第4話!! 死んでしまったのだ!




 アライさんがじゃぱりまんを食べられなくなってからもう三日たったのだ。

 もうそろそろお腹も気力も限界だけど、やっととしょかんに着いたのだ。

 それもこれもアライさんをいつも励ましてくれたボスのおかげなのだ。

 だからとしょかんに入る前に、ボスと話すことにしたのだ。


「ボス、ついにたどり着いたのだ。そのじゃぱりまんも、ハカセに聞けば食べられるようになるはずなのだ。」

『おつかれさま、あらいさん。ふたりでのたび、たのしかったよ』

「ふふふ、ありがとうなのだ」


 ボスはいつものようにアライさんにじゃぱりまんを差し出しながら言ったのだ。


「なあボス?アライさんはボスのことが大好きなのだ。だからこの旅が終わってじゃぱりまんが食べられるようになっても、ずっとずっと一緒にいてほしいのだ」


 ボスはこちらを見ずに答えるのだ。


『あたりまえだよ、ぼくもあらいさんのことがだいすきさ』

「うぅ......ボスぅ......」

『こんどはかふぇにいこうね。おいしいこうちゃがあるみたいだからね』

「もちろんなのだ!」

『あのがけをのぼるのはたいへんだからきをつけようね』

「わかっているのだ!でも、ボスと一緒ならなんだってできる気がするのだ!」


 アライさんがボスと話していると、突然としょかんの奥から声がしたのだ。


「さっきからぶつぶつとうるさいのです!なんですか騒々しい!」


 入り口まで届くその声はハカセのものなのだ。

 アライさんはちょっとびっくりして、慌ててとしょかんのなかに入ったのだ。

 そしてハカセに聞こえるように残りの気力で言ったのだ。


「は、ハカセ!アライさんなのだ!!」

「アライグマですか。なんの用ですか?」


 ハカセはアライさんの目の前まで飛んできてくれたのだ。

 ハカセはアライさんを見ると、すぐに状況を把握してくれたのだ。


「おや、アライグマ。頬がこけているのです。ちゃんと食べないとだめですよ」

「そうはいっても、カクカクしかじかで、じゃぱりまんが食べられなくなってしまったのだ」


 アライさんは今までの出来事を洗いざらい話したのだ。

 じゃぱりまんを食べようとすると、踏みつけられたじゃぱりまんやカラカルを思い出してしまって気分が悪くなってしまうことを説明すると、ハカセは思い当たる節を見つけたのか、しんみょうな顔で話始めたのだ。


「それはおそらく、PTSD(心理的外傷)によるものなのです。アライグマは踏みつけられたじゃぱりまんを見て強いストレスを受けたのです。それでじゃぱりまんを見るたびにそれを思い出すようになってしまったと考えられます」


 ぴーてぃーえすでぃー?何なのだそれは?アライさんはハカセに質問したけど、難しい話をされるばっかりでよくわからなかったのだ。こういったときは、解決方法を直接聞くのが最善なのだ。


「解決方法、ですか。そうですねぇ」


 ハカセは少し考えこんでいるのだ。邪魔しちゃ悪いと思って黙っていると、ハカセはにんまりした顔で言ってきたのだ。


「カレー療法。というものがあるのです」


 かれーりょうほう?全く聞いたことがないのだ。一体何をするものなのだ?

 アライさんはハカセに聞いたのだ。


「アライグマはじゃぱりまんを見るとストレスを感じる体になってしまったのです。したがってじゃぱりまん以外のものは食べることができると考えられます。カレー療法というのはカレーを食べることによって食べ物に対する恐怖心を和らげる効果を期待した、画期的な治療方法なのです」

