第17話‼ 毒入りカレー事件(前編)なのだ!!
「オレはあまりうどんのことは知らないが、料理はサイキョーに得意だ。言ってくれればどんなことでも手伝おう」
「おおお……!頼もしいのだ!よーし、アライさんに付いてくるのだ!」
アライさんは張り切って掘っ建て小屋の中に入ったのだ。料理番のケンジも一緒に。
〜〜〜〜
「ここは意外とものが沢山あるのだな……」
小屋の中は見かけとは違って、キラキラした調理用具が所狭しと並べられていたのだ。
これならうどんを打つ道具も揃っているに違いないのだ。
「欲しいものがあったら何でも言ってくれ。ここには何でも揃ってるし、食材もたくさんあるからな」
料理番のケンジは言ったのだ。
じゃあお言葉に甘えて、頼むのだ。
「えっと……石で出来てて、くるくる回るやつを出して欲しいのだ」
「……??」
むっ。伝わっていないみたいなのだ。
「種を入れると粉が出てくるやつなのだ!」
「……!ああ!石臼のことか!待ってな」
料理番のケンジは収納スペースをごそごそと探って、大きな石の塊を片手で持ち上げたのだ。
「これでいいか?」
見ると、丸い形の石の真ん中に切れ目が入っている、確かに盗賊のケンジが持っていたのと同じものだったのだ。ケンジのやつよりふた回りは大きいけど。
「あ!それなのだ!ここに置いて欲しいのだ!あと、小麦も出して欲しいのだ!」
「了解だ」
料理番のケンジは石臼を机にドンと置くと掘っ建て小屋の奥へ進み、突然姿を消したのだ。
何事かと思ってケンジの方へ行くと、そこには階段があったのだ。
どうやら地下に部屋があるようなのだ。一応声をかけておくのだ。
「料理番のケンジー!そこにいるのかー?」
「ああ、地下に食料貯蔵庫があるんだ。もうちょっと待ってな」
「分かったのだ」
しばらくすると、料理番のケンジは階段から上がって来たのだ。その背中にはフェネックくらい大きい俵があったのだ。
「ケンジそれ、全部小麦なのか!?」
「ああ、80人前だ。ざっとこれくらい必要だろう」
「は、はちじゅう?!そんなに作らなければならないのか!?」
アライさんはびっくりしてしまったのだ。はちじゅうがどれくらいかは今ひとつわからないけど、とにかくいっぱいであることは間違いなさそうなのだ。
そんなにいっぱい作るの、一人で間にあうのか……?
「早く粉にしなきゃなのだ!!」
アライさんはケンジから小麦をひったくると石臼の中に入れたのだ。
アライさんは頑張って重い石臼を回したのだ。大急ぎで回したつもりだったんだけど、粉はなかなか出てこないのだ。早くしないと間に合わないのに!俵の小麦を全部粉にするのにどれだけ時間がかかるのだ!?
「これじゃダメなのだ!料理番のケンジ!すでに出来てる粉はないのか!?」
「粉か?あるっちゃあるが……」
「それでいいのだ!早く出すのだ!」
料理番のケンジは机の下から大きな袋を出すと、説明を始めたのだ。
「これは南蛮モノの植物の種や実を色々混ぜて粉にしたもので、カレー粉と言うらしい。使いどころに困っていたんだが……薬膳にするならいいかもしれないな」
「ありがとうなのだ!これを使ってみるのだ!」
アライさんは出された袋を開けてみたのだ、すると中から香ばしい香りが漂ってきたのだ。
……?
