第15話!! 大繁盛なのだ!!




 うどん屋の開業初日、アライさんたちは仕込みを終えて待っていると、ほどなくしてお客さんが入ってきたのだ。


「あのお?やってますかあ?」


 初めてのお客さんにアライさんもケンジも少し驚いたけど、しっかり対応しなくちゃなのだ。


「や、やってますなのだ!こちらにお座り下さいなのだ!」

「ありがとですー」


 アライさんはとりあえず目の前にあった席に座らせたのだ。その間にケンジはうどんの準備をしはじめたのだ。

 アライさんはうどんができるまでの間なにをしたらいいのか分からなくてもじもじしていたけど、そのうちケンジが丼ぶりをカウンターに置いて言ったのだ。


「アライさん!あの人のところへ持っていくんだ」

「ハイなのだ!」


 アライさんは盗賊のケンジからうどんを受け取ると指示された机に持って行ったのだ。


「おまたせしましたのだ。これはアライさんが打ったアライ薬膳なのだ。残さず食べるのだ」

「ありがとですー」


 そう言うやいなや、目の前にいた黒い服を着たやつはズルズルと麺をすすり始めたのだ。


「……!これは!美味しいですう!箸が止まりませえん!」


 そいつはあっという間に平らげると、感想を言いはじめたのだ。


「ふぅ!美味しかったですー。美食家のケンジちゃんもこんなおいしいうどん食べたことありませんでしたー!体がとっても軽くなった気がしますー!空も飛べそうですー!」


 お褒めにお預かり光栄なのだ!やっぱりアライさんが打ったうどんは最高なのだな!

 美食家のケンジは続けたのだ。


「このお店素晴らしいですねー。番付表に載せてもいいですかー?お客さんもっとあつまりますよー!」

「もちろんいいぜ!大歓迎だ!」

「ありがとですー」


 ばんづけひょー?よくわからないけど、すごそうなのだ!


「じゃあごちそうさまでしたー。次の料理が待ってるですー」


 美食家のケンジはそう言うと、とっとと店を出て行ったのだ。美食家のケンジはお客さんがたくさん集まると言っていたけど、その日の午前中は誰もお客さんは来なかったのだ。



 〜〜〜〜



 しかし午後になると状況は一変。大量のお客さんがお店になだれ込んできたのだ。


「番付表の店ってここか?」

「元気になるって本当なのかな」


 あっという間に席は満席になって、お店の外は行列ができたのだ。そうなるとお店は大忙し!たくさん食べる客たちにケンジはどんどんうどんを茹でて、アライさんとフェネックは二人でお店を走り回って、お客さんにうどんを届け続けたのだ。


「うおお!!本当に元気になるのです!」

「これはとんでもない料理なのです!!おかわりをよこすのです!」


 茶色と白のゴツめの客は美味しそうに食べていたけど、アライさんたちはそんなことにかまっている暇はないのだ。うどんを運ばなきゃなのだ!

 アライさんたちは身を粉にして働いたのだ。正直とっても疲れたけど、みんなが元気になったのでとてもやりがいを感じたのだ。そのうちアライさんはマッサージをするよりもうどんを食べてもらったほうがいいのかなと思いはじめたのだ。

 休む間もなく働くうちに、行列はだんだん短くなっていって、席にも空きが出始めて、ついにお客さんはいなくなったのだ。どうやらピークは過ぎたみたいなのだ。


「ふぅ……疲れたのだ……」

「よく頑張ったな、アライさん。フェネックも」


 アライさんはひと仕事終えて眠くなったのだ。ちょっと2階で一休みしようとしたとき、またお客さんが入ってきたのだ。


「あの……やっていますか?」


 そのお客さんはさっきまでのお客さんみたいに低い声ではなくて、鈴の音のようにきれいな高めの声だったのだ。


「やってますぜ!何にしましょう?」

「きつねうどんを1つ下さい」

「かしこまりました!少々お待ちを!」


 みると、そいつは清潔な白い服を着ていたのだ。他の奴らは何ヶ月も洗濯をしていないような服をしていたから、目に眩しいのだ。

 さらに言えば、黒いメガネを掛けて大きな帽子を被っていて、まるで誰かから隠れているような感じだったのだ。なんだかこの街の雰囲気から一人だけ浮いているような気がするのだ。一体コイツは何者なのだ?

