周りを見渡しても屈強な二人組はいなかったのだ。どうやらもう帰ったみたいなのだ。フェネックも見当たらないのだ。つまりこの広いお家には今二人しかいないのだ。それはともかくうどんなのだ。
「うどん……ってなんなのだ?」
「ふっ、ケンジ様が今から作る超美味い食べ物さ。お前も作り方覚えとけよ」
そう言うと盗賊のケンジは取っ手のついた石の塊をぐるぐると回し始めたのだ。なんだか目が回るのだ。
アライさんがその様子をじっと眺めていると、石の側面から白い粉がぽろぽろと落ちているのに気づいたのだ。なんなのだこれは?アライさんが尋ねる前にケンジが説明を始めたのだ
「お、これが何か知りたいようだな。これは石臼と言って穀物を粉にするための道具だ。そして横から出てくる白い粉が、小麦粉だ。」
「こむぎこ?」
「そうだ。これを集めてタライに入れる」
むっ。このタライはアライさんがこの町に来たとき頭に落っこちてきたやつなのだ。まさかここで使われるとは思わなかったのだ。
ケンジはタライのなかに小麦粉をまんべんなく敷くと、ひしゃくを取り出して透明な液体を回し入れたのだ。
「何を入れたのだ?」
「海水を薄めたものだぜ」
盗賊のケンジはそう言うと中の粉を手際よく混ぜ始めたのだ。すると粉同士がくっついて、ぼろぼろとした塊になっていったのだ。
それに構わずケンジはこね続けたのだ。
しばらく見ていると、ぼろぼろの塊がくっついてひとつの丸いお団子になっていったのだ。
「アライさんもこねるのだ!」
「『こねる』ではなく、『打つ』だぜ?アライさん」
「アライさんも打つのだ!」
アライさんもケンジの真似をして、団子を叩いたり伸ばしたりしてみたけど、これがどうもうまくいかないのだ。伸ばすと簡単にちぎれてしまうし、なにより重たくてぐねぐね形が変わっちゃうからひっくり返すのも一苦労なのだ。
「どれ、ちょっと貸してみろ」
それを察したのか分からないけど、盗賊のケンジは粉が入ったタライを床に置いたのだ。
「何をするのだ?」
「靴を脱ぐんだ。アライさん」
靴を脱げだなんて、コイツ召使のケンジと同じことを言うな。あ、そういえば先月治したマゾのケンジも同じこと言ってたのだ……ん?彼は『履いたままで』、だっけ?
まあアライさんは優しいから、そういったことは特に気にしないのだ。素直に従っておくのだ。
「脱いだのだ」
「そのままうどんを踏め」
「ふぇ!?嫌なのだ!」
盗賊のケンジはなんて罰当たりなことを言うのだ!
食べ物を踏むなんて許されざる行為なのだ!
「いいから踏めよ!」
「わあ!」
アライさんは体を持ち上げられてそのままタライの中に入れられたのだ。
踏み入れた瞬間、足の指の隙間からうどんの生地がニュルッとでてきたのだ。うへぇ、なんか嫌な感じがするのだ。やっぱり食べ物を踏むのは罪悪感がすごいのだ。アライさんは今絶対しかめっ面をしていると思うのだ。
「その場足踏み始め!」
くぅ……やっぱりコイツはフレンズ使いが荒いのだ。しかし一度踏んでしまった以上やらないのはうどんさんが可哀想なのだ。
グニグニ グニグニ
足元がやっぱり気持ち悪かったけど、やっているうちに楽しくなってきたのだ。気づけばかなり長い時間足踏みをしていたようなのだ。
だが本当にこれでこねられているのか?
「よし、もういいだろう。出ていいぞ。アライさん」
「分かったのだ」
アライさんが出ると固い土に着地したのだ。やはり地面は固いほうがいいのだ。
「それで、この次はどうするのだ?」
「二時間ほど寝かせる」
「何!?このうどんは起きているのか!?」
「放っておくという意味だ!」
放っておく……ってふぇえ!?つまり、二時間も待っていろということなのか?アライさんは忙しいのだ!そんな暇はないのだ!
「フッ、そんな顔をすると思っていたぜ……?だが!できたものがこちらにあるぜ!」
「ぬう……!それも納得いかないのだ……!」
ケンジはなぜか隠していたふたつ目のタライからうどんの塊を取り出して調理台に置くと、木でできた細長い円柱の棒で塊を伸ばしだしたのだ。
するとうどんの塊はみるみるうちに薄く広がっていって、一枚の布のようになったのだ。ケンジは手際良くそれを折りたたむと、今度は触り心地が良さそうな板を上に乗せて、端の方から幅が広い包丁でトントンと切っていったのだ。
「おお……ずいぶん細長く切るのだな」
「うどんだからな。ほら」
ケンジはそう言って切ったうどんの一つを持ち上げたのだ。折りたたまれていたうどんは重力に従ってぐわんぐわんとたわみながら広がって、一本のひもになったのだ。
「すごいのだ!」
「だろ〜?次はこれを茹でるんだぜ」
ケンジがかまどの方へ移動したからアライさんも付いていったのだ。そこではすでに大きな鍋が火の上でぐつぐつと煮立っていたのだ!