「ハカセ。それは素晴らしい。ぜひ実行するのです。いますぐに」


 いつの間にか助手がやってきてハカセに賛同していたのだ。


「わかったのだ!カレー療法とやらを受けて、頑張って治すのだ!」

『そのいきだよ』


 アライさんは両手をグーにして意気込んだのだ。


「少し待っているのです。いま料理人を呼ぶのです」



 ~~~~



 アライさんが木陰でしばらく待っていると、黄色い大きな乗り物に乗ってフレンズがやってきたのだ。

 なんなのだあの乗り物は?

 アライさんは聞こうとしたけど、乗り物から降りたフレンズを見てそれどころじゃなくなってしまったのだ。


「かばんちゃん気を付けて降りてね」

「大丈夫だよ、サーバルちゃん」


 なんと降りてきたやつらはしんりんちほーで一回会った、所かまわずイチャイチャする、アライさんをイライラさせるあいつらだったのだ。

 そいつらはアライさんには目もくれず、すぐにハカセのところに行って話を始めたのだ。アライさんも聞きたいのだ。ハカセのところに行くのだ。

 アライさんは近くまで行って聞き耳をたてたのだ。


「つまりかばん!アライグマを助けるためにはカレーが絶対に必要なのです」

「なるべくたくさん作るのですよ」

「ハハハ…わかりました」


 かばんさんは愛想笑いを返していたのだ。

 それに対して黄色い奴は


「あんなにひどい子を助けるなんて、かばんちゃんはやさしいんだね」


 とか言っているのだ。


 どうやらあいつの中ではアライさんは悪者みたいなのだ。

 なんか胸がむかついてくるのだ。

 でも、かばんさんはカレーなるものを作ってくれるらしいのだ。アライさんを助けてくれるなら感謝しないとダメなのだ。


『あらいさんはえらいね』


 へへへ、ボスに褒められたのだ。うれしいのだ。


 〜〜〜〜


「では、カレー作りを始めたいと思います」

「私も手伝うよ!」


 どうやらかばんさんはもう取り掛かるみたいなのだ。黄色いのは手伝うらしいのだ。

 アライさんも何か手伝いたいと思ったけど、お腹がすいて動けないのだ、ここは待っているのだ。


 かくしてかばんさんは料理をはじめたのだ。

 黄色いのは野菜を切ったり、お水を運んだり、いろいろ忙しそうなのだ。

 一方でかばんさんは座り込んでなにかをやっているのだ。一体何をしているのだ?

 ハカセはかばんさんが今座っているところをかまどって言っていたけど、なんのことだかさっぱりなのだ。

 あ!もしかしたら、人気者のひけつがそこに隠されているかもしれないのだ。お腹は空いているけど、ちょっと行ってみるのだ。


 着いたのだ。その前に、この前飛びついたことを謝らなきゃなのだ。


「あのかばんさん。この前はごめんなさいなのだ」


 かばんさんはアライさんの方をちょっとだけ見て、答えたのだ。


「いえ、いいんです。ぼくも、びっくりしただけなんで、気にしてませんよ」


 かばんさんは優しいのだ。黄色い奴の言うとおりかもしれないのだ。


「それで、今なにをしているのだ?」

「今はかまどで、火を焚いているんです」


 火?何なのだ?アライさんの知らないことだらけなのだ。

 アライさんの表情を察したのか、かばんさんは説明を始めてくれたのだ。


「火っていうのは、これですよ。かまどの中を見てください」

「分かったのだ」


 アライさんがかまどを覗き込むと、アライさんの両の手のひらより少し大きいくらいの、オレンジ色のメラメラがあったのだ。

 ああこれのことか。

 どんどん形が変わっていくのがけっこう面白いのだ。


「アライさん、怖くないんですか?」

「別に怖くないのだ。ビーバーの家で一回見たことあったのだ」

「すごいですね」


 なにがすごいのだ?もしかして、これが人気者のひけつなのか?

 そんなことを考えながらアライさんが火をじっと見ていると、突然下にあった木がぱんって音を立てて、小さいオレンジの粉を撒き散らしてきたのだ。