 不思議そうな顔で見られていることに気づいたのか、そいつはアライさんにニコリと笑いかけてきたのだ。


「アライグマ……がんばってますね」


 ふぇ!?なんでコイツはアライさんを知っているのだ!?アライさんはコイツのこと知らないのに。

 ……ああ。人気者になったからか!アライさんは人気者だから、名が知られていて当然かもしれないのだ。きっとそうに違いないのだ。

 そう思ったアライさんは気分が良くなったけど、やっぱり眠いから休憩しに行くのだ。配膳はしばらくフェネックに任せるのだ。

 アライさんは2階に上ったのだ。



 〜〜〜〜



 …………眠れないのだ。

 ちょっと横になってみたけど、なんかすごく嫌な感じがして寝ようにも寝付けなかったのだ。こういったときはだいたい悪いことが起こるのだ。

 ふと窓の外をみると、さっきの白い服のお客さんがフェネックと話し込んでいたのだ。

 ……ん?

 フェネックと話すことなんてあるか?あってもフェネックは喋れないのではないか?良くないことだとは分かっていたけど、アライさんは聞き耳を立ててみたのだ。


「フェネック、久しぶりですね。存在を封印した張本人が言うのもなんですが、私、あなたのことすっかり忘れていました。申し訳ありません」

「…………」

「相変わらず、しゃべれないのですか?どうやってあそこから抜け出たのか知りたいのですけど」

「…………」

「……まあいいです。遅ればせながら、あなたもこの世界に相応しい姿に変えて差し上げますね。きつねうどん、美味しかったです」


 そう言うと白いやつはフェネックの頭に手をおいたのだ。次の瞬間、二人の姿はまぶしい光に飲み込まれていったのだ。

 こ、これは大変なことが起こっている気がするのだ!早く助けに行かないと!

 アライさんが一階に駆け下りると、盗賊のケンジが皿洗いをしていたのだ。


「おいアライさん起きたのか!皿洗い手伝えよ!」

「そんなことしているヒマないのだ!」


 アライさんはそう言い捨てて外に出たのだ。でもさっきまでいたはずのフェネックと白い客はいなかったのだ。


「フェネック!どこにいったのだ!?」


 閑静な町中でアライさんの大声はよく響くのだ。でも返事はなかったのだ。


「おーい!フェネック!」


 窓から見えた場所に行っても、フェネックの姿はなかったのだ。


「フェネック……」


 一体どこに消えてしまったのだ……アライさんは途方に暮れて辺りを見渡してみたのだ。すると、道端に動くものを見つけたのだ。

 よく見ると、それは、ヒトのようなのだ。


「おいお前!大丈夫か!」


 アライさんが駆け寄って問うと、そのヒトはゆっくりと起き上がってうなずいたのだ。


「無事なのか!良かったのだ!あ、そうだお前、フェネックを知らないか?さっきまでここにいたはずなのだ」


 でもフェネックと言われてもよく分からないかもしれないのだ。ちゃんと説明しなくちゃなのだ。


「フェネックと言うのはな、お耳がでっかくって、いつも眠そうな目をしていて、線が細くって、ピンクの服を着ているフレンズなのだ。見なかったか?」

「…………」


 目の前のやつは答えなかったのだ。何も言わず、キョトンとした目でこっちを見つめてくるのだ。態度の悪いやつなのだ。


「もういいのだ!他を当たるのだ!……って、んん?」


 アライさんはそいつの出で立ちをよく見てみたのだ。目の前のやつはお耳が大きめで、眠たそうな目をしていて、ピンクの着物を着ていたのだ。けっこう体格がいいのにピンクが似合うのは、ちょっとハンサムだからか?いや、そんなことどうでもいいのだ。ともかくこいつ、なんとなくフェネックに似ているのだ。


