第11話!! 誘拐されたのだ!!





「うめぇなあ~この飯は!!何杯でもいけちゃうな!」

「ほほほほ、おかわりはいくらでもあるわよ」

「お!じゃあいただいちゃおうかな。それでその名刀コシヒカリを打った鍛冶職人は……」


 なんでコイツは来てそうそうこんなになじんでいるのだ!

 コイツはアライさんの大事なものを盗ろうとした泥棒なんだぞ!

 アライさんは賢者のケンジに抗議の意思を示したのだ。


「アライさん。そんなにムキにならないで楽しみましょうよ。彼の話、とっても興味深いですよ」

「ぜんっぜん面白かないのだ!何が楽しいのだ!」


 剣士のケンジは刃物の話ばっかりでアライさんは意味分からないのだ。大体刃物なんて切れればなんだっていいはずだし、だいいち危ないのだ。


「そうはいってもこんな話を聞く機会なんてめったにありませんよ?僕たちの村では数少ない娯楽の一つなんです」


 はぁ?娯楽?

 泥棒をするようなどうしようもない人間を家に泊めて、つまらない話に相槌を打つことのどこが娯楽なのだ!

 そんな話を聞くより自分の足であちこち行く方が楽しいのだ。アライさんはいろんなちほーまで行っていろんな場所を見るのが大好きだから、賢者のケンジの言うことは納得できかねるのだ!


