第20話!! 人相書きと村の伝説なのだ!


毒入りカレー事件が一件落着した後、アライさんや賢者のケンジ、剣士のケンジ、盗賊のケンジ、寡黙のケンジは殿様のケンジの部屋へお呼ばれされたのだ。


「アライさん。本当に申し訳ないことをした。心から詫びよう」

「殿様のケンジ様よお。お前さんが最初から疫病であることを打ち明けていれば、アライさんが罪に問われることはなかったんだぜ?」

「面目ない。プライドに弱った姿を晒すわけにはいかなかったのでな」


盗賊のケンジが殿様のケンジに詰め寄って文句をつけていたのだ。これに関してはアライさんもそう思うのだ。

でもこの様子を見ていた賢者のケンジは盗賊のケンジに近づいて言ったのだ。


「盗賊のケンジさん。あなたがアライさんを誘拐したんですよね?あなたが町に連れてこなければ、アライさんがこんなことに巻き込まれることはなかった。違いますか?」

「い……いやそれは……別問題じゃねぇか?なあ、アライさん?」


盗賊のケンジは突然アライさんに話を振ってきたのだ。言われてみればそんなような気がするけど、いつまでもそんなことを議論している場合ではないのだ。アライさんには別の目的があるのだ。


「殿様のケンジ!人相書きを作ってほしいのだ!」

「人相書きか?分かった。すぐに手配しよう」


殿様のケンジはそう言うと、絵描きのケンジを呼んだのだ。アライさんが白い客の特徴を話したら、絵描きのケンジは白い客の似顔絵を描いてくれたのだ。アライさんは言葉でしか説明してないのに、どうしてこんなにうまくかけるのか、不思議なくらい似ている絵だったのだ。


「絵描きのケンジ。よくやった。もう下がって良いぞ」


絵描きのケンジは殿様のケンジに一礼すると、部屋から出ていったのだ。殿様のケンジは仕上がった人相書きをちょっと見て言ったのだ。


「アライさん。何故、この者を探している?」

「コイツが来てからフェネ……アライさんの仲間がいなくなってしまったのだ。だから探して居場所を聞き出すのだ」

「なるほど。承知した。ではこれを明日までに城下町中に貼りだそう」

「ちょっと待ってください」


遮ったのは賢者のケンジだったのだ。


「僕はこの人を見たことあります」

「なにー!?」


何と賢者のケンジは白い客を知っていると言うのだ!いろいろ知っていてすごいなと前から思っていたけど、こんなことまで知っているなんて、やっぱり賢者のケンジはすごいのだ!早く誰なのか教えるのだ!


「この方は、黄金稲荷のオイナリサマです。僕の村に伝わる伝説に出てくる神様です」

「……は?」


アライさんは突拍子もないことを聞いてしまって、思わず目が点になってしまったのだ。

伝説?神様?賢者のケンジは何をらしくないことを言い出すのだ?アライさんは確かにコイツを見たし、第一神様がうどん屋に来るなんてありえないのだ。物事はマトモに考えなくちゃダメなのだ。


「いえ、そんな顔しないで下さい。本当に。僕が昔母に読んでもらった絵本に出てきた神様にそっくりそのままなのです」

「何を言い出すんだ急に?アライさんは真面目に探しているんだぜ?ふざけるのも大概にしろよ?」


盗賊のケンジの言うとおりなのだ。でも賢者のケンジの次のセリフでアライさんは信じざるを得なくなったのだ。


「アライさん……その白い客は、きつねうどんを食べていませんでしたか?」

「……!」


確かに食べていたのだ。おいしそうに。


「なにか不思議な力を持っていませんでしたか?例えば、」

「手が光ってたのだ!!」


アライさんが興奮気味に答えると、賢者のケンジはやはり、とでも言いたげな顔に変わったのだ。


「アライさん。今から話すのは僕の村に伝わる黄金稲荷の伝説です。おそらくこの人相書きの手がかりがあるでしょう。しっかり聞いててくださいね」

「分かったのだ」


賢者のケンジの長いお話が始まったのだ。



〜〜〜〜



昔々、黄金山の麓にある美しい村、フモト村でのお話です。

ある日、出稼ぎにでていた一人の男が帰って来ました。その名前を新井ケンジといいました。

ケンジはあまり裕福ではなかったので、帰ってきてから一生懸命畑仕事に精を出していました。

村の人は彼を働き者として評価しましたが、彼は「自分のためにやっているのではない」と謙遜するばかりでした。

しばらくして、平和だった村に突然一つ目妖怪が現れました。それも一匹ではなく、たくさんです。村の人たちは全員怯えて、村から逃げました。

一つ目妖怪が去り、村人が戻ってきたときには、村の畑はほとんど荒らされて作物が取れなくなっていました。しかしケンジの家の畑だけはそのまま、残っていました。

村の人たちは怪しみました。


「どうしてケンジのところだけ無事なんだ」

「怪しいぞ。調べてみよう」


村の人たちがケンジが留守の間家に押しかけると、そこには耳が4つある女の子がいたのです!