「もしかしてお前、フェネックのお兄ちゃんなのか?」


 アライさんがこう思ったのは、ヒゴのケンジとその弟のケンジの顔とか雰囲気が似ていたからなのだ。こいつもそういう理由で似ていると思ったのだ。だから聞いてみたのだけど、目の前の奴は首を横に振ったのだ。


「違うのか……?じゃあフェネックの双子の兄なのか?」


 アライさんがこう思ったのは、フモトのケンジのところにいた双子、ケンジAとケンジBの顔とか雰囲気が似ていたからなのだ。こいつもそういう理由で似ていると思ったのだ。だから聞いてみたのだが、目の前の奴は首を横に振ったのだ。


「じゃあお前はフェネックのなんなのだ!!」

「…………」


 そいつは答えなかったのだ。他人の空似ということなのか……?しかしそんな気はしないのだ。こいつなんか知っている気がするから、別のことも聞いてみるのだ。


「うーん……じゃあ白い服を着たやつを見なかったか?大きい帽子を被ったやつなのだ」


 アライさんがこう尋ねたら、フェネックに似た奴は難しい顔をして考え始めたのだ。彼はしばらく考えたあと、思い出したような顔をすると、ゆっくりと人差し指を空に向けたのだ。


「……上?上に行ったのか?」


 フェネックに似た奴はコクリと頷くのだ。

 上……上……?お城のてっぺんのことか?あそこはこの町で一番上にあるのだ。

 フェネックに似た奴に聞こうとしたとき、急に盗賊のケンジが現れたのだ。


「コラ!アライさん!寡黙のケンジ!サボってないで手伝え!」


 盗賊のケンジはアライさんとフェネックに似た奴をポカリとぶったのだ。うぅ……痛いのだ!でもそれよりも!


「店に戻るぞ!二人共!」

「ちょっと待つのだ盗賊のケンジ!かもくのケンジって誰なのだ?!」

「はあ!?お前の隣にいるだろ?」


 となりって、この、フェネックに似た奴のことか?


「ふぇ……どういうことなのだ?盗賊のケンジとこいつは知り合いなのか?」


 盗賊のケンジは呆れ顔で答えたのだ。


「しっかりしろよアライさん……寡黙のケンジとはもう何ヶ月も一緒に住んでいるだろ?」

「住んでる?……こいつと?アライさんは知らないのだ!一緒に住んでいたのはフェネックなのだ!」


 アライさんの反応を見て、盗賊のケンジは急に心配した顔に変わったのだ。


「フェネックって……誰だ?アライさんおかしくなったのか?」

「違うのだ!アライさんはおかしくなってないのだ!おかしいのはケンジ達なのだあ!」


 盗賊のケンジは優しいトーンで続けるのだ。


「……お前働き過ぎで疲れてるだろ?今日は手伝わなくても良いからもう休め。店はケンジ様と寡黙のケンジで回すから」

「疲れてないのだ!アライさんどこもおかしくないのだ!寡黙のケンジなんて今までいなかったのだ!新キャラなのだあ!」

「分かった分かった。もう寝なよ」


 アライさんはそのまま寝室に連行され、布団に寝かされたのだ。

 アライさんはその中で考えてみるのだ。


 白い客が手を光らせた後、フェネックはいなくなり、寡黙のケンジが現れたのだ。……白い客は何か知っているに違いないなのだ。そして寡黙のケンジによると、白い客はお城のてっぺんにいるというのだ。

 つまりアライさんがやるべきことはただ一つ、お城のてっぺんに行って白い客からフェネックの居場所を聞き出すことなのだ!

 早くしないとフェネックの危機なのだ!


 アライさんは布団を抜けだして、窓を通って部屋から脱出したのだ。

 空をみると、まだ夕方になっていないのだ。今日中にお城のてっぺんに行くのだ!

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