この匂い、どこかで嗅いだ気がするのだ。そう、ジャパリパークのどこかで確かに嗅いだはずなのだ。でもどこでかは思い出せないのだ。うーん……しかもなにかすごく嫌なことがあった気もするのだ。
「アライさん?大丈夫か?」
「な、なんでもないのだ!早くとりかかるのだ!」
アライさんは床に置いたタライに大量のカレー粉を入れたのだ。次はえっと……そうなのだ、海水なのだ。
「料理番のケンジ。海水はどこにあるのだ?」
「海水?そんなのここにはないな。……ん?待てよ?」
料理番のケンジは少し考えこんだあと、桶を持ってきたのだ。
「豆腐作るときに使う、『にがり』だ。確かこれ海水だったはずだ」
「流石なのだ!ありがとうなのだ!」
アライさんは桶のにがりを全部タライの中に入れたのだ。次はこれをこねるのだな。うどん作りはここからが本番なのだ。流石にこの量を手でやるのは無理があるから、最初から足でやるしかなさそうなのだ。
アライさんは裸足になると、タライの中に入ったのだ。そこで湿ったカレー粉を踏みしめたのだ。
足を動かすたびに茶色いのがぐちゃぐちゃと音を立てるのだ。
「絵面がギリギリだな……」
「うるさいのだ!ウンコ踏んでるみたいだなんて言うななのだ!」
「そんなに直接言ってない」
ともあれアライさんはカレー粉を踏み続けたのだ。そのうちカレー粉はまとまるようになってきたのだ。前に作ったうどんと比べたら全然もちもちしていなかったけど、まあなんとかなると思うのだ。
えっと……次の作業は……
「寝かせるのだ。二時間待つのだ」
「ちょっと」
アライさんの発言に料理番のケンジが待ったをかけてきたのだ。なんなのだ?アライさんは足を拭きながらタライを出て、料理番のケンジの方へ行ったのだ。
「アライさん、夕方まであと一時間くらいしかないぞ?二時間も放置してたらとても間に合わない」
「何ぃ!?」
「あと、麺は良いとして、汁はどうするんだ?うどんには汁が必要と聞いたぞ?」
「ふぇ?えっと……海水だと思うのだ!」
「そうなのか?オレは違うと思うぞ」
「いや海水で合っているのだ!アライさんのうどんはしょっぱかったから汁は海水で違いないのだ!素人は黙ってろなのだ!」
アライさんが語気を強めると料理番のケンジは困った顔して言ったのだ。
「うーん……仮に海水だったとしても、もうにがりがないぞ?さっき全部使ってしまった」
つまり、材料がないってことなのか!?
これはかなりまずい状況なのだ。一刻も早く調達しに行かないとなのだ!
「料理番のケンジ!アライさんは海水を汲みに行ってくるのだ!ちょっと待っててほしいのだ!」
「はあ!?待て!」
アライさんは手桶を手に取ると大急ぎで、掘っ建て小屋から抜け出したのだ。
〜〜〜〜〜
「ただいまなのだ……」
アライさんは掘っ建て小屋に帰ってきたのだ。
「お?海までいけたか?あと二十分あるし、かまどの準備もして湯も沸かしておいた。急げば間に合うかもしれん」
何も知らない料理番のケンジは落ち着いた顔で言ったのだ。アライさんは黙って空の手桶を見せたのだ。
「おいアライさん……お前……」
「ごめんなさいなのだああああ!!!」
アライさんはお城で迷子になってしまって、結局町まで出れずに戻ってきたことを伝えたのだ。
海水も手に入らなかったし、時間もない。大ピンチなのだ……
「なあ料理番のケンジ……なんとかならないか?」
「アライさん。これは俺の経験則だが、汁は味噌か醤油だ。入れれば大抵のものは食えるようになるからな。諦めるには早いぞ。最高のうどんをつくろう」
料理番のケンジはそう言って手を差し伸べてくれたのだ。
「料理番のケンジ……そうだな。まだまだこれから、ここが粘りどころなのだ!!」
「その意気やよし!」
アライさんはケンジの手をとって立ち上がると、次にすることを伝えたのだ。
「さっき踏んで作ったうどんを茹でるのだ。その前に細長く切るのだ」
「了解だ。包丁の扱いはオレが慣れてる」
そう言うと料理番のケンジは茶色いうどんを麺の形になるように切ったのだ。
アライさんはその様子を横目で見ていたんだけど、盗賊のケンジと一緒に作ったときと違ってうまいこと切れないみたいだったのだ。
「すまん……千切りみたいになっちまった……」
「まあいいのだ。麺に見えなくもないのだ。よし!茹でるのだ!」
釜の中にはお湯がいっぱいにぐつぐつ煮立っていたのだ。時間がないので切ったうどんを一度に全部入れるのだ。バシャンと音を立ててお湯に入ると、鍋にいれたうどんは踊りだすのだ。アライさんこれを見るのがうどん作りの楽しみだったりするのだ。
しかし。
「……っんん??!」
アライさんは目を疑ったのだ。なんと鍋の中で元気に泳いでいたうどんが、みるみるうちになくなっていくのだ。
な、何が起こっているのだ!?