「うひぃぃい!!怖いのだあ!」


 アライさんは驚いていまって、かばんさんの後ろに隠れようとしたのだ。

 しかしかばんさんはアライさんの動きが予想外だったみたいなのだ。アライさんが急に背中に触ったものだから、かばんさんはびっくりして前へ倒れこんでしまったのだ。


「うわあああああ!!」


 叫び声を上げたかばんさんは、そのまま手をかまどの中に突っ込んだのだ。


「ぎいゃあああああああ!!!!!熱い熱い熱い!!」


 かばんさんは悲鳴を上げたのだ。


「助けて!!アライさん!手が抜けない!」


 かばんさんに助けを求められたのだ。でもアライさんはさっきの火の粉にびっくりして、それどころじゃなかったのだ。

 そのうちハカセと黄色いのがやって来て、かばんさんの手をかまどから出したのだ。

 そのあとハカセが怖い顔でアライさんに命令してきたのだ。


「アライグマ!すぐに冷たい水を持ってくるのです!」

「分かったのだ」


 ハカセがすごいけんまくで言うものだから、アライさんはお腹が空いているのを忘れて

 、ふらふらと近くの沢まで行ったのだ。

 そこでアライさんは両手で水をすくって、こぼさずにハカセたちのところまで持っていったのだ。


 戻ってもハカセは黄色い奴と一緒にかばんさんの手を見ていて、アライさんに気づいていなかったのだ。だからアライさんは自分の存在を主張したのだ。


「こぼさずに持ってきたのだー!」


 でも、ハカセは帰ってきたアライさんに文句をつけてきたのだ。


「何をやっているですかアライグマ!これでは全然足りないのです!このなべいっぱいに入れてくるのです!」


 全くハカセはフレンズ遣いが荒いのだ。

 アライさんはなべにすくってきた水を入れると、もう一回沢まで行って水をくんだのだ。

 おっと、いっぱいくみすぎてしまったのだ。

 これを運ぶのはお腹が空いた体にはちょっとツライのだ。


 どうしようかと思っていると、下から声が聞こえてきたのだ。


『ぼくにまかせて』

「ボス!」


 なんとボスが運んでくれるって言ったのだ。

 さすがこのボスはアライさんに優しいのだ。


 アライさんはボスの頭のカゴに、水をいっぱいに入れたなべを置いたのだ。


「ボス?運べるか?重くないか?」

『だいじょうぶだよ』


 ボスがそう言うなら大丈夫そうなのだ。

 ちょっと不安定だけどこのまま運んでもらうことにするのだ。


 アライさんはボスを連れてそのままハカセのところへ戻ったのだ。やっぱりみんなでかばんさんを介抱していたから、アライさんは自分の存在を主張したのだ。


「お水を持ってきたのだ!」


 そう言ってアライさんはボスの上からなべを取ろうとしたのだ。でも、そのときにバランスが崩れてなべをひっくり返してしまったのだ。

 そしてなべのお水は全部土に吸われてしまったのだ。任務失敗なのだ。これはごめんなさい案件なのだ。

 アライさんが謝ろうとしたらハカセはものすごく怖い顔で言ってきたのだ。


「もういいのです!私がかばんを沢まで運びます!!」


 そう言うと、ハカセはかばんを持って沢のほうへ飛び去っていったのだ。

 黄色い奴と助手も沢へ行ったから、アライさんも沢に行くことにしたのだ。


 〜〜〜〜


「大丈夫ですか?かばん」

「う〜ん、傷はひどく見えるけど、あまり痛くはないです。触った感覚もあまり無いですし」


 アライさんが着いたときにはかばんさんはハカセと沢で手を冷やしていたのだ。

 どうやら痛くないらしいのだ。大丈夫そうなのだ。


「かばん、それは逆にまずいのです。真皮の深層、あるいは神経まで焼けてしまっている可能性があります」

「そ、そうなんですか……」


 前言撤回なのだ。だいぶひどいケガみたいなのだ。


「薬草を採ってきた方がいいのです。たしか近くにいい薬草があるはずなのです。探して取ってくるのです」