「もういいのだ!!アライさんはもう寝るのだ!今日はアライさん一人で寝るからケンジはケンジと一緒に寝ればいいのだ!」

「あ、アライさん……」


 アライさんは居間の隅に置いておいた大事な棒を持つとふすまを開けたのだ。


「おやすみなのだ!」


 そしてアライさんはふすまを勢いよく閉めたのだ。

 バンって大きな音がしたけどそんなことはどうでもいいのだ。アライさんは今とっても気分が悪いのだ。



 ~~~~



「うぅ……剣士のケンジは悪いやつなのに、なんでみんな優しくするのだ?」


 あったかい布団の中に入ったアライさんは、つい独り言を言ってしまったのだ。


 アライさんはみんなの病気とかケガを治しているし、みんなからチヤホヤされているのだ。間違いなくアライさんはこの村で一番の人気者なのだ。それなのに賢者のケンジは、アライさんよりも剣士のケンジの肩をもつのだ。なんでなのだ?山に登ったことがそんなに偉いことなのか?刃物に詳しいのが偉いことなのか?そんなはずはないのだ。村のみんなを元気にしたアライさんの方が絶対絶対偉いはずなのだ。

 ……もしかして、村から病気がなくなったから、アライさんが必要なくなったのか?アライさんはもう、いらない子なのか?


「そ、そんなはずはないのだ」


 アライさんは枕元に置いてある棒を確認すると、掛け布団を頭まで被ったのだ。


 ――でも、本当に必要なくなったとしたら……?


 耳をすませば、居間から賢者のケンジが剣士のケンジと楽しそうに話しているのが聞こえるのだ。

 何を話しているのか分からないけど、時おり笑い声も聞こえるのだ。あんなに大きな笑い声は、いままで聞いたことがないのだ。

 賢者のケンジはアライさんといるより、あいつといる方が楽しいのか……?


「まあ、別にいいのだ」


 いいはずなのだ。だって賢者のケンジ以外にもアライさんのことが好きなケンジはごまんといるのだ。ひとり欠けたところで変わらないのだ。

 でも何なのだこのもやもやは……



「おい、お前がアライさんか?」

「ふぇ?」


 不意に、知らない声がしたのだ。

 誰の声なのだ?賢者のケンジでも剣士のケンジの声でもない、とっても悪そうな声なのだ。

 アライさんは怖くなってしまって、掛け布団から出られなかったのだ。


「イエスかはいで答えた方がいいぜ」


 声の主は続けて言うと、アライさんの布団を剥ぎ取ろうとしてきたのだ。


「や、やめるのだ」


 アライさんは必死で布団のフチを押さえたけど、そいつの力はアライさんよりも強くて、ついに布団を奪われてしまったのだ。

 アライさんは急いで起き上がってそいつの正体を見ようとしたけど、暗くて全く見えなかったのだ。でも向こうはアライさんの姿がしっかり見えているみたいで、アライさんに飛びついてきたのだ。


「ぎゃあ!離すのだあ!」

「やはりアライさんだな。大声を出すな」


 アライさんは口の中に布を入れられたのだ。これでアライさんは喋れなくなったのだ。

 なんかちょっと変な臭いもして、苦しかったのだ。

 助けて欲しいと思ったけど、賢者のケンジたちはまだ居間で楽しそうにしているのが聞こえるのだ。アライさんがこんなに苦しい目に遭っているのに、なんでそんなに呑気にしているのだ?!


「さて、簀巻にするぜ」


 そいつはアライさんをひょいっと持ち上げると、敷布団の上に持っていって、アライさんを布団でぐるぐるまきにしたのだ。

 こうなってしまってはアライさんは腕一本動かせないのだ。


「よいしょ」


 そいつは掛け声を上げると、布団ごとアライさんを担いで、移動をはじめたのだ。

 アライさんは全く動けないし、叫ぶこともできなかったからなすがままだったのだ。


 かくしてアライさんはフモト村から連れ去られてしまったのだ。




 〜〜〜〜




「おい、起きろ」

「う……うぅ……?」


 はっ、アライさんはいつの間にか寝てしまっていたみたいなのだ。

 そしてまだあの声がするということは、どうやら昨日のアレは夢ではなかったみたいなのだ。今は簀巻は解かれていて、粗末なわらの上にうつ伏せで倒れているのだ。見たところしばられているところはなくて、自由に動けるみたいなのだ。

 とはいえ変な格好で寝てたようだから体のあちこちが痛いのだ。


「起きろと言っているだろ!ケンジ様のいうことが聞けないのか!」

「うるさいのだ!起きてるのだ!」


 アライさんは起き上がってそいつに口答えしたのだ。ここでアライさんは初めてそいつの姿をみたのだ。浅黒い肌に濃ゆい青紫色のローブを着ていたのだ。背が低くて、かなりのつり目なのだ。そして何故か自信たっぷりの表情でこっちを見てくるのだ。

 ……どこかで見たことがある気がするのはたぶん気のせいなのだ。

 しかしコイツは何なのだ?新しいケンジであることは間違いなさそうだが、自分のことを『ケンジ様』とか言ってるのだ。自分のことを名前で呼んで、あまつさえ敬称をつけているなんて、いかにも小物の悪役らしいのだ。どうせコイツは大したやつじゃないのだ。という訳で大声を上げて言ってやったのだ。


「お前は何なのだ!アライさんをどうするつもりなのだ!」

「フン!聞いて驚け!俺様は盗賊のケンジ!この世界イチの人気者になる男だ!」


 人気者?

 人気者を目指すやつがアライさんをわざわざ連れ去ったのか?そんなの人気者のすることじゃないのだ!


「お前!そんなんじゃ人気者にはなれないぞ!アライさんでも分かるのだ!」

「うるさい!ケンジ様は人気者になるんだ!そのためにお前を利用させてもらう!」


 ……どういうことなのだ?アライさんを使えば人気者になれるって。

 あ!もしかして、アライさんのフレンズの技が目当てなのか?


「察しがついたようだな。その通りだ。お前の術で城下町のみんなを元気にしてもらう。このケンジ様の下で働くんだ」


 なんて自分勝手なやつなのだ!こんなやつの下で働くなんて冗談じゃないのだ!アライさんは自由に生きるのだー!

 アライさんが逃げようとしたら盗賊のケンジが何か叫びだしたのだ。


「洗水の術!」

「ぎゃっ」


 次の瞬間、床がツルツルすべるようになって、アライさんは転んでしまったのだ。

 起き上がろうとしても、滑ってしまってうまく立てないのだ。

 何度も転んでしまうアライさんを見て、盗賊のケンジはうまくいったぜとか言いながら笑ったのだ。全く腹が立つやつなのだ。アライさんはそいつをにらみつけながら言ったのだ。


「お前〜!こんなことをするようじゃ、人気者どころか誰も味方になってくれないぞ!」

「いーや、お前が協力してくれれば人気者は間違い無しだぜ!それにケンジ様の味方なら、いるぜ」


 盗賊のケンジが後ろを振り返ったのだ。

 アライさんもその方へ目を凝らすと、確かにもう一人いたのだ。

 遠くにいてよく分からないけど、ピンク色の服を着ているのは分かるのだ。また新しいケンジなのか?でも、今回のやつは頭に大きな飾りが付いているみたいなのだ。遠くてよく分からないけど。

 アライさんが不思議そうな顔をしていることに気づいたのか、盗賊のケンジが言ったのだ。


「あいつはフェネックだ。どうした?知り合いなのか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る