「一気に投入するぜ!せいやあああ!」
さっき切ったうどんは一本残らず鍋の中に入ったのだ。
鍋の中でうどんが元気よく動き回ってて、とっても楽しそうなのだ。アライさんが眺めていると、ケンジは菜箸を取り出して、うどんを掬い始めたのだ。
そしてそのまま予め用意されていた3つのどんぶりに均等に入れたのだ。
「そして仕上げに、これを入れるぜ」
ケンジが自慢気に掲げたのは茶色い正方形のなぞの物体だったのだ。
「これは『あぶらげ』だ。豆腐を薄く切って揚げたものだ。アライさんが寝ている間にたくさん作っておいたんだぜ」
そう言ってケンジはあぶらげを一枚ずつ丼ぶりの上に乗せたのだ。
「ケンジ様特製きつねうどん!完成だ!さあ飯にしようぜ!」
「やったー!」
アライさんは最寄りの机にきつねうどんを運んだのだ。ちょうどそのとき、フェネックがのれんから顔を出して中に入ってきたのだ。
みると、大分お疲れのようなのだ。
「お!フェネック!丁度いいタイミングで帰ってきたな!どうだ?チラシは配り終わったか?」
フェネックは頷いたのだ。その後机にきつねうどんがおいてあることに気づくと、急いで席に座ったのだ。
「そんなにがっつかなくてもうどんは逃げないぜ?」
フェネックは聞いているのかいないのか、丼ぶりの中のあぶらげを見つめているのだ。早くいただきますをしないとフェネックが可哀想なのだ。
「盗賊のケンジ!早く食べるのだ!」
「そうだな。全員揃ったことだし食うか」
アライさんたちはいただきますを言って、うどんをすすり始めたのだ。
……!これは!めちゃウマなのだ!汁が絡みついた麺はスルスルと口の中に吸い込まれていくのだ。一方でその麺は一度噛めばモチモチしっかり歯ごたえがあるのだ。
最初はちょっと塩辛いなと思ったけど、麺を噛めば噛むほど唾液が出てくるから中和されるし、なぜか分からないけど甘くなっていく気がするのだ!味の変化が楽しい食感とともに訪れる、おいしさのテーマパークなのだー!
「ケンジ!おかわりを寄越すのだ!」
気づけばアライさんの丼ぶりは空になっていたのだ。
アライさんの隣のフェネックも完食していたのだ。そしてフェネックはこれまで見たこともないくらい満足そうな顔をしていたのだ。
「フェネック。うまいか?」
ケンジの問いかけに、フェネックは嬉しそうにうなずいたのだ。
「そいつは良かった。お前のために、ここまでやったかいがあったぜ」
フェネックは口を動かして何かを訴えようとしたのだ。声はやっぱり出ないようなのだ。
でも何を言わんとしているのかは分かるのだ。
「感謝しているのだな。フェネック!」
それはさておき、多分フェネックももう一杯欲しいと思ってるはずなのだ。
「盗賊のケンジ!一緒にもう一玉茹でるのだ!」
「はいはい。分かったよ」
〜〜〜〜
二杯目はアライさんが丹精込めて打ったうどんなのだ。これは絶対美味しいに決まっているのだ!
「な、おいしいだろ?フェネック!」
「まだ食べてねえだろ」
アライさんはフェネックの丼ぶりにおかわりを入れると、フェネックはすぐさま食べてくれたのだ。
「…………!!!!」
アライさんのうどんを口に入れた瞬間、フェネックがかたかたと震えだしたのだ!どうしたのだ!?
「!!!!」
やはり様子がおかしいのだ。フェネックはお箸をおいて、うつむいたのだ。アライさんが顔を覗き込むと、チラシ配りで疲れきっていたさきほどまでの顔とは打って変わって、血色よい元気な顔になっていることが分かったのだ。
「これは……まさか……!!」
盗賊のケンジはそう言いつつ自分の分のうどんをかき込んだのだ。ケンジもカタカタと震えたかと思えば、急に叫び声を上げたのだ。
「うおおおおお!!!!」
「な、なんなのだ?!」
急な大声にアライさんは 本当にびっくりしてしまったのだ。盗賊のケンジはいつもうるさいのだけど、今日は一段とうるさいのだ。
「疲れが、吹き飛ぶ!力が……みなぎる!アライさん!お前の回復の術は作ったうどんにもかけられるみたいだぜ!」
何!?アライさんのマジカルウォーターハンドにはそんな力もあるのか!こうしちゃいられないのだ。アライさんがいつもやっていることを自分でも体験するチャンスなのだ!アライさんもこのうどんを食べるのだ!
アライさんは大急ぎでうどんを食べたのだ。うん!美味しいのだ!自分が苦労して作ったものは格別なのだ!でもそんなに疲労回復の効果があるとは思えないのだ。
その様子を不思議に思ったのか盗賊のケンジが言ってきたのだ。
「お前の術……自分には効果がないみたいだな……」
そうなのか。まあアライさんは別にいいのだ。アライさんはいつも元気だから、効かなくても全く問題ないのだ。
「それよりもケンジ。アライさんがうどんを打てばもっともっと大勢の人を元気にできるはずなのだ!アライさんにもうどん屋をやらせて欲しいのだ!」
「ああ、いいぜ!」
こうしてアライさんたちのうどん屋での生活が始まったのだ!
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