「それなら私が行くよ!」


 ハカセの注文に黄色い奴が手を挙げて答えたのだ。アライさんも負けてられないのだ!


「アライさんも行くのだ!!」


 でも、ハカセは難しい顔をしてアライさんに言うのだ。


「アライグマ……お前は行かない方がいいのです」


 どうしてなのだ!?アライさんも薬草を取りに行ってあげたいのだ。


「お前が行ってもむしろ邪魔になるのです」


 うぅ……さっきから迷惑かけっぱなしだったのは分かっているのだ。でもそれとこれとは話が別のはずなのだ。

 あ、黄色い奴がそうだねとか言いながら頷いたのだ。何様のなのだこいつは。その後ハカセは続けて言ったのだ。


「しかしサーバルだけ行かせるのでは心もとない……付き添いが欲しいところですが、私もかばんの側で病状をみておきたいのです。はてどうしたものか」


 付き添いだけならアライさんでもいいじゃないか!と思った矢先、下から声が聞こえたのだ。


「ボクニマカセテ」


 アライさんのボスなのだ。

 でも、さっきまで聞こえてた声とは違った感じなのだ。どういうことなのだ?そんなことはお構いなしに、黄色い奴はアライさんのボスに話しかけるのだ。


「えぇー?このボスも喋れたのー?」

「ヒトニキキガアッタトキノミ、フレンズヘノカンショウガユルサレテイルノハ、ボクモオナジサ」

「よく分からないけど、そうなんだ!」


 ぐぬぬ……アライさんのボスなのに、仲良く喋るんじゃないのだ!

 アライさんはボスを地面から拾い上げて抱え込んだのだ。でも黄色い奴との会話は構わずつづくのだ。


「ボス!火傷に効く薬草ってどこにあるかわかる?」

「ケンサクチュウ……ケンサクチュウ……ケンサクカンリョウ。5kmサキニ、ビワガ、ナッテイルヨ。スコシトオイカラ、ジャパリバスデイコウカ」

「わかったよー!ありがとう。ボス」


 ボスはアライさんの腕から逃げるように飛び降りたのだ。そしてとしょかんの方向に歩き出してしまったのだ。

 いつもはアライさんに付いてきてくれたボスなのに、今は黄色いのの手伝いをしているのだ。アライさんのボスなのに……


 そんなことを考えてるうちに、黄色い奴はボスに付いて行ってしまったのだ。


「ま、待つのだ……」


 アライさんも黄色い奴に続いてとしょかんの方へ行ったのだ。走ろうとしたけど、アライさんお腹が空いていて、のろのろ歩きになってしまったのだ。

 だから黄色いのに追いついた時には、すでにボスは黄色いのと一緒に例の乗り物に乗っていたのだ。


「ボス!早くバス出して!!かばんちゃんが!」

「リョウカイダヨ」


 乗り物はバスっていうらしいのだ。

 アライさんのボスが返事をしたら、急にバスがブルブルと音を出し始めたのだ。

 もしかして、そのまま行ってしまうのか?


「い、行っちゃやなのだ。ボス……」


 気づいたらアライさんはバスの方へよたよたと走っていたのだ。


「シュッパツスルヨ」


 アライさんの声が聞こえないのか、ボスは確かにこう言ったのだ。


 イヤなのだ。


 アライさんはボスと離れたくないのだ。


 約束したのだ。かふぇでお茶飲むって。

 ずっといっしょだって。


 黄色いのと一緒に行っちゃうだなんて、ひどいのだ。


 もうひとりぼっちは、イヤなのだ。


「うわあああん!!ボスぅう!!」

「あ!危ない!!」


 どっぐ。


 鈍い、音がしたのだ。

 アライさんはバスに跳ね飛ばされて、そのままが地面に叩きつけられたのだ。


 痛みは、なかったのだ。

 でも、体が、動かないのだ。

 目も、霞んできたのだ。

 耳も聞こえなくなってきたのだ。


 薄れゆく感覚のなかで、アライさんのボスの声が聞こえた気がするのだ。


「あらいさん、ふたりでのたび、たのしかったよ」








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