村の人たちはこれを気味悪がり、この子が一つ目妖怪を呼び寄せたとして、その女の子を村から追い出してしまいました。

それからと言うもののケンジは以前よりも仕事に精を出さなくなりました。また、一つ目妖怪も度々村を襲うようになりました。

村人は再びケンジを疑いました。


「妖怪を呼び寄せているのは、あの女の子ではなく、ケンジだったのでは」


ケンジはこれを否定しませんでした。


ある日村人の誰かが、懐にきつねうどんを携えて黄金山を登るケンジを見かけました。村人が隠れてあとについていくと、山の頂上の小さな社にたどり着きました。

ケンジがその社にきつねうどんを供えると、中から例の4つ耳の女の子が出てきました。


「やはり4つ耳の女の子が妖怪を呼び寄せているんだ!」


村人は山を降りて他の人を呼びに行きました。他の人はすぐに駆けつけて、武器を持って小さな社を取り囲みました。

ケンジは驚いて周りを見渡します。四つ耳の女の子も怯えています。

そのうち、村人の誰かが言いました。


「その女が誰なのか、言え!」

「この人は、オイナリサマです。みんなの願いを叶えてくれるのです」


ケンジの答えに、皆はさらに怪しみました。


「願いを叶える?それは本当なのか?」

「本当です。『人間』が祈る力で、願いを叶えてくれるのです。僕の畑が無事だったのもそういう訳です」


オイナリサマはうなずきました。


「じゃあ、俺達の願いを叶えろ!」


村人たちは口々に言いましたが、オイナリサマは首を横に振りました。村人たちは祈っていないのですから、願いが叶えられるはずがありません。

そこで村人たちはケンジに提案しました。


「村に一つ目妖怪が出てこないように願ってくれないか」


この提案に、ケンジは悩みました。

もしこの願いが叶わなかったら、批判はオイナリサマに向かい、殺されてしまうかもしれません。そうでなくとも、周りの村人は武器を持っていきり立っています。ケンジは迷った末に、オイナリサマに願いました。


「君たちが平和に生きられる『皆が幸せになれる世界』を作ってくれ!!」


するとどうでしょう!

社が金色に光ったかと思えば、社の周りにいた人間たちが跡形もなく消えてしまったのです!

オイナリサマは悲しみました。

というのも、ケンジも消えてしまったからです。

ですがオイナリサマは『皆が幸せになれる世界』を作る力を得ました。彼女はその力を使い、消えたケンジへの罪滅ぼしとして、一つ目妖怪をすべて黄金山に集め、村には二度と出てこないように閉じ込めました。


黄金山の頂上には今でも金色の社があり、オイナリサマは今でもそこで暮らしているといいます。もしそこまで行けば、あなたの願いを叶えてくれるかもしれません。



〜〜〜〜



「……という話です」


賢者のケンジの長話がようやく終わったのだ。

アライさんは途中うとうとしてしまって、あまり聞けていなかったけど、ようは願いを叶えるとかいう、そのオイナリサマってやつが黄金山の頂上にいるということなのだな。

オイナリサマは人を消す力を持っているとか言っていたし、フェネックが消えたのもきっとそういった訳かもしれないのだ。

そうと決まればやることは一つ。黄金山の山頂に行って、オイナリサマに会うのだ!


「早速行くぞ!賢者のケンジ!」


アライさんが意気揚々と出かけようとしたとき、賢者のケンジがアライさんを引き止めたのだ。


「ちょっと待って下さいアライさん。黄金山は一つ目妖怪がうようよいるんです。ちゃんと準備を整えてから行かないと……」

「賢者のケンジはいちいちうるさいのだ!セルリアンなんてアライさんがやっつけてやるのだ!アライさんは世界一の人気者なんだぞお!そのくらい余裕なのだ!」

「……全くアライさんはこうなったら聞かないんだから。剣ちゃんも来てくれますよね?」

「ああ。賢ちゃんが行くならついていく。それに俺も願いを叶えて貰いたいからな。世界から疫病をなくすんだ」


それまで黙っていた剣士のケンジがすっくと立ち上がりながら言ったのだ。しかしコイツらはいつから『ケンちゃん』などと呼び合うような仲になったのだ?しかも両方同じ名前で同じあだ名なんて。……せっかくあだ名をつけるなら別々のにすればいいのにと思ってしまうのだ。


「盗賊のケンジさんはどうするんですか?うどん屋がありますよね?」

「いや、ケンジ様も行く。ケンジ様にも叶えたい願いがあるからな」

「分かりました」

「待てよ賢ちゃん!人攫いと一緒に旅をするなんて、俺はゴメンだぞ!」

「いえ、人数は多いに越したことはないです。それにアライさんは無事に生きてますし、手紙には悪いことは書いていませんでした。そこまで悪い人ではないですよ」

「まあ、賢ちゃんが言うなら間違いないか」


剣士のケンジは納得したようなのだ。盗賊のケンジも一緒に行くなんて、予想してなかったからびっくりなのだ。そのうち剣士のケンジは寡黙のケンジを指さしながら言ったのだ。


「後ろのそいつも連れていくのか?」

「ああ、ケンジ様の相棒だからな。しゃべらないけど、頼りになるんだ。足は引っ張らないだろう。お前とは違ってな」

「なんだと!」


剣士のケンジと盗賊のケンジはあまり仲良くなりそうにないのだ。この二人の仲裁に殿様のケンジが威厳ある声で入っていったのだ。


「落ち着け!群れとしての強さを持たなければあの山の頂上までは決して辿り着けないぞ!本気でオイナリサマに会いに行くなら協力することだ!」

「はい……」


盗賊のケンジと剣士のケンジはシュンとして言ったのだ。

協力、か。アライさんは大所帯で旅をしたことは今までなかったからちょっと不安だけど頑張るのだ!


「我は城のことがあり行くことはできんが、気を付けて行ってきてくれ」

「任せるのだ!」


かくして、アライさん、ケンジ、ケンジ、ケンジ、ケンジの5人の登山の旅が幕を開けたのだ。

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