「うあああああー!!!うどんがー!!」
「バカ!落ち着け!」
アライさんが鍋の中に手を突っ込もうとしたところを、料理番のケンジに取り押さえられたのだ。
「離すのだ!うどんが消えちゃうのだ!」
「ヤケドするぞ!離れろ!」
アライさんはジタバタしながら、涙ながらに訴えたのだ。
「嫌なのだ!返すのだ!……うどんを、返すのだ!アライさんが頑張って作って、ケンジもいっぱい手伝ってくれて、まだお話したいことも……一緒に食べたいところも……、うぅ……返すのだ!!」
「おい!」
アライさんは料理番のケンジを振り切ると、鍋の中を覗き込んだのだ。
「あ……あぁうあ……うどんがあ……アライさんのうどんがぁ……」
鍋にはカレー粉の匂いがする茶色い液体だけが入っていたのだ。
こんなのうどんじゃないのだ。
でも、アライさんは、諦めきれないのだ……。
アライさんは菜箸で鍋をかき混ぜてうどんが残っていないか確かめて見たのだ。なんかどろどろしているし、うどんは欠片も残されていなかったのだ。
がっくりと項垂れていたところに、検事のケンジが現れたのだ。
「ハローアライさん!うどんはできたか?おぉっと?こいつはいい匂いだ!」
検事のケンジはずかずかと入ってきたかと思えば、勝手に鍋に近づいて匂いを嗅いでいたのだ。
「オゥ!今まで嗅いだことのない香ばしい匂い!ぱっと見うどんには見えないが、滋養強壮の効果は有りそうだな!運ぶのヘルプするぞ!」
検事のケンジは有無を言わさずに鍋を持ち上げるとお城へ運んで行ってしまったのだ。
「うわあ……どうしようなのだ……」
「もう仕方ないな。なるようになれだ。アライさん。食器を運ぶから手伝ってくれ」
「……そうだな。匂いを嗅ぐに問題なさそうなのだ。なるようになるのだ」
料理番のケンジはおわんをたくさん持つと、お城の方に向かったのだ。アライさんもおわんを持てるだけ持って付いて行ったのだ。
〜〜〜〜
「……ふぅっ。なんとか間に合ったな」
アライさんたちは畳が何十畳もあるような部屋で、食事の準備をしたのだ。
と言っても、実はアライさんはほとんど何もしなかったのだ。料理番のケンジが並べた皿に、検事のケンジがよそうだけ。アライさんが作った茶色い汁の他にも、ご飯と漬物が用意されたのだ。
一通り準備を終えた料理番のケンジが手に持っていた鐘を鳴らすと、偉そうな人たちが次々と部屋に入ってきたのだ。
この城にはこんなにもたくさんの人がいるのか。
「アライさん。俺達は食事が終わるまで隅で待機だ」
「分かったのだ」
言われた通り隅で待っていると、ひときわ偉そうな奴がずっしりした足取りで入ってきたのだ。
「料理番のケンジ。アイツは誰なのだ?」
「バカ!あの方こそが殿様のケンジ様だ!」
ああ。あいつが話に聞く殿様のケンジか。検事のケンジが言っていたとおり茶色い髪がボサボサで、まるでライオンのたてがみみたいなのだ。それよりも気になるのは、殿様のケンジの顔色があまり良くないことだったのだ。人の上に立つことは案外疲れることなのかもしれないな。後でマッサージをしてやってもいいのだ。
そんなことを思っていると、殿様のケンジがしゃべり始めたのだ。
「皆のもの!今日も良く働いてくれた!」
殿様のケンジはその顔色からは考えられないほど大きくてしっかりした威厳のある声を出したのだ。疲れているなんて全くなさそうだな。前言撤回なのだ。
「今日は検事のケンジの計らいで、城下町で話題となっているうどん店の料理人が一品振る舞ってくれたそうだ。皆のもの感謝するように。それでは、いただきます」
「いただきます」
殿様のケンジが言うと、周りが声を揃えていただきますを言ったのだ。でも、しばらくしても、誰も料理に手をつけないのだ。いただきますを言ったのに、どういうことなのだ?
「殿様より先に食事に預かるなんてできないだろ?」
料理人のケンジはそう言ったけど、アライさんは今ひとつ納得できなかったのだ。なんであのボサボサ髪に合わせないといけないのだ?
アライさんは殿様のケンジをじっとみてみたのだ。
殿様のケンジはアライさんたちの作ったうどんのようなものが入ったおわんを持ち上げると、匂いを嗅いだのだ。
「これは、嗅いだことのない香りだな」
早く飲めなのだ。匂いの評価は上々だから味の評価も気になるのだ。
それにしても殿様のケンジも嗅いだことのないカレー粉とはどれだけ珍しいものなのだ?掘っ建て小屋にあったのが不思議でならないのだ。
「いただこう」
殿様のケンジがおわんに口を付けたそのとき、予想だにしないことが起こったのだ。
「うっ……グ」
殿様のケンジはうめき声を上げたかと思えばドサリと前に倒れたのだ。
大きなお部屋が静まり返ったのは一瞬。
次に瞬きしたときには周りの人たちが殿様のケンジを囲んで大騒ぎを始めていたのだ。
「殿ぉぉ!」
「毒を盛られたのか!?」
アライさんも殿様のケンジの様子を見に行こうと近づこうとしたら、とんでもなく強い力で肩を掴まれたのだ。
一体なんなのだ!?
そちらを見ると鬼の形相の検事のケンジがいたのだ。
「貴様ぁ……とんでもないことをしてくれたなあ!」
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